決断を待つ者
幾重にも闇が塗り重ねられる──。
漆黒の星の夜・・・。
この星には光はほぼ存在しないと言ってよい。漆黒の星に住む者は生まれつき暗闇の中で生活せざるを得ないため、そもそも目は暗闇の中でも見えるような構造になっている。
法律や道徳、そういった類いのものも無い。
漆黒の星の住民は皆それぞれ何らかの形の“力”を持っている。
いわば強者しか存在しない。何らかの衝突、争いがあった場合は、己の“力”で解決すれば良いのである。
負ければ、己の“力”が足りなかった、ただそれだけのことと納得する。
怨みといった類いの感情を持つ者はいない。
法や道徳などで、住民を律する必要がないのである。
いわば究極の自己責任主義といった所だろうか。
漆黒の星の住民は、何を生き甲斐にしているのか?
何を生業にしているのか?
地球でいう所の職業──。
それは生まれつき、不可思議な魔力によって定まる。それに対し、疑問を持つ者はいない。
戦士は一生戦士を全うし、看守もまた然りである。
自分の置かれている環境に対し、不満を持つ者はいない。
それぞれが、己の役割、使命といったものを全うしようとするだけで、何かの役に立とうとか、社会のため、などという感覚は無い。
したがって地球で言う所の社会とは、少し様相が違う。
生業を全うするのは、あくまで個人のためであり、それが結果的に他を利益する形になるにせよ、社会を発展させようなどという思いを持つ者はいない。
すなわち地球で言う所の、助け合い、支え合いながらの社会ではなく、究極の個人主義が蔓延する中、結果的に支え合っている社会が出来上がっているに過ぎない。お互い感謝するといった精神はあるはずもない。
犯罪者といった者もいるはずもないが、稀に厄介者が現れる。そういった者は不可思議な魔力により、監獄にぶちこまれる。
法が存在しないのに、監獄がある所以である。
監獄で、囚人の食べる食事を作ることを生業にする者がいる──。
「ちっ。レグサのヤツ、しくじりやがったな」
グツグツ煮たっている寸胴の中身を棒のようなものでかき回しながら、ぶつぶつ呟いている者──。
ウェイロスである。
「アレナスの野郎・・・ とっとと決断しやがれ!」
寸胴の中からもくもくと出ている、黒い湯気がウェイロスの顔を襲う。
「ゴホッゴホッ」と、思わず咳が出る。
「ちっきしょう・・・毒でも入れるか・・・」
右手をぎゅっと握り、拳を作る。
何やら、寸胴の中にドボッとおもいっきり投げ込む。
「ふざけんなアレナス!」
その右手の拳は、やや暗い黄色に染まっている。