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時屋神ーときやかみ  作者: 宮川精芦
6/6

和也と健

「健、ちょっと日陰に入って休まないか?汗びっしょりじゃないか。」

そろそろ太陽が真上に登りそうだ。影はただただ足元に溜まり、人の形を成していない。まるで汗で作った水溜りのように足元に黒い円を作っていた。

「もうちょっと、もうちょっとで完成だから。」

健の目の前には大きな砂山が出来ている。大きなと、言っても健の身長が100センチ程度なので目測で70センチといったところか。まぁ、幼児が作ったにしては大きいのだが。土台、と言うより大まかな原型は和也が作ったと言っても過言ではない。今はこの砂山を健が自分の中ではお城にするべく壁面に石を埋め込んだり、窪みを作ったりと装飾を施している。

「頑張れ。」

「うん!あとお城の横に川を作るんだ。」

まだ終わりそうにないな。恵子には和也と健がいない間に掃除を済ませて買い物も午前中にしておきたい。それからお昼ご飯を用意しておくから少しゆっくりしてきて欲しい。と、言われて出てきた。もちろん、その時にはまだ外の暑さを舐めていたし、それほど気には止めなかった。それに子供と公園に出てきて1時間程度で家に帰るのも父親として努力が足りない気がする。ここはしっかりと健のお城を完成させてやろう。この城が洋風の城なのか、和風の城なのかは見た目では判断できないのだが。いや、川を作ると言っていた。お堀の様に張り巡らされたなら、和風の城の可能性が高いか。城の近くを流れる小川なら何処ぞのメルヘンの国の洋風のお城と捉えて構わないだろう。いやいや、幼児がお堀を作るとは思えない。恐らく城攻めをしてくる敵もおるまい。子供が作りたい城と言ったらきっと甲冑を纏った大名の住む城ではなく、かぼちゃパンツにタイツを履いた王子様や、眩いドレスを着たお姫様が住む城を作るのが普通だろう。絵本もテレビも映画も今の世の中のお城の定番はきっとそっちだ。幼児向け番組に大名は出てこない。もしも健に誰が住んでいるのかと聞いたらこう返って来るだろう。「王子様とお姫様」まてよ、この可能性もあるな。「お父さんとお母さんと僕」悪くない。家族が住む城を一生懸命作っているなんて可愛いじゃないか。非常に長い独り言の様な考えを巡らせて1人笑みを浮かべてしまった。

「健、そのお城は誰のお城なんだ。」

完成してから聞こうと思ったがついつい口から出てしまった。

「カエル」

「え。」

「カエルのお城。」

耳を疑った。たった3文字の返答なのに聞き違えたのかとすら思った。思わず「え」などと素っ頓狂な声が出た。しかし、しっかりと補足されて返ってきた。「カエル」そうか、「カエル」か。そうだな、人間が住むにはどう考えたって小さい。アマガエル程のサイズならまさにお城といったサイズだ。うん、成る程。この暑さの中、汗だくになり、父親と一緒にカエルの城を作っていたのか。いや、いくら今から城の周りに川が流れたとしてもこの暑い砂の城はカエルにとっては住み心地最悪だろう。まぁ、健の努力を無駄にする様な野暮なことは言うまい。

「健。そろそろ完成だし、父さんはジュースを買ってこよう。汗もいっぱいかいたし、冷たいジュースで乾杯しようじゃないか。」

ここは小さな公園で周りの道路からも見通しが効く。この暑さで公園内に人気も無い。自動販売機は確か、公園を出てすぐの所にあったはずだ。ジュースを買いに行っても健から目を離すのは長くて2、3分ってとこだろう。健はこの通りカエルの城を一生懸命、一心不乱に作っているし、大丈夫だ。

「すぐ戻るからちょっと待ってるんだぞ。」

「はーい。」

返事は返ってきたが、川の工事に着工した健は目線を和也に向けずに砂を掘っていた。

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