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■第二一夜やん:寝言は眠らない


 でまあ、長い長い回想を終え、オレたちはいまバンパク公園内の木立に身を潜めている。

 

「うわわわわわわ、やっぱ近くで見ると、マヂでシャレになってねえなアレ」

「全高70メートル超だぞ。巨体が唸るどころの騒ぎじゃねえ。空を飛ばねえだけでもマシだと思えよ」


 オレの本音に気休めを言うゲンのセリフも震えている。

 ひとつは圧倒的な暴力に立ち向かおうという無謀に。

 もうひとつはその暴力の主が歩むたびに引き起こされる激震に。

 さいごのひとつは、寒くてだ。

 

「さってと……手順を確認しておこうか」


 悪路を走破し、なんとかバンパク公園に辿り着いたオレたちは路肩に止めたくろがね四起の車内でカンタンながら飯を詰め込むことにした。

 火は使えねえから魚肉ソーセージと塩こぶさん、マヨネーズのおにぎりに、ゲンのヤツが持ち出してきたデカイ魔法瓶のお湯を使った乾燥味噌汁。

 もちろんインスタントなんて上等なもんはねえから、こりゃあれだ、ムロキがポテチなんかのスナックを加えたミソを団子状にして乾かしたあと、紙で包んどいてくれたやつだ。


「……意外とポテチ味噌汁……わるかねえな」

「だろ? コンソメ味とかでもいいし、スパイシー系は寒いときに効くぜ?」

「むかし、牛乳のなかにコンソメ味のスナックぶち込んでポタージュこしらえてたな、オマエ、トビスケ」

「エンドウ豆系のスナックなら、ピースープになる。ちょっとだけ根気がいるがな」


 いや、そんなことはどうでもいい。

 燃料補給はこっから先の長丁場を考えれば必須だったが、それよりもいまは今次作戦の要諦ようたいの確認が先だ。

 

「ここへ来る途中でも話しかけたんだが……エリスをもといた世界へ返す方法な。あのマスケットXXで起った事故が、じつは大きなヒントなんじゃねえかと思うんだよ」

 食いながら切り出したのはゲンだった。

「あのときオレたちは異世界に飲み込まれるどころか、うっかり新しい異世界をこしらえそうになったわけだが……それを利用できないか……いや、利用できるんじゃねえか、とオレは思うんだ」

 むぐむぐ、と魚肉ソーセージとマヨネーズで味付けされた拳大のにぎり飯を頬張りながらゲンは推論を続ける。

 ちなみにこのデカイ握り飯をこしらえたのはムロキだ。

 でかすぎないか、というオレに「兄さんは大きいほうがお好きでしょ」と返された。

 そうですか。

 

 で、ゲンの話だ。

 

「あのとき、エリスは想い出の本に再会し、接触することで異世界への《ポータル》を開いた……もっとも、開いた《ポータル》は作者・・の望んだ世界つまり本のなかに描かれた世界へと通じていて、それがエリスという別の異世界の、しかし実在する存在を喰らってもうひとつの異世界へと成長しようとした。あやうく大惨事に発展するというか、第二次異世界衝突が起るところだったが……あの原因は、間違いなく作者が描いた物語とエリスとの共感にある、とオレは睨んだのさ」


 あのあと何度試しても、他の本ではぴくり、ともこなかったのはそこじゃねえかと当たりをつけたんだ。

 ここまではいいか? ゲンはオレとエリスの顔を交互に見る。

 とくにここまでの仮説に異論はない。

 オレは頷く。エリスも。

 じゃあ、だ。やたらめったら食べごたえのあるにぎりめしをうんぐうんぐ、と喉を鳴らしながら飲み下し自説をゲンは続けた。


「ただ、その反応のコアとなる部分を作品世界とエリスというふたつが担ったため──《ポータル》はエリスそのものを建材に現界げんかいしそうになった」

現界げんかい?」

「空想世界のものや異世界のものが、カタチを取って現実こっちに現われることだ。オレたち寝言師の専門用語だ。妖怪なんかはみんなそうやってこっちに現われるとされている。わりい、ゲン、続けてくれ──」


 エリスの疑問に答えたオレに、ゲンは頷くと話を続けた。

 

「そこでオレは考えたんだ。エリスを人柱に《ポータル》を開いたんじゃ話にならない。一番確実だとしても本末転倒だ。それにきっとあの本はもう、ない」


 だが、と気持ち語気を強めてゲンは問いかけた。

 主に、オレに。

 専門の寝言師としての見解を聞かせろ、と。

 

「もうすでに開いている《ポータル》に向かって、寝言をぶち込んでみたら、どうなる? それも、エリスが思い描く、帰り着くべき異世界の物語を──」

 

 考えなかったか、と言ったら嘘になるだろう。

 しかし、ゲンの提案はオレを硬直させ、しばらく絶句させるくらいには破壊力があった。

 

「オマエ……なにを言ってんのかわかってんのか」


 オレに真剣に言わせるくらいには、それはとんでもない発言であり、まちがいなく今世紀最大級の寝言だった。 

 




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