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幼女魔王さま奮戦記! ~中身はおっさんですけども~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第89話 老兵のお誘い

前回までのあらすじ!


ネハシム姐さんが告白したぞv

 なんだ、こいつらは――ッ!


 座天使(スローンズ)のハルバートでの斬撃をドライグで受け流し、けれども流しきれずに赤い靴で大きく後方へと滑ったユランの眼前に、またしても空間を跳ばしたかのような速さで座天使(スローンズ)が出現する。


 疾い――!


 とっさの判断で両足を地から離し、ハルバートの横薙ぎをドライグで受け止める。

 金属同士を打ち鳴らす凄まじい轟音と、火花と呼ぶにはあまりに大きな炎が爆発して、小さな肉体が悲鳴を上げた。


「か……っ」


 ドライグから腕へ、腕から胸へ――骨まで響く衝撃が走り抜ける。

 とてつもない勢いであらぬ方向へと吹っ飛んでゆく肉体。秒とかからず石壁へと叩きつけられかけて、けれども幼女は身を翻し、垂直の石壁へと両足から着地する。


「~~ッ」


 駆け巡る激痛に顔をしかめながらも、ユランは壁を蹴って飛んだ。ハルバートを振り切った体勢で、悠然と立つ座天使(スローンズ)へと向けて。


「うおるあああぁぁ!」


 持てる限りの力で柄をつかみ、あらん限りの魔力を込めて刀身を熱し、視線だけをこちらに向けた座天使(スローンズ)の一体へと、上段からドライグを叩きつける。

 再び轟音が鳴り響いた。


 だが――。


「莫迦な……」


 座天使(スローンズ)は片手に持ったハルバートの穂先で、ドライグの斬撃を受け止め、足を滑らせることもない。


「片腕でだと……?」


 ドライグの軽減魔法がまるで効いていない。いや、効いていないと思えるほどの怪力を持っているのだ。この天使は。


 ユランは着地をして、再びドライグを正中にかまえた。


 力では到底敵わん――!


 ああ、せめて老兵の肉体があれば。イルクレアの肉体で学んだドラゴンウェポンの使用法と、ユラン・シャンディラの肉体ならば。


 考えた瞬間、気づく。

 眼前から座天使(スローンズ)の姿が消えていたことに。


「――ッ」


 首筋に風、感じて――。


 視線で確認するよりも先に、とっさに首を前に倒す。舞い上がったルビー・レッドの頭髪を斬り裂いて、銀閃が暴風を巻き起こした。


「~~ッ!?」


 ドライグを片手に持ち替え、そのままハルバートの起こした暴風にのって左手一本で前転し、スカートをなびかせながら距離を取る。

 赤い靴が再び地面を得たとき、斬り裂かれた大量の頭髪が、ようやく座天使(スローンズ)の前に舞い落ちた。


 後頭部で束ねていたルビー・レッドの頭髪がごっそりと切り取られ、腰部までを覆っていたそれは今、首筋までとなってしまっていた。


 ああ、また傷つけてしまった。イルクレアの肉体を。


 余計なことを考えて、首を左右に振る。集中を乱せばその瞬間に死ぬ。これはそういう戦いだ。

 心臓は冷たい鼓動を刻んでいた。


 考えろ、考えろ。

 やつはいつ移動した? 己はやつの足を見ていた。膝だ。人型の生物ならば、足で勢いよく移動する際には必ず膝が曲がる。だが動いていなかった。やつの膝は。


 ぶんぶんと己の頭上でハルバートを振り回し、座天使(スローンズ)がその穂先をユランへと照準した。

 厄介な武器だ。

 棒状武器(ポールウェポン)ハルバートは槍同様に広い間合いと刺突用の穂先を持ち、槍の弱点である横薙ぎの殺傷力を高めるために、穂先の根元には斬撃用の斧状の刃が備わっている。

