最大の疑問と最大の願い
漆黒の星の住人。
基本的には地球の人類とほぼ同じ形状、大きさである。
だが漆黒の星の住民はほぼ全員、全身黒を基調とした禍々しい姿。
アレナスは戦士である。
戦士というものは、内に闘争心を燃やし、みなぎる闘争心は、自ずと姿形となって表れてくる。
がっしりした体格で、全身アーマーを装備しているかのような姿形をしている。
ひとたび戦いとなれば、圧倒的戦闘力で、どんな強大な敵をも破壊し尽くす──アレナスはそんなオーラを醸し出してはいる。
だが、今は寝ている。
こんな監獄は苦でも何でもない。何の精神的苦痛も、肉体的苦痛も受けていない。余裕だ。
もしくは、いつでも脱走できる。そんな余裕なのか──レグサはアレナスがどんな心境なのか、考えあぐねていた。
だがこの監獄は、未だかつてどんな脱獄をも許したことがない。看守は時間になったら食事を吊るして降ろす。ほぼこの仕事さえやってれば良いのである。
万が一囚人が死んでも構わないし、脱獄の心配もないからだ。
このアレナスの余裕を見て、レグサが抱きつつある想い・・・。
それは、およそこの場には最も不釣り合いな想いであった。
そしてもう1つ、重大な疑問を抱いていた──。
アレナスの溢れんばかりの余裕。
アレナスのキャラ、と言ってしまえばそれまでだが、アレナスの辞書には「絶望」という項目はなさそうだ。
「さて、どうしたものか」と考えてはいるが、「まぁなんとかなるだろう」と、余裕ぶっこいて寝ているのである。
檻の上に、先ほどレグサが下ろした食事が到達する。
ガタッという音に、アレナスが気付く。
「なんだメシか」
食事は、この星全体にみなぎる不可思議な魔力により、檻を通過する。
一々開け閉めする必要がないから、レグサはただ穴の上にいれば良いのである。
この監獄には囚人を縛り付ける呪いの魔力により、囚人が一度収監されると、囚人は二度と檻を通過できない。つまり脱獄は不可能というわけだ。
「またカレーか」
アレナスは不満をたれる。
カレーが檻を通過した瞬間、レグサはひょいっと、ヒモを引っ張り上げた。その拍子に、カレーがこぼれる。
「おい! いい加減にしろ!」
「君が質問に答えるまで、いつまでも続るよ」
「執念深いヤツだなぁ」
アレナスは構わず、こぼれたカレーをムシャムシャ食べ始める。
漆黒の星の住人は、胃が頑丈なので、ほぼ腹を壊すということはない。
食事の度にされる質問に、アレナスはいい加減うんざりしていた。
穴の上と底では距離的にはかなり離れてはいるが、魔力により、声は隣にいるかのように聞こえる。
「俺は本当に何も覚えてねぇんだよ!」
「だけど体は覚えてるはずだ。君のその左目がね」
アレナスの左目──。
刀傷のようなものを負い、潰れている。
傷の部分は、何故か白く光っている。
この漆黒の星では有り得ない色であり、有り得ないほど明るく光っていた。