『剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、明日の朝日を拝める気がまったくしない』シリーズ
剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、七十過ぎて戦争に動員されてしまった件
今日の昼に活動報告で書いたように、本作の長編版の書籍化が吹っ飛んだけど、私は元気です(白目)
とりあえず、リハビリ用にこっちから書きました。
※本作は、短編連作シリーズの六作目です。そして、長編版は、パラレルワールドです。
ただ、前作までとは時間軸も大きく飛んでますし、短編間での繋がりもそこまで大きくないので、本作単独で読んでも楽しんでいただけるのではと思います。
「くそっ! なんで俺が戦争に行かなきゃなんないんだよ!」
七十過ぎたジジイを、戦場に引っ張り出すなってんだ。
あの獅子王とか名乗ってる中二病国王、八十過ぎて自分が元気だからって何考えてんだよ。
頼むから、若い連中に行かせろってんだ。こんなの人権侵害だ!
「帝国は、聖女エレーナが直々に兵を率いるそうだ。なればこそ、王国軍を率いるのはお前しかあるまい」
じゃねえよ!
そりゃ行くよ!? 王様命令だから、逆らったら怖いじゃないか!
あんな野郎、パワハラブラック中二病国王として末代まで語られればいいんだよ!
あーもう!
転生してからこっち戦争ばっかりだのが、最近やっと若い娘さんたちといちゃついてるだけの平和な毎日になってたのに!
転生するときに特に出会わなかった神様! 平和な日々を返して!
……せめてなぁ、聖女様がピチピチな若い娘さんなら良いんだけどなー。
俺と同年代のババアじゃなぁ……。
七十過ぎたババア相手に、『くっころ』とかやっても何にも楽しくないんだよ!
若いころはめっちゃ美人だったんだけどなぁ……。
まあ、仕方ない。
七十過ぎのジジイを働かせる鬼畜でも、上司は上司。
「そんな訳でお前ら、任せる」
「はっ! 我ら一同、『獅子王陛下の爪牙』たるアランさまのご期待に応えてみせます!」
絶対勝てるとか言われてホイホイついてったら味方が大潰走して、数万の敵中に千の兵と共に取り残された初陣を始め、あの国王に放り込まれた数々のクソみたいな戦場に一緒に連れてったじいやも、九十過ぎた時に戦場に連れてこうと呼びに行ったときに亡くなってしまった。
そんなことがあってかき集めた若手どもに丸投げして、俺はのんびりする。
――そんなことを思ってた時もありました。
「うぎゃぁっ!? こ、腰がぁ……」
ある晴れた秋空の朝、その惨劇は起こった。
いや、朝起きて天幕から出て、ちょっと体延ばしただけだぞ?
これだから老体は困る。若い頃が懐かしい――なんて、言ってる場合じゃない!
「おいこら、お前ら! 聖女は!? エレーナはまだ倒せんのか!?」
「ア、アランさま!? その、今は、あの……」
「まだなのか!? 遅すぎるわ! 何? まさか、聖女の位置も掴んでないとか言わねえよなぁ!?」
「は? いや、それは分かっておりますが――」
「本陣動かせ! 聖女のところに突撃じゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
「……え? いや、現在我々は押されていまして――」
「いいから突撃なんだよぉぉぉぉおおおお!!!!」
「はいぃぃぃいいいいいい!!!!!」
腰が痛くて座れないんだよ。
いや、座ってても立ってても痛いとか、何て地獄ですか?
要塞の固いベッドとか、野営とか、本当にキツイ。
だから、考えた。
大将狩れば、さっさと帰れるんじゃなね? と。
そこからは、苦しい戦いだった。
「アランさま! 北の方で聖女の旗が!」
「突撃ぃぃいいいい!!」
「アランさま! 今度は南で聖女の旗が!」
「突撃ぃぃいいいい!!」
「アランさま! 今度は――」
「突撃! 突撃!! 突撃ぃぃぃいいいいいい!!!」
本当に、つらい戦いだった……!
「今度こそ……今度こそ本当に聖女エレーナが居るんだな? いてて……」
「はい! アランさまが直接指揮なされてから、それまでの劣勢が嘘のように押しておりますので。谷底の道を通った先にあるヴァロワの地に、こちらの半分の兵力と共に居ります」
何回も何回も空振りして、もう俺の腰はボロボロだ。
今度こそ終わらせないと、本当に死んじまう!
いつまでも腰を休ませられないせいで、いつまでもお姉ちゃんを抱けない枯れ果てた生活! 地獄! ヤバい!
