表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女魔王さま奮戦記! ~中身はおっさんですけども~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/97

第44話 老兵がうんざり

前回までのあらすじ!


タグに「恋愛」は入れさせねーぞ!

断固阻止だ!

 鬱陶しい展開になりそうで、ユランはあえてヨハンとドワーフ族のクルルという少女の間に身を入れた。

 貧相な胸で両腕を組み、幼女は仁王立ちでドワーフの少女を睨む。


「おい貴様」


 クルルが憮然とした表情で返す。


「なんだよ?」

「トロロンを助けてくれたことには礼を言う」


 ぺこりーとお人形さんのような幼女に頭を下げられ、クルルが毒気を抜かれたように鼻白んだ。


「な、なんだよ、突然……。だからそれは、あたしの仕事場を――」

「ほう。このような岩山が貴様の仕事場なのか。ずいぶんと殺風景だな」


 悪意を込めたわけではない。だが、クルルが再びムッとした表情をした。


「そうだ! 見てろ!」


 クルルは崖下の巨大な岩石へと歩み寄ると、両手に持ったミスリル鉱の大金槌を、ゆっくりと引き絞った。


「んどりゃあああああッ!」


 気合いの声とともに、それを岩石へと振り下ろす。

 ゴッと凄まじい音と震動が周囲に散った瞬間、トロロンほどもある大きな岩石に亀裂が入った。

 クルルはなおも大金槌を振りかぶり、今度は先ほどよりも幾分力を抜いた表情で、横に振るう。


 コォ~ンと、先ほどとは別種の金属音が耳に心地良く響いた。

 岩石に縦に入った亀裂がずれ、その片割れが音を立てて倒れた。


「ほう……」


 大した威力だ。

 それに断面。白く輝く小さな金属片らしきものが見える。


「ミスリル鉱さ。おまえら、この場所のことは誰にも言うなよ」


 懐からミスリルの蚤を取り出し、岩石へと突き立て、大金槌で今度は優しく叩く。


「ミスリルとはそうやって採掘していたのか」

「……」


 クルルは黙々と作業を続けている。

 コォン、コォン、蚤を打つ音が響く。


「しかしなぜ貴様のような年端もいかん餓鬼が、このような仕事に従事している? ドワーフとは言え、採掘や鍛冶、建築は男の仕事だと思っていたが」


 同種族であれば女はやはり男に力で劣ることが多い。それはドワーフとて例外ではない。それゆえ、手先の器用さを生かした工芸品や金細工を作るのが女の役割だと聞いた。


 蚤を打つ手が止まった。


「おまえの方がよっぽどガキだろうが! それに、女だからってバカにするな……っ」


 ユランが肩をすくめると、ヨハンが眉の高さを変えて呟く。


「それは先ほども仰っておられましたね。クルル殿には、何か事情でもお有りなのですかな? よろしければこのヨハン、すべての女性の悩みを解決して差し上げたいと常々思うておりますゆえ、話してはいただけませんか」


 ユランは思った。

 貴様の存在がおれの悩みの種だ、と。

 だが。


「やめろ、ヨハン。おれたちにそのような暇はない」


 そうとも。人間軍が反転攻勢に出る前には、次の目的地に辿り着かなければならない。絶え間なく攻め続け、人間どもに恐怖を与え続けなければならない。寄り道をしている暇などないのだ。

 ヨハンが胸に左手をあて、右手を空へと伸ばして大げさに嘆く。


「おお、マイリトルプリンセス。しかしながらこのヨハン、困っている女性を前にして見過ごすことなどできませんゆえ」


 ユランが舌打ちをした。

 しかし、ヨハンの暴走を止めたのはユランではなくクルルだった。


「勝手に話を進めるな! いくら困ってたっておまえたちの力なんて借りない! あたしは自分の力でやり遂げる! ……そうじゃないと意味がないんだ」


 岩に蚤を打ちつけながら、クルルは繰り返す。


「意味が……ないんだ……。認めさせないと……」

「クルル殿、認めさせるとは?」


 クルルが振り返って怒鳴った。


「岩石頭の親父だよ! ――てか、うるさいなっ! 用が済んだならさっさと行けよ! 目障りで気が散るだろ!」


 クルルは金属の含まれた岩だけを選り分けて、革袋へと豪快に放り込む。


「ハッ、大体古いんだよ、あいつの考え方は! 何が、女に鍛冶仕事ができるか、だよ! 今のあんたよか、よっぽどできるっての! ――なあ、そこのチビ! おまえだってそう思うだろ? 女だてら、子供だてらに、そんな物騒な剣を持ち歩いてるんだからさ!」


 ユランがなんとも言えない味のある表情をして、あきれたようにため息をつく。


「さてな」

「なんだよ?」

「……別に」


 くだらん。反抗期の餓鬼に付き合っている暇などない。

 それに、(なり)こそこれだが、己は男で、とっくの昔に大人だ。

 クルルとはそもそもの立場が違うのだし、共感などできようはずもない。事実、このドワーフ娘が家庭内でどのような扱いを受けていようとも知ったことではないし、同情すら湧かない。


