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6.先生も“こうりゃくたいしょー”の一人らしい






「レベッカ・コールウェル。15分の遅刻だ」

「申し訳ありません!」

よたよたと無様に足をかばいながらも、先生が一人しかいない教室内に入る。




「どうした、満身創痍だな」

「転びました」

「そうか。じゃあ、今日は座って出来る授業だな。この授業が終わった後に、保健室に行って治してもらえ」

「はい」

黒板を背に立っていた先生が軽く頷いて、一番前の椅子をくるりと反転させて座った。

顎で示されて、そのすぐ後ろの席に座る。お互いの距離が近くて、心なしか後ろのめりになった。



ジュスト・クルシュマン。

燃えているように赤い髪、太陽みたいな橙色の瞳、粗暴ながらにも整っている外見を持っている彼は、異例の若さで王宮魔法師長に就任したエリートである。炎と緑の二属性持ちで、外見からはまったく予想できないがとてつもない研究好きだ。

そのため、属性不明の私にとても興味を持ち、王宮での仕事を一時中断してまで私の魔力の研究をしてくれていた。この学校に入学してからずっと、魔法の属性についての知識を習う“魔法学”と実技練習をする“魔法実技学”では一対一の授業をしてもらっている。私は普通の授業を受けてもまったく意味がないため、私がどんな魔法属性に当てはまるのか二人で思考錯誤しているのだ。

今のところ、成果はゼロだけど。

そして、示し合わせたように彼も例の“こうりゃくたいしょー”の一人であるらしい。

私は非常に複雑だ。

私にとっては、先生は私を無視したり蔑んだりもせずに一緒にいてくれる数少ない存在だ。だから、いつもこの授業は楽しく受けられていた。

でも先生が“こうりゃくたいしょー”ということは、この授業内でも殺される可能性があるということだ。気を引き締めないといけない。

…本当に複雑である。




「それじゃあ、まず今までの研究結果の確認からだな!」

「は、はい」

心なしか、先生の周りの空気が暑苦しくなった気がする。

炎属性なだけに。

このまま先生が暴走すれば、私は火だるまエンドだ。なんちゃって。

‥‥笑えない。

「この前、お前の魔法のテストをしたよな。俺がお前に炎で襲いかかった時、お前は無事に炎を抑えた。ただし、自分で熱を集めることも火を作り出すことも出来ないから火属性とは言えないことが分かったな」

「…その通りですね」

火属性。

炎の使い手であり、太陽と密接な関わりを持ち熱魔法と光魔法を扱う。火属性は将来の職業に魔戦士を選ぶ人が多い。魔戦士とは、騎士と一緒に魔法を使って国を守る職業のことである。

「その前の授業では、識属性に関してやったな。だが、まったく使えなかった。よってその属性でもない」

「‥‥はい」

識属性。

思考の使い手であり、予言や死霊魔法、幻魔法など一番複雑な魔法を使う。ちょっと複雑すぎて私はまだその魔法論を理解できていないけれど、なんか第六感的なものが優れている人々だと思っている。将来の職業としては預言者や占い師になる人が多いそうだ。

「先週は土を触らせてみたが、形状変化すら出来ないから土属性でもないな」

「…はい」

土属性。

別名、緑の使い手。大地と密接な関わりを持ち、土魔法と緑魔法を使う。動物ともとても愛称がいい。将来の職業としては獣使い、薬師、庭師などになる人が多い。

「水に関しても才能の欠片もなかった」

「…はい、」

水属性。

生命の担い手とも呼ばれる。水と密接な関わりを持ち、水魔法と治癒魔法を使う。将来の職業としては圧倒的に治癒師になる人が多い。

「そして、最後の風だが。風は俺の専門分野じゃないから断言はできないんだが…。お前は、風読みすらできないからどうもな…」

「す、すみませんでした」

風属性。

空の使い手であり、風・空間と密接な関わりを持つ。風魔法や結界魔法、天気魔法などを使う。将来の職業としては天導師や環境師などになる人が多い。

そして、その風属性がよく扱うのは風読み。

風読みとは、文字通り風を読む技術である。風が運んできた感情、匂いを読むことによって、吹いてきた方向にあるもの、そこで行われている出来事などを知ることができる。

風属性ならばみんな使える、基礎中の基礎魔法だ。

言い換えるならば、風読みを使えないなら風属性ではない。

「お前は風属性でもないだろうな。才能ないからな」

悪気ないはずの先生の言葉がグサグサと胸に突き刺さる。

「…つまり?」

「まったくお前の属性については分からない」

今までと何も変わらないじゃん!

研究結果報告する意味あった⁈

ガクッと机の上に突っ伏す。ちょっと期待していただけに、このがっくり感はひどい。ひどすぎる。

「まあそう落ち込むなよ。たぶんまだ出来てないだけで、お前の中には誰にも出来ない魔力が秘められてるんだからな」

「…もしかしたら、何も秘められていないかもしれませんよ」

なんせ、ただたんに測定板についている魔法石が白色に光っただけなんだから。

魔法属性の測定には、魔法石が埋め込まれている測定板を使って行われる。この測定板には五つの石が埋め込まれていて、土属性ならば右下の石が茶色に光り、水属性なら真ん中の石が青色に、火属性なら左下が赤に、識属性なら左上が緑に、風属性なら右上が紫に光る。

だから、先生の時は左下の石と右下の石が赤と茶色に光り、全属性のリュカ・ヘイル様の場合は全ての石がそれぞれの色に光った。

今まで、一回も測定板の石が違う色に光ったことはない。

―――――私までは。




「でもお前の場合は全部の色が白に光輝いたじゃないか。どこか特別なところがあるはずだ」

「きっとあの測定板が壊れていたんですよ。だから、私は実は火属性だけど魔力が少なすぎてちゃんと扱えないだけですって」

「夢がないことをいうな、レベッカ・コールウェル!」

「夢というか、」

「大丈夫だ、お前なら新たな属性の開拓ができる!」

別にできなくてもいいんだけど。

困ったな、自虐してたら先生がまた変な方向にヒートアップしちゃった。

「よし、今日は新しい属性の開拓をする。よく考えれば、お前は今までとは違う属性だったな。なら、お前がどの属性に当てはまるかを考えるのは本末転倒だった。今までの時間は全部無駄だったな」

「先生?!」

そんなほがらかに無駄だったとか言わないでほしいんですけど!

「よし、新しい属性を開拓してみろ」

「そんなことを言われても‥‥。何をしたら開拓になるのかまったく分からないんですけど」

「そうだな。じゃあ、お前はとりあえずなんか、魔力を手に集めてみろ」

「…魔力なんて何も感じられないんですけど」

「なら、手に熱を集める感じでやればいいんだ。とりあえずやってみろ」

「…」

無駄だと思うんだけどな。

そもそも、魔力は体の中にあるものらしいんだけど。私には、まずそれすら感じられない時点で魔法を使う事なんて出来ないんじゃないんだろうか。

未来が真っ暗だ。

でも、先生に逆らうことが出来るわけもなく。ため息をしつつ、手を広げてそこに熱を集めてみようと意識を集中させた。






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