 さらに付け加えるならば、ドライグの高熱でもあの武器を構成する金属を溶かすことはできなかった。ミスリル以上の何かだ。


「はぁ……ふぅ……はぁ~……」


 呼吸を整える。


 ネハシム――の姿をしたイルクレアと、もう一体の座天使(スローンズ)が戦っているが、そちらに視線を向ける余裕さえない。一瞬でも目を離せば、首と胴体も離れることになる。


 無表情のままこちらにハルバートの穂先を向けていた座天使(スローンズ)が、ほんの一瞬だけ熾天使(セラフィム)に視線を向けてから、初めて唇を動かした。


「天使九位階三位、座天使(スローンズ)ザフキエル」


 認めたのだ。自身の猛攻に矮躯で耐え、なおかつ、あろうことか牙を剥いて反撃に出た老兵の魂を、戦士のそれである、と。


 だが――。


「ふん、貴様の名など知ったことではない。死に行く者の名には聞く価値もなかろうに」


 老兵は一笑に付す。

 汲まない。そのような心情など、汲んでやる理由はない。

 あきらかに劣勢。埋まらぬ力量の差など無視して、老兵の魂は、ザフキエルの名乗りを蹴った。


「そうか」


 別段怒りを露わにするでもなく、ザフキエルはハルバートを背中まで引いた。

 逆袈裟、斬撃の体勢だ。

 数秒、停止する。


 どぐ、どぐ、心臓が冷たい鼓動を打ち鳴らし、全身から汗が滲む。

 どこを見る? 膝か? 翼か?

 そんなことを考えた瞬間、再びザフキエルの姿が眼前に現れた。


「~~ッ!?」


 逆袈裟の斬撃をドライグで防いで掬い上げられ、為す術もなく中空へと弾き上げられる。


「く……!」


 膝はおろか、翼すら動いてはいなかった。そのままのかまえ、そのままの体勢で、すぅっと滑るように移動してきていたのだ。


 ふわり、と宙を舞った幼女の肉体へと照準を定め、ザフキエルはハルバートを突きの体勢でかまえた。


 まずい、宙を舞ったままでは体勢が――! ならば!


 ボッと勢いよく空を貫く音がして、ハルバートの穂先が凄まじい速度でユランに迫る。

 抗うこともできずに落下するユランは、ドライグを横薙ぎに振ってハルバートの穂先を叩いた勢いで落下地点をずらし、けれども穂先根元の刃にドレスの袖を裂かれながら片足で着地した。


 ――足を断つ!


 着地と同時に全身をひねりながら回転させ、勢いそのままにザフキエルの足を狙ってドライグで斬り上げる。


「ゼアァッ!」


 だが、ドライグは虚空を斬った。ザフキエルの姿が遠ざかる。


「……?」


 まただ。

 ザフキエルが膝も翼も使わず、すっと滑るように後退したのだ。それはまるで馬車を運ぶ車輪のように――否、まるで、ではない。


 足。サンダルに炎の何かが渦巻いている。その渦巻きが車輪となって、ザフキエルを高速で運んでいるのだ。膝も、翼も動かぬものだから、余計にその初速を見誤り、とてつもなく疾いと感じさせられていた。

