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俺を、強くしてください


 俺とガルドさんは、普段手合わせをする際に利用している、砂と岩石以外には何もない、どこか寂しげな広場にやって来た。

 ガルドさんはここに来ると、いつも少しだけ哀しそうな顔をする。崩壊した城とその過去に思いを馳せているのだろう。何とも気まずい。

 しかし先日、つい懺悔の気持ちに駈られて謝罪を口にしたところ、じゃあその分お前が楽しませてくれるんだよなぁあ?と戦闘狂スイッチが入ってしまったので、もはや何も言うまい。

 

 「取り敢えず、自分の能力の確認から始めてもいいっすかー?」

 

 「おう。好きに始めてくれ」

 

 了承を得たところで、まず魔法の確認から。

 この世界の魔法は基本的には、火・水・土・風・雷の5属性+光、闇。創造だとかの便利な魔法は無しのオーソドックス型。

 身体に流れる魔力量や質により、出来ることも変わってくるのだが、そこはチート。全属性使い放題だ。

 しかし魔力の枯渇が無いわけではなく、魔王との最終決戦では魔力がほぼ枯渇したため、転移しては剣を振るい、転移しては剣を振るいを繰り返し、ようやくとどめを刺すに至った。

 ちなみにこの転移は、一応光属性と考えている。光属性は勇者固有の魔力らしいし、転移できるのも俺だけだからという安易な考えである。

 それなりに具体的に行き先の情報を頭で認識できていれば発動することのできる技であり、正確な座標が分からなくても勇者補正でなんとかなってしまう便利技だ。

 加えて、勇者だからといって闇魔法が使えないわけでもない。魔王軍相手には闇属性魔法は威力半減の為使用を控えていたが、武闘会での使用を踏まえて、少々鍛えておいたほうが良いだろう。


 魔法の発動は、手を翳し、放出したい力を想像すると、その属性の色をした火の玉のような物が出現する。

 力を込めれば込めるほど大きさや強さを調節できるし、槍や日本刀など、複雑な形を作ることもできる。複雑な形の場合、それに見合った殺傷能力を帯びた魔法になるが、その分消耗も激しい。

 勇者特典なのか、光魔法の威力は他と比べて少し強く、魔力の消耗も少ないので、俺は複雑な形を取るときは大体光魔法を使用している。

 そして、これは非常に奇異なことなのだが、俺の場合、火の魔法だけは口から出る。

 まるでドラゴンのように、口から出るのだ。恥ずかしいことに。火傷したりはしないのだが、全くもってトリッキー。

 100の俺の中になら、こんな奴もたくさんいるのだろうか。

 さらに万能なことに、光魔法で少しなら回復もできる。かすり傷や打ち身程度なら見る間に綺麗になっていくから、これはちょっと面白かった。

 捻挫や骨折、内蔵の損傷など内部の怪我になるにつれて効力は弱まるが、患部に魔力を集中して当て続ければ、通常よりもずっと早く治すことができる。

 と、まあ魔法のおさらいはこんなものである。


 武器は定番の聖剣。神聖そうな洞窟で、岩に刺さっているのを抜く、あれだ。

 普段から魔力を与えてやっていると、有事の際にシールドを展開してくれる優れものである。

 しかし異空間に収納できるわけでもないので、常に背負っていなければならず、おれの肩凝りの原因となっている。

 こういう武器に魔法で属性を付加することも出来るが、魔力が湯水のように沸いてくる俺は、そのまま魔力で作ったほうが早いため、それはあまりやらない。

 地球では武道なんて体育でかじった程度、兄弟喧嘩の殴り合いくらいでしか拳を振るったこともない俺の体技などたかが知れていたが、一年半も毎日戦っていたのだ。それなりの動きはできるようになった。

 うむ。これまでの成長の過程を振り返った上で、武闘会に挑むに当たって必要なものはなんだろうか。

 

 「魔法の威力の増強、闇魔法強化、体術の会得、魔武器のレパートリー増加……」

 

