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 私の名は、レイエス・ベラ。

 レイエス公爵家の娘にして、フランク王子から婚約破棄をされた公爵令嬢というのが正しくこの私。

 総評として、私はフランク王子から婚約破棄を迫られて、堂々と別れを決めた度胸のある公爵家令嬢だと、かなり盛りに盛られた高評価になっている。

 逆に王子に関しては、体裁も考えずにみすみす公爵家の力を我が物に出来たチャンスを棒に振った大馬鹿者として、現在評価が絶賛大下落中。まあ、そうだろうなと感じながら、私はメイドのユリアから様々な情報を聞いていた。

 私は一応、レイエス公爵の娘なので、影響力は意外と大きいのだ。


「……お嬢様、お嬢様? 聞いてますか?」


「えっ、聞いてるわよ」


「聞いてないじゃないですかぁ。また何時もの考え込む悪い癖が出てますよ」


 随分とフレンドリーに接してくるメイドのユリア。

 実は彼女、元々没落貴族の出で、家が衰退し、無くなってしまった後に、公爵家のうちが身寄りの無い彼女を引き取ったのだった。

 当時まだ幼かった私は、同年代の彼女とよく遊び、そうして仲良くなった。彼女のことを姉妹のように思っている私は、彼女がメイドであるのだとしても、このように距離が近い関係が気に入っているのだ。


 そんな彼女は今回のことをかなりお怒りのようで私が祝賀会から早帰りしてきた時はもう、フランク王子を殺してしまうかのような勢いで声を荒らげていた。しかし、私が「気にしてない」と言って彼女を(なだ)めたところ、なんとか納得して、現在のこの状況に至る。


 停滞とは実に怠惰(たいだ)なことである。

 今まで王子の元で忙しなく国母としての修練を続けなければならなかったのだから、今の何もせずにゆったりと過ごす時間にどことなく背徳感(はいとくかん)を覚える。

 私は今、とてつもなく怠けている。


「はぁ、平和っていいわね」


「急にどうしたんですかお嬢様? 哲学か何かですか?」


「似たようなものだわ」


「私には分かり兼ねますね。そういう話は」


 首を傾けてクエスチョンマークを大いに頭の上に点在させる光景が目に見えるようだ。

 ユリアはその首を傾げた格好のまま、話を続けた。


「あっ、そう言えば、第二王子のエルド様がお嬢様のことが気になるとか……そんな話がありますね」


「恋愛脳……」


 深々とため息が漏れてしまう。

 誰が好きだとか、振り向いて欲しいだとか、私にはよく理解できない。


「あの馬鹿王子を見返すには良い機会なんじゃないですか?」


「ユリア、年頃の淑女(しゅくじょ)が馬鹿なんていう汚い言葉を使ってはいけないわ。心の中で思うくらいにしなさい」


「心の中で思ってるんだ……」


 そりゃ思っているわよ。

 だって馬鹿だもん。常識人ならあのような奇行をする筈が無いのだ。自分のしたいことをしたいときにするなんて猿と然程変わらない。

 故に私がフランク王子のことを密かに馬鹿だと考えるのも間違ったことではない。

 自己完結終了──。


「お嬢様、お嬢様? また何か考えてますか?」


 あらあら、そんなに思い更けていたかしら?

 昔からの癖だから仕方がないのよね。


「ごめんなさい。少し自身の正当化をしていたわ」

「難しいことを考えますね」



 そうでもないのだが、一々弁解していても疲れるし、そういうことにしておこう。


「それにしても、お嬢様って昔から興味無いですよね」


「えっ? 何に興味が無いって?」


「何って、恋愛にですよ、れ・ん・あ・い」


 確かにそうだけど、そこまで露骨に嫌っていたのだろうか? 自分的に誰かに知られているとは思わなかったけど、ユリアには筒抜けなのかな?


「そんな風に見える?」


「はい、だって昔から私と一緒に遊ぶけど、貴族の殿方とは会話すらしたくないようなオーラ出してましたし、求婚された時だって、即ごめんなさいをしてたじゃないですか」


 にこりと微笑むユリアは、確信を持ってそう喋っていた。

 確かにそういう面は多々彼女に見られてきたが、ここまで知られているとは……流石ユリア。

 伊達に十三年も一緒に居ないわね。

 

「よく分かるわねユリアは」


「え~、多分よく観察してれば誰でも分かりますよ。お嬢様のそれはかなり露骨ですし」


 そんな恋愛関係の話にユリアと談笑をしながら、優雅にお茶を啜っていると、他の使用人が駆けてくる。

 お客人かな? そう思うと直ぐに立ち上がり、出迎えるのが人としての礼儀である。


 小走りをしていた使用人はアランだった。


「アラン誰が来たの?」


「それが、名前を伏せていて……ただ、お嬢様お会いしたいとだけ」


 ふむ、何やら怪しいけど、来てくれた以上は一先ず顔を出すのが道理だ。もしも、不埒な輩だったとしても、人並み以上に鍛えられたこの護身術で蹴散らせる。

 謎の自信が溢れ出してくるが、それはある程度自身の強さを理解しているからだった。


「なら、直ぐに向かうから、少しお待ち頂けるように伝えて頂戴。お茶とか出して接客してなさい」


「畏まりました」


 再びその客人の元へと戻っていく使用人の背中を見ながら、来客を脳内で身元確認をしながら、誰がやって来るのかを思案していた。


 もしかしたら私は面倒事に巻き込まれやすい体質なのかも知れない。でも確かにこの出会いは、私にとって大きな転機になったのは、間違いない。



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