プロローグ
プロローグ
「貴方は神様を信じますか?」
「もしも、信じているならば、願ってください。私たち神にはそれを叶えることができます。」
今となっては、馬鹿馬鹿しい話だった。いるはずもない神様を信じるなど時間と気力の無駄なだけ。と俺はずっと思っていた。そう。ある少女と出会うまでは。
第一章〈それは、唐突に。〉
朝。雲一つない快晴。こんな日に学校に行かないといけない。果たして誰が喜んで行くのだろうか。
「眠い・・・。」
瞼が重い。起きたくない。暑いのだが、布団が恋しい。離れたくないのだ。
「こんな夏休みに何故補習に行かなくちゃならんのだ」
このような独り言をつぶやきつつ布団に潜る。時計は朝の七時を指している。補習は九時から始まるのだ。そう。今日は7月21日。俺の学校では夏休みになってから3日目に当たる。
「京ちゃん!早く起きないとダメだよ!」
一階から幼馴染の元気な声が聞こえてくる。わざわざ毎日朝ごはんを作ってくれる、優しい奴だ。
「今から行くー。」
とは言ったが実際のことを言うと全然行きたくない。何故なら起きたら学校に行かないといけない訳であって・・・。
「わかったよ、なるべく早くね!」
「わかっているよ。」
こうなると起きなくてはならないわけだ。早くいかないと怒るな。そろそろ行こう。そうこう考えながらも布団から出て一階に降りる。一階に降りると朝には欠かせない味噌汁のいい香り。焼き鮭もあるだろうか。
「あ、京ちゃんやっと起きた!遅いよー。冷めちゃうよ?」
「うん、そうだな。」
階段を下り朝ごはんが並べられているテーブルに目をやる。そこには香り通りの味噌汁これは予想に反した鯵の開きと沢庵だった。
「京ちゃんはこれから補習なんだから、栄養つけて頑張らないと!」
「そうだな・・・。」
補習。学校ない長期休みの貴重な一日に何故学校に行かないといけないんだろう。
「京ちゃんは一学期さぼりすぎたんだよー。」
「間城こそ少しさぼったって言ったじゃないか。」
間城こと、常盤間城。俺の幼馴染で隣の家に住んでいる。子供の頃から良く一緒に遊んだりした。成長するにつれて出るところは出たが、身長はそれほど伸びなかったみたく、出るところだけ。といった感じになったみたいだ。
「私がさぼるのと京ちゃんがさぼるのは差がありすぎるよ・・・。自分で言うのもなんだけど私はある程度やらなくても勉強はできるけど、京ちゃんはやっても普通なのにやらないとなるとひどいよ・・・。」
「おいおい、そこまで言わなくてもいいじゃないか・・・。」
「だって、事実でしょ?」
実際、否定はできないのである。間城は勉強しなくてもトップ10には入っている。対して俺は・・・。生憎、言わなくてもわかることは言わない主義なんだよ。
「だから、京ちゃんはしっかりと勉強しないといけないんだよ?」
「一学期の勉強が分からないままにしていると、後々、つらい思いを知るのは京ちゃんなんだよ?だから、今のうちに分からないところをなくさないと。」
「わかっているよ。俺はやったらできるから大丈夫だ。」
間城のおせっかい度と言ったら、もう凄い位の一言だ。しかし朝食を作ってくれているので、そんなことは言えないのである。
「もう、そんなこと言って・・・。結局やらないじゃない。」
「わかったよ、次はやるよ。」
「本当に?神様に誓って?」
「神様なんていないんだし、無理な話だな」
「えー。いるよ!おばあちゃんが言ってたよ!」
と、間城は身を乗り出して。俺の反応を伺う。
「間城のおばあちゃんが言っていたことはいいとして。今は食事中だ。静かに食べよう。」
今は間城が作ってくれた朝食を食べるべきだと、俺の本能がそう言った。気がした。
「そ、そうだね。ごめん・・・。」
間城はわかりやすいように気分を落とした。間城は昔から気持ちが現れる方なので、周りの人は簡単にわかるのだ。
「いや、いいんだ、わかってくれたみたいだしな。」
「うん・・・。」
間城は明らかに落ち込んでいた。
「そろそろ行こうか、京ちゃん」
「そうだな。」
俺たち二人は用意をして学校に向かう。また間城の好きなものでも買ってやるか。と考えながら夏の早朝に学校へ登校する。
バスに揺られ数十分。俺と間城が通う高校に到着した。夏休みだからか乗っていた高校生は少なかった。いると言えば、補習に呼ばれた生徒ばかりだった。ばかりといっても数人程度なのだが。
