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3.私は、ゲームの世界の“ひろいん”らしい






「―――それで、この世界は“はなのいのち~えいえんのなんとか”とかいうゲームで、私がその“ひろいん”なんですね?」

「“華の命~永遠の愛を君に~”ですが、まあ、その認識であっていますわ」

どうにもよく分からない。




またテーブルに座り直し、冷え切ったハーブティーを飲みながらもロレーナ・マッケンジー嬢の話を聞く。

「そのゲームとは、どういうものなんでしょう?申し訳ありませんが、ゲームというとチェスしか思い浮かばなくて。“ひろいん”とは、私がそのゲームのキングということでしょうか?」

「いえ、私のいっているのはチェスではなく乙女ゲームのことですわ。まあ、相手を自由に選択できる恋愛小説のようなものだと考えてくださいな」

「恋愛小説」

「はい。そして、その主人公は貴女です」

「‥‥」

どこかの世界で、私がいろんな男性と恋愛関係になる小説があるってこと…?

気持ち悪っ。

想像するだけで鳥肌がたつ。

「レベッカ様の攻略対象、あ、恋愛する相手は五人いますわ」

「五人も…‼」

多すぎじゃない?!

その小説の中の私って、どれだけ恋に落ちてるの!?

「そして私は、レベッカ様がそのうちの一人のお方と恋愛関係になる時に邪魔することになる、悪役令嬢ですの」

「“あくやくれいじょう”?」

「性格がひどく悪くて汚い令嬢のことだと思ってくださいな。ゲームの中の私はとにかく、レベッカ様を虐めるんですの」

「それはつまり、今までのようなことをなさっていると?」

「ええと…、その、今までのことは本当に申し訳ないと思っていますわ。でもともかく、ゲームの中の私は物凄くレベッカ様を虐めたので、最終的には処刑されるようになりますわ」

「まさか。私はただの庶民ですよ?仮にロレーナ・マッケンジー様が私を殺してしまったとしても、処刑になんてなりませんよ」

「あ、いえ、」

罪に問われるかどうかも怪しいくらいだ。

荒唐無稽な話に少し笑うと、ロレーナ・マッケンジー嬢が物凄く曖昧な表情を作った。

「どうしたんですか?」

「それが、私が処刑されるルートでは、私はレベッカ様を庇った人を傷つけてしまうのですわ」

「あら、」

「それが、フランシス・セウェル様ですの」

「フラ、フランシス・セウェル様!?」

予想外の言葉に目を見開く。

フランシス・セウェル様といえば、セウェル侯爵家の次男だ。完全な貴族であり、成績も魔力もトップクラスの非常に将来有望な人だ。その人をうっかり殺しかけてしまったなら、やりすぎには思えるけど処刑も現実味を帯びてくる。

…というか、私はなんでそんな人と恋愛関係になる小説の話をされなければいけないのか。想像するだけで、不敬罪として首が吹っ飛びそうだ。文字通り。

「それ、ロレーナ・マッケンジー様だけでなく私の首も飛ぶような気がするんですが」

「あら、心配はいりませんわ。彼はただの、レベッカ様がお付き合いなされる方の一人というだけですから」

「‥その表現はやめていただけませんか」

もうなんだか気力が尽きて、ガクリと力なく肩を下ろした。




ーーーーーーーーいやでも、フランシス・セウェル様といえば。

ロレーナ・マッケンジー嬢の、現実の想い人じゃなかったっけ?