 ぶつぶつと1人呟きながらガルドさんに近づいた俺は、その正面に立ち、深々と頭を下げた。

 

 「ガルドさん。俺を、強くしてください」

 

 直ぐさま頭上で、楽しそうに笑うガルドさんの気配を感じた。

 

 「当たり前だ。俺の楽しみは強え奴に勝つことだからな。そのための努力は惜しまねえぜ?」

 

 ガルドさんは不適に笑いながらそう言うと、両手から濃密な紫紺色の魔力を発した。

 彼の手のなかでそれは、闇夜の色の対の大鎌へと形作られていく。

 

 「来いよ、サンタロー。時間ねえんだろ」

 

 「そうっすね。いきますよ」

 

 取り敢えず俺は、全属性の魔球を2つずつ計14個生み出し、空に浮かべた。うん、特に不調はない。

球のうちの水と雷を片方ずつ手に持つと、それを勢いよくぶつけ合わせる。

 そのまま波動砲を打つイメージでガルドさんに両の手のひらを向けると、爆音を轟かせながら高出力の雷が放出された。

 

 「あ?なんだあ、真面目にやれよ。」

 

 「ですよねー。」

 

 ガルドさんは鎌のひと振りで衝撃を吸収してしまったが、大体の敵はこの複合魔法で倒すことができていた。

よし。複合魔法にも異常なし。


 単純な確認作業にも飽きてきた。そもそも特訓なんて実戦あるのみである。くどくど考えるのもここまでだ。


 闇の魔力で持ちやすいサイズの剣を作りだし、右手に握りしめる。

 しかしガルドさん、隙がない。転移で飛び込もうにも、やり辛いことこの上ないではないか。

 

 「仕方ないな……」

 

 転移でガルドさんの前方上空50メートルほどに。先ほど出した魔球の残弾12個を矢継ぎ早に浴びせかける。


 土煙が巻き上がったところで懐に飛び込む。


--首にヒヤリとした鎌と一瞬の焼けるような痛み。そこを目掛けて剣を振るった。


 力の差は歴然。刃どうしの当たったガツンという衝撃で後方に飛ばされ、それを追うように黒い巨体が迫ってくる。


 十分に引き付けたところで相手の後方に転移。両手に握りしめた闇の十文字槍をその背に力一杯振り下ろす。


 が、その刃先は彼の背中から放出された闇によるシールドで受け止められ、かすり傷をつけるのみにとどまった。


 さらに彼の手からは大鎌のうちの1つが俺の顔目掛けて飛んできて、腹筋を駆使して即座に反り返り、それを回避する。


 好機とばかりに体を反転させたガルドさんは、闘牛のごとく、体勢を崩した俺に襲い来る。


 闇の炎を纏った拳は俺の顔を正確に捉えたように思われたが、咄嗟の数10センチの転移によって、僅かに頬を掠めるのみとなる。


 勢いづいた拳のカウンターを狙って出した俺の右腕は、相手に届くことはなかった。


しかし機転を利かせ、ここぞとばかりに威力を強めた光の魔力を右手から発すると、やっと彼の顔面を捉えることができた。


 相当な手応えを感じたものの、額からたらりと血を流したガルドさんは、爽やかに笑いながらそのまま勢いよく俺の腹に蹴りを入れる。


 反応の遅れた俺は鈍痛を腹に感じながら、またもや後方に飛ばされた。

 


全身に風圧を受けながら、今まで作ったことのないレーザー砲のような筒を両手に生み出し、4つほどの基本魔法の複合をイメージし、放出する。

 



--4色の範囲の広いレーザー光が辺りを包み、数秒後、ひときわ大きな衝撃が辺りを包んだ。

 

 「おいおい、なんだよ……。痛えじゃねえか」

 

 崩壊した岩石にのめり込むように倒れ込んだガルドさんは、そう言うと事も無げに立ち上がった。

 

 「次はこいつでいきます」

 

 背中から抜いた聖剣を構え、俺は勢いよく地面を蹴った。

 


 

 

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