「いやー、暑いねー・・・。」
「暑い。太陽は自重してもっと気温を下げてくれ・・・。」
家からバス停まではすぐだが、バス停から学校までは距離がある。バス停から数分程度とはいえ動くだけですごく暑く感じる。
「京ちゃん、早く行こうよ。このままだと暑すぎて倒れちゃうよ!」
「そうだな。」
そういって走り出す間城の後ろ姿を見る。衣替えが嬉しいのは暑さが増しになるのと眺めがよくなる事だろうとしみじみと感じた。
「京ちゃん!!早く!」。
「そんなに急かすなよ、動くと暑いだろ?ったくどうして補習なんか・・・。」
「だから言ったじゃない!補習呼ばれるよって言ったでしょ?自業自得だよ?」
「わかってるよ!やらなくてもいけそうだったんだよ」
セーフラインにはギリギリ乗りそうで乗らなかったみたいだ。こんな事なら勉強を少しでもしたらよかった。とは思わない。めんどくさいからな。
「ところで、間城はどうしてここにいるんだ?間城は補習には呼ばれていないだろう?」
「呼ばれているわけないよ!部活だよ!部活!」
「なるほど、部活か・・・。」
ん?待てよ?間城は部活なんて入っていたか?中学の時は何も入ってなかったはず。何か興味のあるやつでもあったのだろうか。
「あー、京ちゃんには言ってなかったね。そう、部活だよ。」
「何部に入ったんだ?」
「えっとねー、超常現象発見部?」
聞いたことすらない。第一、超常現象ってどんなのがあるんだよ。しかも疑問形で答えてるし・・・。俺に分かるかっての。
「知らないな。」
「うん、だろうね。この夏休みに入る直前まで有名にならなかったからね。」
「何故有名になったんだ?あと何故入った?」
何故か凄く偉そうに聞いてしまった。と思い心の中で謝っておく。
「んー、林の奥ですごく光を放つ何かを見つけたらしいよ?それで興味を持った友達に誘われたってところかな?」
ほら。と間城が一枚の写真を取り出す。
「なるほど、具体的に何をするかわからないが頑張れ。」
間城が変な部活に入ったがあまりと言うか一切俺には関係がない。且つ興味もないので無難にがんばれでおわらせよう。間城に誘われるかもしれないからな。うん、我ながら良い判断だ。
「もう、京ちゃんから聞いてきたくせにそのいいようはひどいよ?」
「悪い悪い、気を付ける」
「うん。気を付けてよね。」
間城が言い終わった直後、補習開始5分前を知らせるベルが鳴り響く。
「あ、やべ、話込んでて行く事忘れてた!」
「私も、そろそろ、部活の時間だし行かないと!」
下駄箱までは一緒なので、終わったら連絡を入れ下駄箱で待つように決め、そこで別れを告げ、その場を後にする。
補習が始まってどれくらいたっただろう。ギリギリで時間内に間に合ったがもともとやる気でなかった為、担当の教師の話を右耳から左耳にすり抜ける。運動系部活動が活動している運動場を窓から眺める。
「長い。」
始まってから20分程度しかたっていない。残り30分もこの暇な時間を過ごさないといけない。こんな事だったらしっかりやっていればよかったとつくづく後悔している。
「おい。西田。」
「はい?」
数学担当の長谷川に呼ばれ、驚いてしまう。長谷川の年齢は若くはないが老いている訳でもない。怒るタイミングもわからない。俺からしたら面倒なのである。
「お前、どこを見ている?」
いかにも自分はわかっている事を生徒に言わせる性の悪い教師だ。
「運動場ですよ?」
俺は満面の笑みでそう返す。周りの補習の生徒が長谷川と俺のやり取りを面白そうに見ているのが、視界に入る。
「今、何の時間か分かっているのか?」
まただ。この教師はわかっている事を答えさせる。俺が補習中に何をしようと放っておいてほしいものだ。しかし、これ以上面倒な事になるのは、もっと嫌だ。
「補習ですよね。少しわからなかったので、答え合わせまで待とうかな。と思い、運動場でも見て時間を潰そうかと思い見ていました。」
我ながらなかなかいい返答じゃないか、これなら長谷川も文句はないはず。
「なるほど、西田らしい返事だな。しかし配ったプリントには名前すら書かれてないな。お前はやる気は本当にあるのか?」
くそっ・・・。ダメか。名前くらいは書いておくべきだったな・・・。しかし絶対にやりたくないな。こうなれば・・・!