「よし、突撃!」
「え? いやいや、ヴァロワの地は、このコンフォールに比べて寡兵でも戦いやすい地形です。戦略的にもアランさまが追いつめましたので、待っていれば――」
「待つぅ? 却下じゃボケェ! さっさと突撃! 全軍突撃!」
「は、はいぃぃぃいいい!!」
何か悠長なこと言ってるバカを怒鳴り、要塞内の全軍引き連れて突撃である!
最近ちょっと腰が小康状態なんで、再発前に何とかしなければ……!
「で、空っぽだったって?」
「は、はい。城内は、ほぼ負傷兵しか居ませんでした。聖女たちは、我々との決戦のために、我々の居たコンフォールへと向かったようでして」
「え? 別に会わなかったよな?」
「その、もう一本の方の谷底の道を通ったようでして」
「突撃! さっさと戻るぞ!」
「やっぱり!!」
あのババア!
聖女とか呼ばれてるんだから、俺の腰も労って、さっさと戦ってくれよ!
そう思いながら、聖女側が使った谷底の道を突き進んでいた時のことだ。
「アランさま! 聖女の軍勢です! 前線では、戦いが始まりました!」
「でかした!」
やっと来たよ!!
「押せぇ! 押しまくれぇ!!」
「はい!!」
「ええい! 俺も前線まで行くぞ!」
「え? あっ、我々もお供します!」
俺の腰の一大事だ! 後ろの方でのんびりしてられるか!
「アランさま! やりましたね! 敵が逃げていきます! 我々の勝利です!」
「やったね! よーし、とつげ――ゲフゥ……ちょっと待って……みんな待って、タイム……」
「え? アランさま、追撃やめろって、どういうことですか!?」
調子乗ったせいで腰がぁ……腰がぁ……。
歴史用語辞典『帝国史用語辞典(帝国歴史保存協会、第九版、大陸歴千九百九十七年)』、『ヴァロワ・コンフォール間の戦い』の項目より
死期を悟った『帝国の聖女』ことエレーナが、自分の生存中に『獅子王の爪牙』ことアラン及び王国軍の力を削ぐために始めたグロワナ戦役における、最後の戦い。
グロワナ戦役序盤において、堅実かつ隙のない用兵で優勢だった帝国軍だが、アラン自ら指揮を執り始めてからの神出鬼没な芸術的戦略機動の前に帝国軍は対応しきれず、形勢が逆転していた。その結果、エレーナはわずかな兵と共に他の味方軍勢から孤立し、ヴァロワの地に追いつめられることとなった。
エレーナは、コンフォール城にアランが居ることを知ると、敢えて寡兵でも戦いやすいヴァロワを放棄して、大軍の運用に有利なコンフォールでの決戦を企図し、策を立てた。
しかし、アランはエレーナが放棄し少数の負傷兵のみが守るヴァロワへと進軍することで、エレーナの策は破られることとなった。この際、エレーナは、自らの思考のすべてを読まれてるかのようだと側近に漏らしたとされる。
孤立した以上は決戦以外に策がなく引き返すエレーナと、空間が限定されすぎたことで策を用いる余地のない谷底の道での消耗戦を選んだアランの間で生じたのが、ヴァロワ・コンフォール間の戦いである。
戦いそのものは、数において圧倒的に優勢だったアランの思う通りの消耗戦となったが、致命的な損害を受ける前にエレーナは、谷底の道を越えた更に先までの長距離の偽装撤退と伏撃を企図する。
しかし、策を見切ったアランは全軍に追撃中止を命令し、エレーナによる逆撃は、命令を無視して追撃を行った少数の王国軍部隊を打ち負かすのみであった。
その後、他の帝国軍部隊と合流を果たしたエレーナは、これ以上の継戦は不可能であると判断し、停戦を申し込むこととなった。
アランの下を訪れた停戦の使者は、アランによって三日三晩も続いた宴会によって厚く遇され、その健闘をたたえられたという。
なお、グロワナ戦役におけるアランの芸術的戦略機動は、現代に至るまで研究が続けられているものの理論化はなされていない。
アランによる戦略機動を再現しようとした軍はすべて部隊間の連携を失って大損害を受ける結果となっており、アラン個人の才覚によるものであるとして諸国における士官学校の教本で決して模倣してはならないと説明されている。
そこそこブランクがあるんで、上手く筆が走らなかったような、なんだかんだ走ったような、変な感じが(^^;
なお、本作の戦いはこれまでの似たような戦いが生じる可能性はある五作と違い、長編版では絶対に起こらない戦いです。
①アラン君の中の人が違う、②エレーナに長編版主人公である軍師兼スポンサーがついた、が原因となって前提条件が揃わないからです。