漆黒の星の逢魔時
漆黒の星の逢魔時──。
漆黒の星には、伝説上の存在とされる、漆黒大魔王がその姿を表す時があるとの言い伝えがある。
その“時”とは、何百年に1度、いや、何千年に1度しか来ないとも言われる。
1日のうち、漆黒の星が最も漆黒に満ち満ちる時がある。その時を、逢魔時と言う。
何百年か何千年に1度、漆黒の星が、通常より更に漆黒に満ち満ちる、逢魔時が来る。
その何百年か何千年に1度の逢魔時・・・。
その時を、墮倚逢魔時と呼ぶ。
墮倚逢魔時が来た瞬間、漆黒の星の何処かに、漆黒の星中で最も漆黒に染まる花が一瞬にして咲くという。
その花の名を、“鬼哭の花”と呼ぶ。
鬼哭の花が咲いた時・・・。
漆黒大魔王は降臨する──。
鬼哭の花を目撃した者には、漆黒大魔王の恐怖が降ってくるという。
そのような伝説が伝わっている・・・。
「漆黒大魔王に魔力」という諺についてもそうであるが、墮倚逢魔時の言い伝えなど、漆黒の星には多少なりとも文化と呼ぶべきものが存在する。
漆黒の星の住民は、基本何かを楽しむという精神構造は持ち合わせないため、地球で言う所の、音楽や演劇といった類いの華やかな文化は存在しない。
質素な文化が多少散見されるのみで、それぞれの生業、使命といったものに邁進するだけなのである。
──逢魔時。
アレナスは寝苦しい夜に襲われていた。
「ちっくしょう・・・」
思わず寝言を漏らす。
アレナスは夢を見ていた。
目映いばかりの白い光──。
漆黒の星にはあり得ない光景。何故このような夢を見るのか?
アレナスは生涯で最も苦しい夜を味わっていた。
アレナスは夢の中で、白い光により、左眼を潰された。
これは実際自身の身に降りかかった事なのか? 実際白い光によって左眼を潰されたのか?
ガバッとアレナスは上体を起こした。
はぁはぁと荒い息を吐く。
アレナスの頭上に、逢魔時の漆黒が蠢いていた。