「すみません先生、体調がすぐれないので、保健室に行ってきてもよろしいですか?」
「そうか、戻ったら戻って来い。」
「は、はい。」
えっ。案外すんなり行けたぞ。取り敢えずこのまま帰るか。
「それでは、失礼します。」
自分でも予想していなかった突然の長谷川の優しさに戸惑いつつ、校門を出て俺は間城へと連絡を送る。
「今終わったぞ。っと。しかし間城はまだ部活か。」
間城からの返信は思っていたよりも早かった。携帯を開き確認をしてみる。そこには、「あ、終わったんだ!早かったね?」と書かれていた。
「おう、長谷川がちょっとな。っと」
何があったかは間城には言わなくてもいいな。
「・・・。」
「・・・・・・・。」
返信が来ない、連絡が取れる状態なら部活は終わっているはず。返信が来ていないか確認しようと携帯を開こうとすると。
「あ、京ちゃんここに居たんだ!探したよー?」
居る場所を伝えてないとはいえ、俺は校門からは動いていないので、勝手に間城が探し回っていた事は言わないでおこう。
「悪い、居る場所くらいは言っておくべきだったな。」
「ほんとだよー。この暑い中私が京ちゃんを探して動きまわったよ?」
間城の言葉通り、相当彼女は汗をかいていた。
「ほんとに悪い!次はしっかりする。」
「ほんと?約束だよ?あ!でも次は京ちゃんに私を探してもらおうかな」
「え、暑いし次いつこんな事があるか分からないじゃないか?」
「あ、そうだね。じゃあ、今から遊びに行こう!」
「この暑いのに?」
正直に言うと家で寝ていたいよな。朝早く起きたわけだし。
「ダメ・・・かな?」
間城は悲しそうに肩を落として聞いてくる。本当にわかりやすいなコイツ・・・。
「間城がどうしても行きたいなら行ってもいいぞ。」
「京ちゃん!うん、行きたい!行こう!」
間城はこれほどにない程の笑顔で喜んでいる。間城が元気になってよかった。
「そうと決まれば、早く行こうよ!京ちゃん!時間は待ってくれないよ!」
間城が俺の手を引っ張り、走り出す。幼馴染とはいえ、流石に意識は差居ないのだろうか。
「お、おい!行くって言ってもどこに行くんだよ!」
「目に入ったところに行けば良いんだよ!!」
間城がそう言って目に入ったところで行きたいところを探していく事数分して、間城はある所の前で立ち止まる。
「ここは?結構友達と行ったりしてるんだよ!」
「ここってゲームセンター?」
「そうだよ!なかなか大きいでしょ?」
あまり、ゲームセンターを見たことがないので、どうかはわからないが間城が言っているのだからそうなのだろう。
「ここでいい?京ちゃん?」
「うん、構わないけど。」
「決まりだね!じゃ、中に入ろう!」
「そうだな。」
間城の後ろをついていき中に入る、建物自体が大きいので、内部もなかなかに広いと思う。様々な機械の騒がしい音が鳴り響いている為会話の声は張り上げない限り全くと言っていい程聞こえないだろう。
「うーん!さて、何しようか!」
「間城がやりたいものしたらいいんじゃないか?」
「もう、つれないなー。京ちゃんも何かしないと!」
