表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女魔王さま奮戦記! ~中身はおっさんですけども~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/97

第79話 老兵が初恋相手とか

前回までのあらすじ!


ヘドロ誕生ならず!!

よかったね、トロリン!

 王城西方――。


 無秩序に暴れる無数のレッサーデーモンから、未だ抵抗を続ける勢力があった。

 女は唱える。襲い来るレッサーデーモンの群れへと右手を掲げ、紅を引かずとも赤く輝く血色のよい唇で。


「――煉獄の猛き火炎が一筋」


 自身の周囲を揺らがせ、空間をつなぎ合わせ、異空より事象を運ぶ。

 人はそれを魔の法と呼ぶ。


 つかむ。空間を。

 つかんだ手の中に特大剣をも上回る、炎のみから形作られた、空まで届かんばかりの長槍が顕現する。


「大炎槍」


 重量はない。熱量ならばあるけれど。

 女は黒を基調としたシンプルなドレスをひるがえすと、身をねじり込むようにして身体を回転させながら、炎の長槍を空へと薙いだ。

 黒煙に包まれた空が、赤く割れる。


 一振り。逆袈裟に。

 数十体のレッサーデーモンが半身を焦げつかせ、落下する。


 反す刀で二振り。袈裟懸けに。

 すり抜けて迫った数十体を灼き払う。


「ハァァァ!」


 高く持ち上げて、三振り。大地へと叩きつける。

 落ちてなお蠢く生命力の怪物は、その一撃で大地とともに熔解した。


 ぱん、と炎の長槍が火花と化して消滅する。

 だが、レッサーデーモンは自身が朽ちることすら恐れない。次から次へと空から飛来する。


 見上げ、眉をひそめる。


「はあ~……。煩わしいこと。――純潔なりし水辺に()れる乙女が二振り」


 瞬間、空をつかんだ両手の中に、氷のみで形作られた剣が二振り、顕現する。


「氷双剣」


 爪をかいくぐって躱し、すれ違い様に刃で撫でる。

 レッサーデーモンの皮膚は硬い。鋼鉄では斬り裂けない。ましてや非力な女の振るう氷の剣などでは。


 女の背後に回ったレッサーデーモンが、身を翻して細い背中へと襲いかかる。女は反応しない。後続のデーモンに気を向けていて。


 レッサーデーモンは己の勝利を確信する。

 けれども、その爪を首筋へと振り下ろそうとしたとき、己の肉体が急速に動かなくなりつつあることに気がつく。翼は重さを増し、関節は凍りつく。

 為す術もなく女の足もとに落下したレッサーデーモンが最期に見たものは、踵の尖った靴裏だった。


 女はピンヒールで凍りついたレッサーデーモンの首を踏み貫く。

 直後、女は目的のものを発見した。


 もちろん上空に群れを成すレッサーデーモンどもではない。白金の柔らかな髪の少女。白のドレスのスカートを裂いて全力疾走している、この国の希望。王女セアラ・ライギスフィールド。

 どういうわけか、ルビー・レッドの頭髪の幼女と、金色のヴァルキリーを連れているけれど。


 王女が叫んだ。


「アデルリアナ先生!」

「急ぎなさい、セアラ」


 セアラとその連れに襲いかかるレッサーデーモンを、アデルリアナは大炎槍で薙ぎ払う。もっとも、あまり必要はなさそうだったけれど。

 どういうわけか幼女とヴァルキリーは、とんでもない魔力を秘めた特大剣を持っていたのだから。


 護衛……? あんな幼い子供が……?