私がフランシス・セウェル様とただ廊下ですれ違っただけで平手打ちを受けたことがあるんだけど。あれは結構ヒリヒリして痛かったし、理不尽すぎて記憶に食い込んでいる。

そう思って顔を上げれば、私と同じことを思ったのか、彼女も苦笑いを浮かべていた。

「安心してくださいな。もう、私はフランシス・セウェル様をお慕いしてはいませんから」

「そ、そう…、なんですね」

「そうですわ!だから、私はレベッカ様が誰をお慕いしていようとも誠心誠意お手伝いいたします!」

いや、それはいらないです。

それに、私はまだロレーナ・マッケンジー嬢の話を一から十まで信じたわけではない。

確かに、ギルーーー私の幼馴染のギルバートと私の出会った時の話を知っているなんてロレーナ・マッケンジー嬢が私のストーカーをしていたか、この世界がその恋愛小説か、ゲーム?かでもないと信じられない話だけど。

でもこの世界がお話の世界だなんて。こんなに全てが現実感があるのに。

とてもじゃないけど信じられない。

前世の話なら、別段信じてなくても流せるけれど。

私が関わってくるとなると、簡単に賛同すると大変なことになる気がする。

疑心の目を向けると、ムッとしたようにロレーナ・マッケンジー嬢が頬を膨らませた。

「もう、そこまで信じていただけないかしら!確かに、貴女がヒロインで私が悪役令嬢だなんて荒唐無稽な話なのは分かりますけれど!」

あ、荒唐無稽な話だということは分かっていただけているんだ。それに少し安心しながらも口を開いた。

「いえ、ロレーナ・マッケンジー様が“あくやくれいじょう”なのは十分理解できます」

「ええぇっ?!」

わざと感情を逆撫でするような言い方をして、ギョッとしたような表情を浮かべた彼女を注意深く観察する。

「フランシス・セウェル様の婚約者でもないのに彼に四六時中つきまとい、少し話をしただけの私に殺意を向け、半殺しにするなど正気の沙汰ではないと常々思っていたので」

「うっ、」

「禁止されているはずの氷魔法を使っての攻撃、典型的だけど地味に嫌な気分になる物を隠すなどの行為、学校鞄を氷漬けにして全部だめにするなどとても工夫を凝らされたいじめの数々、よくもここまでアイディアが出ると感心してました」

「ごめんなさい!」

ガン、と机に頭を勢いよくぶつけながらも謝罪するロレーナ・マッケンジー嬢。

こんなに馬鹿にしたような口調で責めたのに、怒るどころか申し訳なさで再度顔色を悪くしている。

やっぱり、別人?

庶民に馬鹿にされて、いくら演技でも黙っていられるほどロレーナ・マッケンジー嬢は穏やかな人じゃない。

まあ一応、私には伯爵令嬢という肩書があるけれども。

「まあ、それはともかく。話を戻しても大丈夫でしょうか?」

「え、ええ」

こんな事で悩んでても仕方ない。とりあえずは受け入れ……たフリをして、その後対策を探ろう。

「この世界がその“華のなんとか”という恋愛小説の世界だと仮定させて頂きます。それは“ひろいん”である私が何人かの男の子と恋愛をする、ということで間違いありませんか?」

「“華の命~永遠の愛を君に~”ですわ!どんどん適当になってる気がするんですけれど…………。まあ、いいです。レベッカ様のいうとおりですわ」

「なら、どうして私が殺される可能性が高くなるんでしょうか?主人公が死んでは、お話が続かないのでは?」

「甘いですわ、レベッカ様」

どういう意味でしょう。





「この、“華の命~永遠の命を君に~”は題名から察せられる通り、華のように儚い命、それを乗り越えた先になる深い愛情がテーマですわ。つまり、私たちプレイヤーにとってはあまりにも難易度が高くなっていますの。ああ、あの苦しんだ日々!」

「…………」

「このゲームは、裏では“死にゲー”といわれるほどにヒロインが死にますの。それはもう、ありとあらゆる方法で死ぬのです。とにかく死んでしまいますのよ。視察、毒殺、撲殺、絞殺などは当たり前、暴れた馬の群れに押しつぶされて死ぬ、胴体を真っ二つに切られる、力を抑えきれずに内側から爆発して死ぬなどの悲惨な死に方もありますわ。それだけではなく、転んだ打ちどころが悪くて死亡、なんてこともありますの」