そういって間城はゲームセンターの中をズンズン進んで行く。全く凄い行動力だな。
「おい間城!」
「どうかしたの?京ちゃん」
この機械音の中俺の声が聞こえるか不安だったが、間城には聞こえてみたいだ。それよりも間城の部活時間が終わる時間が早かったことが気になる。
「今日の部活終わる時間早かったみたいだが何かあったのか?」
「あ、実はね、夏休みのうちに何か凄い事を探してこいっていう課題が出されただけだったんだよ。」
「それだけの為に?」
「うん。ほんと嫌になっちゃうよねー?」
そういって間城は大きめの白紙の紙をカバンから取り出す。
「これに記事にしてまとめるのか?」
「そうだよ、やっている事が新聞部と一緒じゃないかって友達と話してたの。」
「しかも、なかなか多いな。」
間城のカバンからは数枚同じ紙が見えている。これだけの量を書くのには結構な時間が掛かるだろう。部活でも課題が出るなんて災難だとつくづく思う。
「大変だろうけど、頑張れよ。」
「うん、ありがとう!見つかる気配はないけど頑張るね。」
できそうになくてもやろうとする所が間城の良い所だ。俺ならば絶対にやっていないからな。こういう所は見習いたいと思う。
「さて、何しようか。何かしたい事はある?」
「いや、特にないし、間城がしている所を見ておく。」
俺がそう告げると、間城は困った様子で手を頬に当て、考える素振りを見せる。しばらく「うーん」とうなだれ下を向いてしばらくした後、間城は俺の方を見た。
「じゃあ、私について来てよ!」
と間城はそう言い放ち、先にクレーンゲームの筐体の間を器用にすり抜けていった。
「お、おい!間城!」
俺も急いで後を追う。筐体の間をすり抜けていく際、筐体に近くなった為、距離があっても大きかった機械音がさらに大きくなった。そして、筐体の間をすり抜けた先にはある機械の前で間城が立っていた。
「あ、京ちゃんやっと来た!遅いよー。」
「遅いも何も間城が勝手に行くから、追いつくに時間が掛かったんだよ。」
「あ、そっか。ごめんね?」
「いや、気にしてない。」
そう。ありがとう。と間城は呟き再び前の機械に目を向ける。
「これは?」
「写真を撮る機械だよ。見たことない?」
「聞いたことはあるけど見たことはないな」
俺の中では名前すら知られてない機械に何か用でもあるのかと思ったが、写真を撮る機械なんだから、やることは一つしかないだろう。
「ねえ、京ちゃん。写真撮ろうよ。」
「いいけど、どうした?いきなり。」
「んー。夏の思い出?」
特に何もしていないと思うが、間城が撮りたい。と言っているのと断る理由もなかったので間城の後に続きその筐体に中に入った。
「お金はもう入れたし大丈夫だよ。さ、撮ろ?」
「私の横に来て?」
間城に言われ、彼女の横に並ぶ。
「もうすぐだよ。ポーズポーズ!」
間城がそう言うと前のから音声が発せられ、俺たちは音声の指示に従い、数枚の写真を撮る。撮り終わると、次は横で落書きができるらしい。
「京ちゃんも書く?」
「いや間城が書いてくれ。」
こういう写真などを加工するのはあまり良くは思わない。
「わかったよ。また携帯で写真は送るね!」