 アデルリアナはセアラ一行と合流した瞬間、レッサーデーモンの群れに背中を向けてセアラたちと走り出す。


「早く学校(アカデミア)へ」

「うんっ」


 背後に迫ったレッサーデーモンたちを、セアラの護衛をしていた幼女とヴァルキリーが凄まじい勢いで次々と斬り落として進む。

 恐ろしい。息すら乱していない。


「よい魔法騎士ですね」


 そう、魔法騎士だ。騎士ではない。二人とも魔の力を秘めているのを感じる。でなければあんな特大剣を、あんな幼女が振り回せるわけがないのだ。炎や雷は当然として。

 大した手練れだと思う。騎士学校(ナイツアカデミア)の教師にだってそうはいない。この国の将軍級の力は少なくとも保持している。

 カナン王国の北門からここまで、無事にやってこられただけのことはある。


学校(アカデミア)周辺に結界を張っています。残念ながら協会員はわたしを除いて全滅しました」

「そんな……! じゃあ結界は今誰が張っているの!?」


 アデルリアナは淡々と事も無げにこたえる。


「避難してきた魔導師学校(メイズアカデミア)の学生たちですね。さすがに学生を実戦に出すわけにはいきませんから、留まらせて結界を張らせてます」


 結界をくぐる。最初にセアラが、そしてアデルリアナが、ヴァルキリーが、そして幼女――。


「んがンっ!?」


 幼女が奇妙な声を出して、びたんと結界にぶつかった。大いにぶつかってしまったらしく、整った顔が拉げている。


「お、おい、なんだこれは!? おれだけ入れんぞ!」


 アデルリアナが眉をひそめて幼女を睨み、首を傾げる。


「……はぁ~。また煩わしい。何者です? それは魔の侵入を防ぐだけの結界なのですが?」

「おれはただの魔王だ! わかったらさっさと入れろッ!」

「ただの……ええ~……」


 幼女が拳でガンガン結界を叩いている。

 必死な形相が可愛らしい。結界の向こう側でわちゃわちゃ動いている。用足しを我慢している子供のようだ。


「え~……魔王って、あの魔王レギド? 入れろったって、そんなの無理に決まってるでしょ。魔の王ってゆーか、敵国の女王なんだから。常識あります? ねえ?」

「貴様んとこのお転婆王女を護って連れてきてやったんだろうが! 人間に恩義という概念はないのかッ!? 犬でも持ち合わせているものだぞ!?」


 うっわぁ、目が血走ってる……。怖ぁ~……。


「知りませんよ、そんなもん。だってわたし、見てないですからー?」

「この……ど阿呆の腐れ(アマ)がッ! 四の五の言ってないで開けろ! セアラ、貴様からも言え! これだから魔導師協会は好きになれんのだ!」


 彼女の背後にレッサーデーモンが迫った。

 ヴァルキリーが結界をくぐって外に出て、迫ったレッサーデーモンを斬り飛ばし、追撃の雷撃を放つ。

 あの二人は、放っておいても死ぬことはなさそうに見える。


「アデルリアナ先生、お願い、通してあげて」

「なぜです?」

「レギドを父と会わせる! 同盟を締結させるんだ! だめなら父を捕らえてわたしが女王になって、人魔戦争を終わらせるんだ!」


 魔王とヴァルキリーは背中合わせとなって、次々とレッサーデーモンを落としてゆく。


 デタラメだ。自身とて無力な一般人ではない。将軍級の力くらいは持っていると自覚している。

 だが、彼女(あれ)らはなんだというのか。

 凶悪なレッサーデーモンが、まるで綿の詰まった無力な人形に見える。

 燃やし、溶かし、内側から爆破させ、斬って、斬って、斬って、殺す。

 魔法の詠唱もなしに特大の炎や雷を放ち、空の色や大地の景色をも変えてしまう。

 デーモンどころではない怪物だ。危険過ぎる。


「それで? 魔王の傀儡政権誕生ですか?」

「そんなことにはならない! わたしは誰にも従わない! それに、このままじゃどうせカナンはもたないよ! ここで国ごと心中するか、セアラ・ライギスフィールドを信じるか、先生が決めて!」

「だめだと言ったら?」


 結界の外で幼女が顔中に青筋を浮かべて、不気味な笑みを浮かべた。


「もういいぞ、セアラ。時間が惜しい。結界をぶち破る」

「できますー? 学生の張った結界とはいえ、魔とはすこぶる相性が悪いですよ?」


 魔王が無言で赤色の刀身を持つ特大剣を両手で引き絞った。


「さてな。やってみねばわからん」


 ぐんぐん魔力が上昇してゆくに伴って、赤色の刀身が凄まじいまでの熱量を放ち始めた。それは自身が使う大魔法、大炎槍をも凌ぐ規模で膨れあがり、凄まじい大炎柱を立ち上らせ、恐れを知らぬレッサーデーモンをも遠ざける。

