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 客人を迎えるために態々(わざわざ)着替えまでして、準備を整えた。

 あんなに盛大に婚約破棄された身なのだ、貴族の間であの出来事を知らない者は居ない。

 恐らくだが十中八九、婚約破棄関係の話だろう。気が重くなってくる。

 軽く頭を振ってから、憂鬱な気分を一新する。


「よし、行ってくるわユリア」


「何かあれば直ぐ側に控えておりますので心配しないで下さい」


 心強い限りだ。

 ユリアは言葉の以上に頼りになる。

 私よりも多分武術面でかなり強い。我ながら自分の強さをそれなりと自負しているものの、一度としてユリアに稽古で勝ったことは無い。というか負けたことも無い。

 全力で挑んでも軽くあしらわれるのだ。

 結論として、彼女は強い。暴漢が客人だったとしてもなんとかなるだろう。


 そんなことを頭に浮かべながら歩いていると、いつの間にか客人が居るであろう部屋に到着してしまった。

 不思議と部屋からはただならぬオーラというか、私にとっては災いに感じられるような雰囲気がぷんぷん漂っていた。


ガチャリ。


 扉のドアノブをゆっくりと回しながら、僅かに扉を開けて中を伺って見る。


 …………。


ガチャリ……。


 私は今見たものを無かったかのように扉を閉めた。


「何やってるんですかぁ~、なんで今閉めたんですかぁ」


「だ、だって……」


 耳打ちするくらいの距離でそう尋ねてきたユリアに対して、私はどうにもこうにも自分で確かめてよと彼女に身ぶり手振りで示し、今度はユリアが扉の前に立つ。


ガチャリ。


 ユリアはやや顔を半分くらい部屋に晒した後──。


 …………。


ガチャリ……。


 ユリアは扉を閉めた。


「ユリアだって閉めたじゃないの。人のこと言えないじゃない」


「で、ですが……」


「さっきの私と似たようなこと言ってるわよ」


 扉の直ぐ側でそのような不毛な会話をしていたせいだと思う。

 言い合っていれば少し声が大きくなってきちゃって、気が付いたら、


ギィィィッ。


「……あの、何してるんですか?」


 扉の向こう椅子に座っていた筈の人物が扉を開けてこちらを見詰めるようにして、立っていた。


「「えっ……も、申しありません!!」」


 それはそれは息ぴったりに私とユリアは申し訳なさそうに頭を斜め四十五度位に傾けた。

 これは恐らくだが、私にとって彼に初めて頭を下げた瞬間だった。そして、これが彼にとって、かなり好評価だったようで、ごく自然に頬を緩ませる。


「いや、良いんだよ。急に来てしまった僕がいけないからね。でも、私はちゃんと君に興味があるって明言してるんだけどな」


 この男はそう言うと、私と隣に一緒にいたユリアを手招いて、私達はそのままずるずる部屋に引きずり込まれたのだった。

 



◆◆◆




「さて、話をさせて貰っても良いかな?」


 目の前にどっかりと腰掛けるまだ年端も無い超絶イケメン。

 その男が私の目をじっと凝視しながら、そう告げた。


「構いません。一体何用でございますか?」


 どこまでも笑顔を崩す素振りも見せることが無い男。それに対して、私は特に気にしていないといったように承諾する。

 あくまで私は公爵令嬢。堂々と佇む確立した態度を崩さないように落ち着いた様子で相手と接する。それこそが私としての信念であるし、この家の厳格な父からの教えでもあった。


「では、本題に入ろうか。公爵家の娘であるレイエス・ベラ嬢。私と、婚約して欲しい」


 その言葉を聞いた瞬間、ああ、やっぱりかと頭の中で考えてしまう。

 扉の側で離れた位置からこちらの様子を伺っている使用人の内、ユリアだけ、勝手に盛り上がったように小さくキャーって言っているのが耳に流れてくる。

 それで、メイド長のテナントさんに頭を叩かれている。

 自業自得だ。


 視線をそちらにやりながら、軽く溜め息を吐くと、ニコニコしている王子が返答を求めてくる。


「それで、答えはどうかな?」


 そう彼が聞くと、再びユリアが興奮して鼻血を出して倒れた。

 どうやら彼女は戦闘不能になってしまったようで、そのまま部屋の外に連れていかれる。

 盛り上がるのは構わないが、少しは自重して欲しいと私は感じる。


 しかし、私は先日婚約破棄をされたばかり。それにも関わらず、こうして次の日求婚をされている。

 尻軽は第一王子ではなく私の方に見えるかも知れないが、断じてそんなことはない。私はこのような誰かに好かれるような行いをあの婚約破棄の場でした覚えは無いし、この見に覚えの無い求婚に応じようとも思わない。

 しかし、この申し出に異を唱えるなんてことをするほど私も馬鹿ではない。

 

 なんたって彼は、この国のもう一人の王子。

 エルド第二王子なのだから──。


「有り難い申し出ではありますが……保留にさせて頂きたい」


「理由を聞かせて貰っても?」


「そうですね。先ず、私は婚約破棄したての傷物……。そんな女に執着する理由が分かりません。それから、エルド様なら私よりも良い人が居るかと思います。私は第一王子のフランク様から嫌われるような女ですし、きっとエルド様とも合わなかったりするかもしれません。私は夢のない現実的なことを考える女ですから」


 それっぽいご託を並べて、引いてくれないかなと思いつつ、エルド第二王子の反応をじっと待つ。

 やがて、思案した表情を浮かべていたエルド第二王子は何事もないような爽やかな顔をして向き直った。


「なるほど! つまり、時間を置けば良いということですね!」


 …………えっ? 何だって?


 後ろでメイド長のテナントさんが盛大にずっこけるのが分かったし、私も彼がどのような解釈をしているのか良く分からない。

 彼はそのまま話を続ける。


「貴女はまだ婚約破棄されて、傷心が癒えていないから、それが癒えるまで待って欲しいという意味ですね!」


 いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……まぁ、「察せよお前」と言われたところで察する事が出来ないといった事例は多々あるので、仕方ないのかもしれない。

 だから私自らこれを弁解しよう。


「いえ、そのような意味では無くて、検討に検討を重ねて審議して、相性についての結果を後々報告したいということで」


「なら、大丈夫だ! きっと相性は良いだろう」


 うん! 全然大丈夫ではない。

 て言うか人の意見がちゃんと伝わって居ないようだし、これはどうしましょうか?


「あの、一先ず保留にしますので……」


「分かった! 答えはまた今度聞かせて貰う」


 颯爽と駆けてくる白馬の王子様なのか、颯爽と駆けていった我が国の第二王子。

 こんなことを言ってしまっては世間の貴族達に絶望を与えてしまうかもだが、王子は白馬に乗っていないし、そもそも颯爽と言うよりかは、忽然と、なんて表現が私的に一番しっくりくる気がした。

 王子は、そのまま帰ってしまったが、私的には心安らぐ期間が再び無くなってしまった。

 私は思う。王族とはどうしてこんなにも強引な方が多いのかと──。





 


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