「了解。」
写真を撮り終わった、俺と間城はこの後に様々なゲームを見て回った。クレーンゲームやリズムゲームなどを間城がしている所を俺は見ていた。しばらくすると間城が携帯を見て、驚いていた。
「ご、ごめん!京ちゃん!私、そろそろ家に帰らないとダメかも・・・。」
先程間城が携帯を見て驚いていた所を見ると恐らく親からの連絡だろう。急用でも出来たのだろうか。
「いや、構わないぞ。」
「ほんとにごめんね!私から誘ったのに!今日は楽しかったよ!」
そう言って、間城は駆け足でバス停の方まで走っていった。そういえば、ゲームセンターの中にいて気付かなかったが、夏でも暗くなっているため相当ゲームセンターの中にいたみたいだ。
「さて、どうするかな。」
一人残された俺は自然とバス停とは逆の方向に足を進めていた。
「家に帰ってもやることはないだろうし、間城の課題の何か手助けになるようなことでも探してみるか。」
家に帰っても一人なのと、今は外を歩いていたい気分だった。特に行き先も決めてなく、ただひたすらに歩く。この地域は俺の住んでいる地域と比べると草木が多い。ゲームセンターから少し離れた所に大きな林の前を通りかかった。
「ん・・・?」
一瞬、林の奥から弱い光のようなものが見えた。
「なんだ?」
俺は気になり林の中に吸い込まれるように入っていった。林の中は暗く足場が悪い。それでも光ったであろう場所に歩いていった。
「くそっ、超常現象とやらはこんな変なところにしか起きないのかよ。」
はっきり言って超常現象かすら怪しいところだった。しかし、間城の手伝いをしたいという一心で歩みをやめなかった。
「ん?ここは?」
携帯のライトで道を照らしながら歩いていた所、広く草木が全くない場所に出てきた。そこから中心部に向かって歩いていく。
「お兄ちゃん誰・・・?」
いきなり呼びためられ、心臓が止まるくらいビックリした。声のした方に振り向きライトで照らす。
「ま、眩しいよ・・・。」
「す、すまない。」
慌ててライトの方向を変える。俺に声をかけた存在が一瞬見えた。幼い少女だった
「お兄ちゃん誰・・・?」
再び同じ質問を投げ掛けられる。
「俺はすぐ近くの高校に通う学生の西田だ。」
自分が危険な存在でないことを伝える。
「ふーん、お兄ちゃんは高校生なんだね。」
聞いておいてその反応はないだろうと心底思ったが子供相手にツッコミのも大人気ないと思い我慢した。
「そういうお前は・・・?」
「ロア?ロアはロアだよ。神様の見習い。」
ん?神様?何をいっているのだろうこの子は。この年でもこのような発言を初めて会う人に流石に痛いし、引いてしまう。
「ロアちゃんは人間じゃなくて神様?」
「ロアでいいよ?お兄ちゃん」
「そうだよ。ロアは神様の見習いのロア。今はまだ全ての願いを叶えれる訳じゃないけど、ある程度の願いなら叶えれると思うよ。あとここでお兄ちゃんと会うことはロアのよりも偉い神様が決めたことなんだよ。」
自分自身を神様と言い張るロア。ロアは俺がロアとここで会うことは決められていたという。何故そのような事を?