 アデルリアナは思った。



 あ、これ、だめなやつだ……。



 おそらく結界どころか学校(アカデミア)がなくなる。

 自分の魔法を限界まで結界に重ねても、防げそうにない。消し飛ばされる。すべてを。


「……あー、はいはい。わかりましたよ、もう。少しだけ結界を裂くんで、その隙間から入りなさいな」

「チッ!」


 なんで舌打ち……。撃ちたかったのかしら……。


 裂いた結界の隙間に、魔王が恐る恐る赤い靴で踏み込む。

 不意打ちなら殺れるかしら。

 そんなことを考えた瞬間、紺碧の鋭い視線が自身を貫くように向けられたことに気がついた。

 背筋に悪寒が走った。


「……」

「……」


 アデルリアナは両手を広げて肩をすくめる。

 お手上げだ。嫌なヴァルキリーがついている。


 魔王そのものは魔力というものに鈍感そうだが、あのヴァルキリーは鋭い。手強いのはヴァルキリーの方かもしれない。


「はぁ~……」


 あきらめた。いかにも煩わしい。


 収束させた魔力を使い、結界に空けた穴を防ぐ。その瞬間にヴァルキリーの視線が外された。

 レッサーデーモンがすぐに群がったけれど、結界に阻まれて周辺を彷徨くだけだ。さっきの魔王のように。あれほど可愛くはないけれど。


「ありがとう、アデルリアナ先生」

「いーえ」

「先生はわたしが来るのをわかってたの? 結界の外で待っててくれたみたいだから」

「ええ。魔導師学校(メイズアカデミア)にセアラの魔力が近づいてくるのを感知したので、ああ、たぶん抜け道使いたいんだろうなーと思いましてね」

「さすが」


 アデルリアナは先に立って校門を開く。

 むろん、魔力と呪文によってだ。閂でも鍵でもない。


「同輩に挨拶なさいますか? いくらかは民も保護していますが」

「いや、今はいい。抜け道の鍵をちょうだい。急がなきゃ」


 アデルリアナは懐から鍵を出し、セアラに渡した。


「ありがとう、行ってくるね」

「ええ。わたしもついていければよかったんですが、ここを護らねばいけませんので……」

「必要ないよ。大丈夫。わたしの魔法はまだまだ未熟だけど、こいつらはほとんど無敵だから。上位デーモンだって歯が立たないくらいだ」

「ですか~……」


 ああ、煩わしい。無敵であることは、それだけ同じ危険を秘めているということだ。


 だが、セアラは背後の二人に視線を細めた。

 信頼しているようだ。

 セアラは鍵を受け取ると、校舎ではない教会のような建物へと歩いてゆく。むろん、魔王レギドと金色のヴァルキリーもだ。


「セアラ」

「何? どうしたの、先生?」


 セアラが立ち止まって振り返った。

 アデルリアナは、言葉を慎重に選んで呟く。


「気をつけなさい。本当に抜け道がまだ生きているなら、そこからガレン王が脱出して来られていないのは、すでにおかしいです」


 死んでいるか、それすらできない状況になっている。


「わかってるよ。ありがとう、アデルリアナ先生も気をつけて」

「せいぜい頑張ってみますよ」


 もしくは王城側で抜け道がデーモンに発見されてしまった。

 三つ目だとしたら、この学校(アカデミア)もそろそろ危険だ。かといって身を隠せる場所はもう王都には存在しない。そもそも、学生たちも代わる代わる結界を張って丸二日。体力も魔力も精神力も、そう長くはもたないだろう。


「じゃあ、今度こそ行ってくるね」

「はい」


 アデルリアナは後頭部を掻きながら、三者の背中を見送った。

 深紅のドレスの小さな背中に、なぜかふとかつての英雄の姿が重なった。


「……?」


 自身がまだ学生だった頃、魔王レギドと相討ちとなって死んだ、いけすかない勇者だ。

 当時、学内でも頭一つ分、魔法の才能に秀でていた自身は、早く戦場に出たいと願っていた。けれども魔導師学校(メイズアカデミア)に入り込んでいた魔族を斃そうと逸った結果、絶体絶命のピンチに陥った。


 そのときに、自身は彼に命を救われたのだ。


 騎士というにはあまりに無骨で粗野。その戦い方はまるで野獣のようだった。

 性質はと言えば、噂通り無愛想な上に口も悪く、救ってもらった心からのお礼にも、言葉はおろか会釈すら返してはくれなかった。

 けれども学生時代、一瞥すらくれずに去りゆくその背に心が痺れたのをおぼえている。

 その男の寂しい瞳は、なぜか胸の奥底に刻まれてしまったのだ。


 初恋だった。

 きっと彼は、いきり立つしか能のなかった女学生のことなど、思い出しもしないのだろうけれど。


 アデルリアナは片手で頭を掻き毟り、大きなため息をついた。


「……ああ、煩わしい……」


 いけすかない騎士学校(ナイツアカデミア)の連中は、まだ無事かしら。



想ひ出どろどろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