和也と建
「お父さん起きてー!」
日曜日の朝8時過ぎ。子供特有の甲高い声が耳に痛い。強く揺さぶられた後にドタドタと足音が移動する。シャーっという音と共に光が部屋の中いっぱいに広がる。春の暖かさを伝えるような優しい光ではなく、もっと攻撃的な光だ。遮光カーテンを引いていた和也にとっては暴徒の沈静に使われるような閃光弾を食らったに近いくらいだ。反射的に被っていたタオルケットを頭まで引き上げる。子供とは悪気が無いだけに時には大人に容赦の無い仕打ちをするものだ。健はただ父親を起こしに来ただけだ。ただ、大人ならば先ずは声だけを掛ける。それでも起きる気配が薄ければ掛ける声のボリュームを大きくするか身体を揺するなどの軽いアクションを加える。それでも起きないようならやはりカーテンを開けて光を浴びせるだろうか。ただ、季節が夏で無ければ先に光を部屋に取り入れるのも優しさと言えなくもない。ただ、真夏の太陽光は少々いきなり浴びるには暴力的だと言える。それはまるで子供が急に父親のお腹や背中に飛び乗る行為と同じく悪気が無く、加減が出来ないだけだ。
「ま、眩しい。」
タオルケットを引き上げ顔を隠しながら呻き声をあげる。
「お父さん!朝だよ!」
やはり音量に容赦が無い。さらに容赦無くタオルケットも力一杯奪い取られた。ここまでされれば嫌でも目が醒める。無論、嫌だとは思っていないのだが、本音を言えばやはりもう少し優しく起こして欲しいと言うのが本音だ。
「起きた、起きたよ。ありがとう、健。でももう少し優しく起こしてくれないかい。」
「でも、それじゃあお父さんなかなか起きないでしょ。」
うーん、反論できないと、胸中で納得してしまった。早く朝ごはん一緒に食べようと、言ってパタパタと一階のリビングに戻っていった。和也は寝室のエアコンをオフにして時計を眺めた。8時半、なるほど、昨夜に明日は1日一緒にご飯が食べられるって話をしたから待っててくれたのだなと、微笑ましく思い顔を洗うために洗面所へと向かった。