「お兄ちゃん、何故だって顔してるでしょ?暗くてもわかるんだよー?」
「な、何で・・・。」
「何でかって?ロアは見習いって言っても神様だよ?お兄ちゃんが考えていることなんて丸分かりだよ。もちろんお兄ちゃんの過去もね?」
過去も知っていると言うロア。その発言に俺はあからさまに狼狽していた。
「んふふー、動揺してるね、まあここは信じようが信じまいがお兄ちゃんの好きにしていいよ?」
「いくら神様と言っても過去までは知らないだろう。だから信じない。」
「さっすが!お兄ちゃんはそうじゃなくちゃ!」
ロアは悪戯っぽく笑う。最初から俺がそう答えることを分かっていたかのように。
「そういえば、体調は大丈夫なの?」
「ロア、お前なにいって・・・」
「またまたー。お兄ちゃんは今日補習の時間保健室に行ったみたいだけど?」
「そんなことまで知っているのか。」
「すごいでしょ!あ、そうださっき言ってた事詳しく知りたい?」
「言ってたこと?」
「もー、ロアとお兄ちゃんがここで出会うように偉い神様が決めた。所だよ!」
俺からしたら神様の見習いと偉い神様はどう区別してどう分けられるのか。そっちの方が気になるけどな。
「どうでもいいって感じだけど、教えてあげるね!」
「わかっているなら、教えなくてもいいんじゃないか?」
あと、何で上からなんだ。今日一番そこが気になっているかも知れない
「いいでしょ!ロアが言いたいの!」
どっちにしろ理由は言うつもりだったみたいだ。なら聞かなくても言ったらいいじゃないかと思ったが、そこを口にした所で同じ答えが返ってくるであろうと思い言わないようにした。もしかしたら俺は空気を読む天才かもしれない。冗談だが。
「どういわれようとロアが言いたいから言うの!」
この自称神様の少女はどうやら強引らしい。
「わかった。聞くから言ってくれ。」
「そこまで言うならお兄ちゃんの為にいうよ!」
面倒くさ。言うなら早く言えよ。といった所の言葉を喉ギリギリで押し殺し頷く。
「じゃあ、いくよ?」
「まず、補習中の担当教師の予想外の返答からいくよ!」
「お兄ちゃんは運動場ばかり見ていたね。何を見ていたかは聞かないでおくけど。あの担当教師がお兄ちゃんの仮病を聞く直前に返答を変えていたね。偉い神様が!」
だから偉い神様ってどれくらいの立ち位置なんなんだ。そこばかり気になって長谷川の話が頭に入ってこないぞ。いや長谷川の話なんて頭に入れたくないな。ここは偉い神様に感謝でもしとこう。
「何故だって顔してるね!いい感じだよー!」
果たして何が一体いい感じなのかわからない。そろそろ、ロアも謎になってきたな。
「さーて!次に行きましょう!次はえっとなんだっけ?」
「いや、俺に聞かれてもわからないに決まってるだろう?」
「そ、そうだね。ごめんね、お兄ちゃん。」
「いや、いいんだが、いうなら早くしてくれ。」
「お、思い出したから!」
「え、えっと。次はお兄ちゃん幼馴染の間城さんが帰ろうとせずに遊びに誘った所だね」
「本当は間城さんの部活はもっと長かったけど、シュパパって課題を配ることだけにして、あとは解散にしたの!お兄ちゃんが仮病で早退する時間を見計らってだよ!」
なるほど、間城に連絡して即返ってきたのがそういうわけか。これって間城から聞いたこととほとんど同じじゃないか?
「お兄ちゃん困惑してきたね!もうちょっといってみようか!」
「間城さんがゲームセンターでお兄ちゃんを置いて帰った所!まず、暗くなるまでこの地域付近にお兄ちゃんと間城さんが一緒に居ることが重要だったから。間城さんがゲームセンターでお兄ちゃんを引き留めておくようにして、あとは流れでスパパパーン!って?」
いや、だから聞くな。こういうあたりが見習いなのだろうか。偉い神様とやらはしっかりしているのだろうか。もしこのような感じだとしたら、神様って意外と適当になるんじゃないか?