「……それ、本当に恋愛をするお話なんですか?」

「恋愛ゲームですわ」

「……過酷すぎではないでしょうか」

ロレーナ・マッケンジー嬢が前に生きていた世界はどんな場所なんだろうか。

かすかに顔が青ざめた。

「レベッカ様」

「…はい」

「レベッカ様も、悲恋はお好きですよね?」

「うっ、」

痛いところをつかれて口ごもる。

「大事な人を失ってしまって、泣きながら自分も後を追いかける…。その話に、切なさ萌えを感じるのは私だけではないはずですわ!だから、ロミジュリは時代を超えてあんなにも人気ですのよ!」

“もえ”も“ろみじゅり”もなんなのかは分からないが、でも話は理解できた。確かに、少し悪趣味かもしれないが、そういうお話には少し興味を惹かれるものがある。お話に限っては!だけど!

「そして、悲恋も良いのですが、苦難を乗り越えた先の愛というものもいっそう甘美なものなんですわ!“攻略対象”が何かにつけて死にかけるレベッカ様を死なせまいと寝る間を惜しんで働く姿!命をかけても守ろうとする姿!ああ、萌える!」

「……」

お話として惹かれるのは理解できる。

でも、私がいるのは現実世界だ。甘美な愛とかそんなものはいらないので、私は生きていたい。

第一、命をかけて守られたってまったくうれしくないし。

「…………ともかく、なら私はその“こうりゃくたいしょー”とやらにもう関わらなければ安全ということでしょうか?」

そうすれば、私が死ぬ理由がなくなるわけだし。

誰とも付き合わないわけだから。

しかし、そういった瞬間、頬を赤らめて興奮しながら喋っていた彼女がふと真顔になった。

「甘い、金平糖のように甘いですわ。レベッカ様」

「こんぺー、てい?」

「“華の命~永遠の愛を君に~”のヒロインの死亡率は、およそ95パーセントを超えますわ。それはもう、角を右に曲がっただけでヒロインの魔法能力をねたんだ生徒に刺し殺されるほどですもの。そして、万が一ヒロインが攻略対象を誰も選ばなかった場合の死亡率は、」

「死亡率は?」

「100パーセントになりますわね」

何でよ!

言葉を失った私の前で、ロレーナ・マッケンジー嬢は淡々と話しを進めた。

「たくさんのパターンはありますが、ざっくり言うと死に方は2種類に分類されますわ。自らの魔法を制御できずに爆死するか、動物の群れに踏みつぶされるかになりますわね」

「そ、それはどうしても回避できない…?」

「ええ、残念ながらそうなりますわ」

沈痛な表情を浮かべた彼女にそっと首を振られた。

「レベッカ様。普通なら、こういったゲームには“ノーマルエンド”、“友情エンド”、“トゥルーエンド”のようなエンディングが三パターンほどあるのですが、このゲームにはありませんの。あるのは無数の“バッドエンド”と5つの“ハッピーエンド”だけですわ」

「ええと…。言葉がよく分からないのですが。“ばっどえんど”とは、私が死んでしまう場合ということですか?」

「そうですわ。そして“ハッピーエンド”は、レベッカ様が攻略対象と結婚して幸せに暮らす終わりのことです」

「…そのお話って、面白いんですか?」

聞いた限りでは、ただ主人公が死んでいく話にしか思えないんだけど。それも、かなり残酷な形で。

「それが、バットエンドもなかなかに凝った作りでしたの。好感度が高ければ高いほど、守り切れなかったヒロインの亡骸を抱きしめて慟哭するスチルやら、血走った目で復讐しにいく続編やらが追加されますの。スチルもそれはそれは綺麗で、もう、それはもう、とても萌えましたわ!」

「えぇー、」

悪趣味。

若干引き気味になりながらも彼女を見つめる。するとグッと身を乗り出された。

さっきから興奮しているなと思ったけれど、さらに悪化している。






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