7.決意
「……ええっと、側にいるといういうのは?」
私はリカルド様の突然の言葉に戸惑いながらも尋ねると、答えは別のところから聞こえて来ました。
『決まっておろう。伴侶として来てほしいと言ってあるのだ』
「ががが、ガルーダ殿! そ、それは少し飛躍し過ぎで……」
『なんだ、違うのか? そんな気持ちは微塵も無いのか?』
「……いや、そうだな、正直に言おう。私はシルエット殿と添い遂げたいと思っている。正直どうしてこんな思いを抱いたのかは、自分でもわからない。だけど、あなたとは一緒にいたいのだ!」
真剣な顔で私の手を握り言ってくるリカルド様……これって、私は告白をされているのでしょうか? 本で見た事はありますが、まさか、自分が言われる日が来るなんて。
そんな事を、当然ながら言われた事の無い私が考え込んでいると
『初めはそこまで深く考える事は無い。シルエットも恋だの何だのはわかってないだろうからの。取り敢えず小僧について行くと良い』
ガルーダはそんな事を言ってきました。勝手な事を言っていますが、私にはそんな事は出来ません。お母様との約束が……
『ああ、シャルティアとの約束なのだが、あれには続きがある。お主には教えてなかった続きが』
……突然何を言い出すのでしょうか、この鳥は。焼き鳥にしてあげましょうか? 私がガルーダの背中を火魔術で炙っていると
『や、やめんか、シルエット! ちゃんと話すわい。シャルティアは、お主にこの森から出ないように約束したのは覚えてあるか?』
「当たり前です。私はそれを守って、生まれてこの方森から出た事が無いのですから。そしてこれからも」
私が迷うことなく言うと、リカルド様は顔を俯かせます。私がリカルド様に言おうとした時
『そう、焦るな。シャルティアがお主にこの森から出ないように話したのは、お主の事を案じてだ』
「私の事を案じてですか?」
『ああ。お主は小さい頃から既にかなりの才能と力を持っていた。シャルティアは、その事を喜ぶと同時に不安も抱えておったのだ。お主をこの森から外に出しても良いのかと』
お母様がそんな事を考えていたなんて。でも、それなら、話してくれても良かったと思います。
『お主が小さい頃には既にシャルティアは病に侵されておった。もう死期が近い事も気が付いておったのだろう。シルエットが小さい時に自分が死ぬ事を』
「……お母様」
『奴がただ1つ心残りだったのが、お主の事だ。小さいながらもかなりの才能を持ったお主を外の世界に出せば、必ず狙われる事はわかっていた。狙われてシルエットが辛い思いをするぐらいなら、外に出さなければ良いと考え』
「あのような約束をしたのですね」
私の言葉にガルーダは頷きます。そうだったのですね、お母様。
『だが、お主は成長した。自分で考え行動できる歳まで。まだ、世間知らずなところがあるのがたまに傷だが、それも、小僧が補ってくれるだろう。後はお主たちで話し合う事だ。ほれ、着いたぞ』
家に辿り着いた私たちは、ガルーダの背中から降ります。ガルーダは、降りた私たちを一瞥すると、そのまま空高く飛んでしまいました。
いま家の前には私とリカルド様しかいません。ただ、沈黙が続きます。どうしようかと迷っていた時に
「明日の朝、私はここを出て行く。一刻でも早く妹を助けたいからな。シルエット殿、私の側に付いてきてくれると言うのなら、明日の朝、一緒にここを出て欲しい。もしここに残るのであれば、顔を合わせる事なくそのまま別れよう。それじゃあ、お休み」
リカルド様はそれだけ言うと、家の中へと入って行きました。リカルド様が使っていた部屋の扉が閉まる音がします。
さて、私はどうしましょうか。色々と考えたい事はあるのですが、まずは体の汚れを取りましょう。私は家に入ると、直ぐに浴室へと向かいます。