 いいや、疾いは疾い。そこに間違いはない。老兵の魂が前世から思い起こしても、これほどの速度で動く敵など――ニーズヘッグ城の主、魔王イルクレア以外にはいなかった。


 だが、まあ。


「クク」

「?」


 今の己であれば、ネタさえ割れればやれることはある。

 老兵ユラン・シャンディラだった頃は、なまじ肉体の攻防性能が高かったため、強引にでも割り込んで敵を討ち滅ぼしてきた。


 だが、幼女の肉体へと変異させられてしまってからは、そういった戦い方はできなくなった。

 考え、考え、考えて動き、力よりも小手先の技や策を使わざるを得なくなった。それこそ、肉体には恵まれなかったあの非力な勇者エドヴァルドのようにだ。

 最も、エドヴァルドはその面ではすでに己の数歩先をいっているようではあるが。


「車輪か、貴様の絡繰りは」

「わかったところで非力な人間には対処などできまい」


 ああ、そうだろうとも。

 たとえ老兵の肉体があったとしても、ザフキエルの方が力も速度も上だ。頼みの魔剣ドライグも決め手にはならない。


 だが。ああ、そう。だが。

 やつは、かつての己と同じだ。天使九位階三位。なまじ、座天使(スローンズ)という恵まれた肉体で生まれたものゆえ、それ以外の可能性を考えなかった。

 ゆえに、そう思えるのだろう。目の前に立つ敵は、抗う方法もない非力な存在である、と。

 ましてや相対する敵が、この矮躯(ようじょ)では。


 ユランは右足を前に出し、右手一本で魔剣ドライグを掲げ、凄まじい形相の凄惨な笑みを浮かべた。


「試してみろ、ザフキエル」


 そう言った瞬間には、すでに己の右方からザフキエルは斬撃を放っていた。だが、ネタさえ割れれば疾風のようなその速度も、しょせんはまやかしであるとわかる。

 飛び抜けて疾いのは、その初速だけだ。だから、静から動へと変じる瞬間にその姿を見失う。


 ユランは頭を下げてかいくぐり、低空をドライグを薙ぐ。

 轟と炎を伴って放たれた斬撃は、しかし体勢を同じくしたまま後退したザフキエルには届かない。

 ならばと踏み込み、追撃に突きを放つ。ザフキエルはさらに後退し、ユランの腕が伸びきったところで反転攻勢にハルバートの歩先で幼女の首を突いた。


「シッ!」

「つぁっ!!」


 ユランはその刺突をドライグで上へとカチ上げ、それでも力を流しきれずに赤い靴を後方へと滑らせる。

 それを追ったザフキエルの振り下ろしに合わせ、ユランが後退から一息にザフキエルの間合いを踏み越え、そのがら空きの胴体に鼻先をつけるほどにまで踏み込んだ。


「――ッ」


 ザフキエルの瞳が見開かれた。

 天使はようやく気づく。自身がこの幼女の姿をした男に誘い込まれたことに。


 受け流せなかったのではない。いや、実際に受け流し切れずに後退したことまでは事実かもしれない。ザフキエルには、それは隙に見えた。だからとどめを刺すべく車輪で前進した。

 それこそが誘い()だった。

 そして誘い込まれたところに、踏み込みを合わせられてしまったのだ。


 近い。近すぎる。

 棒状武器(ポールウェポン)のハルバートでは至近距離には対応できない。


「どるあああぁぁッ!」


 車輪を回して後退する。ドライグの刃が振り下ろされる前に。

 だが。

 ザフキエルの右肩から入った高熱の刃は、胸部を通って左の腰へと抜けた。どぷり、と赤い血液が流れ出す。


「……」


 幼女が邪悪な笑みで呟いた。


「人類にはエドヴァルドという勇者がいる。力も速さもない非力な男だった。だがそれゆえにやつは創意工夫を凝らし、己を高め続け、勇者と呼ばれるまでの存在となった」


 ドライグを振って血を飛ばし、口もとを歪めて。


「今のはそいつの猿真似だ。今、貴様は騙されたと考えているだろう。次があれば同じ技は決して喰らわない、そう思っているだろう」

「……」


 ザフキエルは仁王立ちのまま、眼前の幼女姿の老兵に視線を注ぐ。唇の端からつぅと血液が垂れ始めた。

 鋭いルビー・レッドの視線が、ザフキエルを貫く。


「莫迦が。剣での死合に次はない。……貴様の負けだ」


 ザフキエルの肉体が揺らぎ、ゆっくりと仰向けに倒れてゆく。


「ああ、そうだ。くたばる前に一つ教えろ。おれには何度生まれ変わっても理解できんことだが――」


 邪悪で凄惨、凶暴にて粗野。悪意に満ちた表情で、老兵は尋ねる。




「――なあ、天使も死の間際に神に祈るのか?」




 背中から地に落ちたザフキエルが、その質問にこたえることはなかった。



ガチでぶつかったら絶対勝てませんがな。

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