「なるほど、そういう事だったのか。しかしそのスパパパーンが一番重要なところだと思うが
?」
「なるほど、良いところの眼を付けたね!流石と言っておくよ、お兄ちゃん」
この神様はずっと見習いでもいいかもしれない。
「まず、間城さんの携帯に連絡を送ったのは間城さんのお母さんだよ。本当なら家でご飯を食べる予定だったみたい。でもここは神様のパワーを使って間城さんの今日の夕飯は外食に早変わりー!というわけだよ。」
「なるほど、親からの連絡だろうと思っていたが、その通りだったみたいだな。」
まあ、間城に遊びに誘われて嬉しかったけど、こんな事が繋がっていたとはな。しかし、間城の奴一体何を食べたんだろう。あとで聞いてみるか。
「あとはお兄ちゃんをここに来させることだね。これは簡単。お兄ちゃんは間城さんに渡された課題を手伝えるか考えていたからね。フラフラ歩いてる所で目に入るような光をパッと出したらお兄ちゃんはあら不思議、まんまと寄ってきた訳だよ!」
「間城が超常現象を探す課題を出されて俺がその課題に興味を示したところを狙ったのか。」
ロアはニコッと笑い「その通り!」といった。
「因みに、これを考えたのはロアだよ!ロアってば凄いね!」
なんという自画自賛・・・。これだけ笑顔で言われると何も言えないな。何かを言おうとしたわけじゃないけど。
「一体ロアは何が目的でここに来たんだ?」
「ロアはねー、見習いの神様は修行の為にここにきて修行するみたい」
「だから、ここに来たのか。」
「そうだよ、それとね?同時に人間と一定期間の間は一緒に過ごすの!」
「神様の見習いから卒業するのは難しいんだな。まあ、見習いから卒業できるといいな。」
「何で他人事みたいに言ってるの?ロアとお兄ちゃんはこれから一緒に生活していくんだよ!」
俺の中で時間が止まっていることが分かった。ここは冷静に行こう。
「マジか。この機に及んで神様です。くらい信じれないぞ?あまり高校生をいじるのは控えろよ?」
俺の立場上は高校生だから。いや実際に高校生だから。ロアみたいな小さな子供にいつまでも遊ばれるのはダメだろう
「いやいや、これがビックリだよ。お兄ちゃん。天界の神様から直々に言われたんだよ。あとこう見えてお兄ちゃんと同い年だよ?見た目だけでは判断しちゃダメだよ?」
そういってロアは神々しいオーラを浴びた紙を渡してくる。
「えっと何々?ふむふむ。」
「どう?これでお兄ちゃんが選ばれたとわかったよね!」
「悪いロア。俺には何が書いてあるかさっぱりだ。」
実際、自分の名前すらどこに書いてあるかすらわからないのである。
「もう。お兄ちゃんはこんな簡単なものも読めないの?」
人間様に天界の文字が読めるか!俺の心の中で鋭い突っ込みが炸裂したがそんなことはロアは知らない。
「ロアが一部分だけ読むね?」
そう言うと、ロアの背中からは翼が出できた。しかし翼をみて驚いている俺には目もくれずスラスラと紙の文章を読み始め、俺はただその光景を眺めることしかできなかった。
「・・・・以上かな?」
その言葉と共にロアの翼は消えてしまった。
「聞いてた?お兄ちゃん?」
「あ。ああ」
あんなものを見せられて聞ける訳ないだろう。ロアは本当に神様なのか?
「じゃあ、これからよろしくね!お兄ちゃん!」
は?一体ロアは何を言っているんだ?
「よろしくってどういうことだ?」
「ん?これからはお兄ちゃんの家でお世話になるからね?」
「同じ家で暮らすのか?」
それはさすがにまずいと思う、間城にはどう言えばいいか分からないし。
「お兄ちゃんと一緒に暮らさないと立派な神様になれないんだよ・・・。」
「だから、ロアと一緒に暮らしてくれないかな?悪いことは絶対にしないから!」
「本当か?絶対だぞ?何もいらない事は言うなよ?」
「うん!絶対!約束するよ!お兄ちゃんは優しいね!」
「そうか?」
「うん!ところでお兄ちゃん時間とかって大丈夫?」
そう言われ、確認してみる。携帯の時計が指す時間にはすでにバスは来ない時間だった。
「ロア、歩いて帰れるか?」
ロアは「うん!大丈夫!」と返事してくれた。どちらかというと夜道が怖いと言うよりもロアを家に連れて帰る最中に何か聞かれないか怖くて、この事を間城にどう説明するかなんて頭からとうに消え去っていた。