水魔術で水を溜め、火魔術で直ぐに温めます。これで大丈夫ですね。服を全て脱ぎ、足からゆっくりと浸かります。
ふぅ〜、気持ちいいです。少しぐるぐると回っていた頭も落ち着いてきました。さて、リカルド様の返事をどうしましょうか。
私自身はリカルド様に興味はあります。初めて出会った生きた異性の人間です。これから先、あのような人に出会う事は無いかもしれません。
しかし、これが本でいう恋愛感情なのかどうなのかは、全くわかりません。今までそういうのを感じた事がありませんから。
私は湯船にまで口を付けてぶくぶくも泡を立てます。この数日間はかなり楽しかったですね。朝起きたらおはようの挨拶があって、ご飯を作れば、美味しいと喜んでくれて、私が魔術を使う度に凄いと褒めてくれました。
毎日が楽しい日々でした。それが、無くなるとなると……暗い気持ちになりますね。ほんの数日でしたけど、リカルド様の存在がそれ程までになっていたとは。
お母様が亡くなった時も当然悲しくて涙が止まりませんでしたが、あの時とはまた違った悲しさです。お母様、私は……
◇◇◇
「ふぅ、準備はこんなものか」
私は自分が今までつけていた装備をつける。左肩に背負うリュックは、シルエット殿が討伐した魔獣の皮で作られた丈夫なリュックだ。
かなり丈夫過ぎて、私の剣術では切れなかった程だ。悲しい事に。私はそのリュックを背負い、部屋の中を見渡す。
ほんの数日だったが、忘れがたい思い出だった。王宮では、周りの殆どが敵で、信頼出来るのは妹も含めてごく僅かだった。
しかし、シルエット殿は、そういう事とは無縁だったので、初めから警戒する事なく話す事が出来た。私の命の恩人というのもあるだろうし、一目惚れでもあったからな。
彼女は、とんでもない力を持つが、どこか抜けており、この森から出た事がないので、あまり世間の事を知らない彼女だけど、私はそんな彼女に少しずつ惹かれていった。
彼女は私には付いて来ずに、このままここに残るだろう。それでも構わない。私の心に彼女がいれば。それだけでいい。
別れを言って悲しい気持ちになる前に、ここから旅立とう。妹も心配して待っているだろう。まずは、生きてこの森を抜けなければならないが。生きて出られるだろうか?
私は苦笑いをしながら、扉に手をかけると
「あら、もう少し待ってはくださらないのですか?」
と、後ろから声が聞こえてきた。私は直ぐに声のした方へ振り向くと、そこには私の持つリュックと同じものを持つシルエット殿の姿があった。
「今日は旅に合った良い天気ですね! これなら、霧も起きずに楽に森を抜けられそうです!」
微笑みながら話しかけてくれるシルエット殿。しかし、私は口をパクパクとさせるだけで、声を出す事が出来なかった。そんな私を見て首を傾げるシルエット殿だが
「この姿を見たらわかると思いますが、リカルド様に付いて行く事にしました!」
と、言われた。そして、シルエット殿の言葉は続く。
「正直に言いますと、今はまだ、恋愛感情というのがわかりません。それがどういう感情なのかわからないのです。今まで感じた事が無いので。
でも、リカルド様と離れたく無いという気持ちはあります。この数日間、今までに無く楽しかったですから。だから、リカルド様に付いて行く事にしました。駄目ですか?」
「……いいや、そんな事はない。今はそれだけで十分だ。まだ、私たちは出会ったばかりだ。これから、わかり合っていけば良い」
私の言葉に、シルエット殿はとても綺麗な笑みを見せてくれた。私はシルエット殿が好きだ。その気持ちを、シルエット殿の口から言ってもらえるように、これから頑張って行こう。
◇◇◇
『シャルティアよ、お主の娘は旅に出たぞ。今までは知らなかった里という世界。王の力を持つお主の娘は、世界にどのような影響を与えるのだろうかの? シャルティア、お主の代わりにもう少しわしが見届けてやろう』