 ましてや、己は戦場で産まれ落ち、戦場で育った生粋の戦士だ。

 ……親など、顔も知らない。

 もう十分だ。トロロンを救ってくれた礼は、クルル自身が望まないだろう。


 つかつか歩き出し、未だ白目を剥いているトロロンの腹を軽く蹴り上げる。


「起きろ、駄肉!」


 ぶにゅん、と腹肉が揺れて、トロロンの白目に黒が戻った。むっくりと上体を起こしたトロロンが、きょろきょろと周囲を見回す。


「お、おへあー? おはよー、魔王さま~」

「寝ぼけているんじゃあないぞ、トロロン。休憩は終わりだ。そろそろ移動する」

「は~い」


 トロロンがぴょんと軽やかに跳ねて起き上がり、両手を広げて両足で着地する。

 幼女は我知らず、胸を撫で下ろす。


 どうやら怪我はないらしい。

 クルルに対する感謝の気持ちは本物だ。だが、彼女自身が助けを望んでいない以上、他人の家庭に首を突っ込むような真似など無粋というもの。


 歩き出そうとして、ヨハンだけが立ち止まっていることに気がついた。


「ヨハン、行くぞ」

「クルル殿のお父上はご病気か何かですかな?」

「ヨハン、いい加減にしろ。おれたちには立ち止まっている時間などない」


 しかしヨハンは振り返りもしない。


 このダークエルフの女好きはもはや病気の類だ。腕はたしかだとはいえ、任務に支障を来すようではともに連れ歩く意味がない。

 ユランが腹立たしげにため息をつく。

 その口が開きかけた瞬間、しかし一瞬早くクルルが声を出す。


「なんでわかった?」


 ダークエルフが額に手をあてて視線を流す。

 いちいちポーズをつけるのが鬱陶しい。


「いえ、クルル殿があまりにご無理をなさっているように見えまして。採掘作業は危険が伴うもの。にもかかわらず仲間の姿はなく、ガリアス連峰にただ一人。おそらくは他のドワーフには内緒で鍛冶をしようとしておられるのではないかと」


 クルルがぼさぼさの茶髪を、がしがしと掻く。


「それに、今のお父上よりできるとも仰いました。気を悪くされたなら申し訳なく思うのですが、もしや鍛冶仕事のできなくなったお父上の代わりに――」

「ああもう! そうだよ! でも勘違いするな! あたしは鍛冶をしたいからしてる! 親父のこととは関係ない!」

「ご病気ですかな?」

「違う! カナン騎士に刃向かって右腕を落とされた!」


 苛立った顔をしていた幼女の眉間が、ぴくりと動く。


「なんだと?」


 クルルが長いため息の後、静かに吐き捨てた。


「それ以降はずっと飲んだくれてるよ。寝ても覚めても(エール)(エール)(エール)。そのくせ、あたしが鍛冶仕事をしようとすると、女がどうだとか説教をしてくる」

「なぜ腕を落とされたのだ?」

「カナン王が親父を召し抱えようとしたのを断ったんだ。カナン騎士全員にドワーフ族のミスリル鉱でできた武器防具を普及させようって計画があってさ」


 冗談ではない。

 そのようなことをされては、ただでさえ不利な状況に陥っている魔軍に勝ち目などない。


 鋼鉄とはまるで性能が違う。ドライグやグウィベルのような魔法武器でも可能だが、ミスリルの剣を達人が扱えば、鋼鉄を斬ることだって可能なのだ。


 鋼鉄の剣や鎧が、一切の意味をなさなくなる。

 魔剣ドライグを持つ己や、聖剣グウィベルを持つネハシムはいい。だが、それ以外のものはどうなる?


「おい、餓鬼女」

「なんだ、ガキ女」


 壮絶な表情で睨み合い、互いが同時に盛大な舌打ちをした。


「まあいい。おれの名はイルクレア・レギド・ニーズヘッグ。魔王をやっている。クルル、先ほどのカナン騎士どもの計画はどこまで進んでいる?」


 クルルが訝しげに、しかし戸惑ったように聞き返してきた。


「へ? え? あ……え? まおー? まおーってのは、あの魔王レギドのことか?」

「そうだ、その魔王だ」

「勇者ユラン・シャンディラに討たれたと聞いたけど……」


 ユランがあからさまに顔をしかめる。

 面倒だ。いかにも面倒。


「ユランならば豚の餌になった。おれは生きている。それが真実だ。もっとも、やつのおかげで見かけは少々縮んでしまったがな」


 嘘ではない……はずだ。ただ、魔王の中身がユランになっただけで。


「え、ちょ……嘘だろ……」

「うるさいぞ。嘘でも本当でもどっちでもいい。貴様が信じようが信じまいが、おれはここにいる。そのようなことよりも、さっさと質問にこたえろ。カナン騎士にミスリル装備を支給する計画とやらは、どこまで進んでいる?」


 ぽかんと口を開けていたクルルが、途切れ途切れに呟く。


「ま、まだ王都を守る騎士たちと、騎士団長クラスだけだって……聞いたけど……。……実際にどこまで進んでいるかはわからない……」


 まずった。危ないところだ。

 どこまで普及したかはわからないが、このまま侵攻を続けていては、いつか犠牲が出てしまうことだけは間違いない。

 青銅が鋼鉄に取って代わられたように、鋼鉄とミスリルの間にも、それほどの差がある。


「ラミュ」

「はい。わたくしの連接剣ではミスリルは貫けません。おそらくはトロロンの爪や、ネハシムの胸鎧も同じかと」


 ヨハンの石槌や、料理人どもの包丁は言わずもがなだ。


「まずは装備を一新しましょう。遠回りにはなりますが、ドワーフ族の集落に立ち寄るべきかと」


 すかさずクルルが吐き捨てた。


「やめとけ。おまえが本当に魔王ならな」

「どういう意味だ?」

「ドワーフ族はもう中立じゃない。人間軍に従っている。行ってもつかまるだけだぞ」


目の前が真っ暗になりました。

次回、お花畑脳恋愛展開!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