キュリオシティ
漆黒の星では、白という色は存在しない。
ほぼ黒色しか存在せず、黒系の微妙な濃淡により、様々なものを区別する。
従って目に関しては、地球でいう所の白目は薄い黒、黒目は濃い黒である。
アレナスの左目は、この星では全く有り得ない代物──。
アレナスの様子を見て、レグサは抱いていた最大の疑問はひとまず横に置いておくことにした。
相も変わらず食事の度にされるレグサの質問には辟易し、アレナスは全く答える気はなかった。
アレナスはムシャムシャとカレーを食べ続ける。
最大の疑問はさて置き、最大の願い実現へとシフトチェンジしたミステリアスな看守は質問を変えた。
「タブーを知っているかい?」
「あ?」
「タブーってのは、破るためにあるんだよ」
「何の話だよ?」
「知的生命体ってのは、キュリオシティってもんを持ってるんだよ」
「キュリ・・・? なんだよその粋な言葉は?」
少し興味を持ったのか、アレナスはニヤッとした顔つきになる。
今までとは微妙な態度の変化を感じ、レグサはガッツポーズ。
「それこそ、知的生命体を知的生命体たらしめてるもんだと言っていいんじゃないか?」
「哲学かよ? そりゃ漆黒大魔王に魔力ってもんだぜ」
「漆黒大魔王に魔力」とは、地球でいう所の「馬の耳に念仏」のようなもので、全く意味が無い、という意味の、漆黒の星の諺である。
漆黒大魔王にはほぼどんな魔力も通じないため、無意味、という意味。
「好奇心だよ。好奇心があるから知的生命体はもっと知識を増そうとし、成長しようとする。成長すればさらに異次元の体験ができるからね」
アレナスが聞いてようが聞いてまいが、関係ないかのごとく、レグサは高説を垂れる。
「グゥオー、グゥオー」
カレーを食い終わったアレナスは、再び横になり、寝ている。
「タブーを破ったらどうなるか? キュリオシティを持ったヤツは、この漆黒の星にはいないのか?」
「俺にタブーを破らせようって魂胆かい?」
寝てるふりしてちゃんと聞いていたアレナスは、レグサの真意を言い当てる。
「お前がやれよ」
「こんなことけしかけてる時点で、もう破ってるようなもんだよ」
レグサはフフッと苦笑する。
「脱獄不可能、囚われたヤツは二度と生きて帰ってこない・・・どんな監獄かと興味は沸いたがな」
「アレナス! 君はなかなか見所あるね!」
「お前に誉められても嬉しくも何ともねぇよ」
「脱獄したらどうなるか? 興味は沸かないか?」
「だからバカか? お前は。俺を殺す気か? その前に自分が死ぬ気か?」
「死にたくはないけど、僕の命懸けのキュリオシティがね」
フッと笑うレグサ。
「脱獄勧める看守なんて聞いたことねぇぞ」
「地獄耳だからとっくに聞いてるはずだけど、様子を見てるのか、あえて游がせているのか・・・」
「ほぉ。あんたも余裕だね。怖くないのか?」
「怖いさ。だけど・・・」
「キュリオシティってか?」
「フフフッ」
「漆黒大魔王さんよ! とっととこいつ殺せよ」
漆黒の星を統べる者・・・
漆黒大魔王とは・・・