表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女魔王さま奮戦記! ~中身はおっさんですけども~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/97

第39話 老兵が進化

前回までのあらすじ!


マジっぽい雰囲気だったぞ!

 幼女の姿をした魔王と、老いた歴戦の将軍が同時に地を蹴った。

 巨大な赤き刀身と、巨大な鉄の塊が両者の間で激突する。耳をつんざく轟音とともに炎が散った瞬間、ユランはいともあっさりと下方へと叩きつけられ、跳ね上がって宙を舞っていた。

 いかに魔力で補強しようとも、幼女の肉体と歴戦の老体ではいかんともし難い差がある。


「ぐ……っ」

「ぐははっ、軽いのうッ!」


 宙で揺らぐ赤いドレスへと、ロスティアが鉄塊の剣を突き出す。

 寸前で身を翻したユランの赤いスカートを引き裂いて、鉄塊の剣が虚空を貫いた。


「ぐ……っらぁ!」


 回避の動きに連動させ、空を舞ったままのユランが老将の頸部へとドライグを薙ぎ払う。

 だが老将軍はそれを鉄塊の剣で受け止め、またしても強引にユランの矮躯を勢いよく押し出した。


「そおりゃ!」

「くう……ッ」


 背中から転がりかけ、自ら赤い靴で地を蹴って後方宙返りで力を逃がす。

 だが体勢を立て直すよりも早く鉄塊の剣の薙ぎ払いをドライグの刃で受け止め、翻弄されるようにサイドステップを切った。

 いいや、切らされたのだ――。

 ロスティアの思う方向に導かれた。


「ぐはは!」


 ずん、と踏み込みの音が響く。

 老将軍は、鉄塊の剣をすでに限界まで引き絞っている。


 まずい……!


「ぬんッ!!」


 横薙ぎ。それも、先ほどとは比較にならない威力の。

 ドライグで防いだ両腕が、骨の髄まで激痛を走らせる。当然のように幼女の踏ん張りなど利かず、身体は強烈な勢いで宙に投げ出された。

 騎士らの頭を飛び越えて、ガリアス砦屋上から夜の空へと投げ出される勢いで。


 ガリアス砦は険しい岩山の連なるガリアス連峰に建造された、三階建ての砦だ。こんなところから落ちれば、たとえそれが岩石の肉体を持つゴーレムであろうとも無事では済まない。ましてや幼女の矮躯では。


「く、おおおぉぉぉっ!」


 凄まじい勢いで吹っ飛ばされながら、ユランはドライグをガリアス砦の屋上へと突き刺した。

 ガゴッと音がしてドライグが屋上を引っ掻き、それでもなお勢いは完全には殺せない。ドライグのひっかき傷を残しながら吹っ飛ばされ続け、しかしかろうじてユランは屋上の端で赤い靴を地面につけることに成功した。


 ドバッと全身から冷たい汗が噴出した。

 危なかった。あと一歩で転落死だ。


「忌々しい糞爺め!」

「ぐははははっ! よう残りおったわ! 煉獄(アビス)行きの早馬にのせてやったつもりだったがのう!」


 ロスティアが白髭をしごきながら大声で笑った。


 こっちの体重が軽くなったのをいいことに、力技ばかりを繰り出してくる。ああ、老兵ユラン・シャンディラの肉体であったならば、ここまで圧し切られることなどなかっただろうに。


 ルビー・レッドの頭髪を勢いよく振って思考を払う。


 いや、いや。無駄なことを考えている場合ではない。

 エドヴァルドと戦ったときも思ったことだ。この肉体で、イルクレア・レギド・ニーズヘッグの肉体でできることを考えねばならないときが来ている。


 以前の肉体よりも勝っているところは何だ? グウィベルを力任せに振るっていた頃よりも、魔力を通したドライグは軽い。己の身も同様だ。

 すなわち、速度と小回り。


 ふぅと息を吐いて、幼女は不貞不貞しく吐き捨てる。


「生憎と、ガリアス連峰は馬では越えられんらしい。逝くなら貴様一人で逝け、ロスティア」

「つれないのう。儂らは戦友じゃあないか」

「ハッ! 戦友だと? 反吐が出る!」


 しかし、笑った。幼女は凶暴凶悪に微笑む。百戦錬磨の老将軍が、わずかばかりたじろぐほど凄惨に。

 もっとも、このロスティアという将軍は、動揺をあっさりと敵に見せてしまうほど経験の浅い騎士ではない。


「ぐはは! 儂のより良き老後のために、大人しく死んではくれんもんか」

「安心しろ、ロスティア。貴様に老後が訪れることはない。今日ここで貴様は潰えるのだからな」

「ぐははっ、若人扱いされるのは吝かではないが、儂はすでに老後じゃが?」

「ああ言えばこう言う! わかっているなら老後がどうのこうのと言うな! いちいち腹の立つやつだ!」


 それにしても。眠っていた期間を合わせれば齢五十。己にまだ伸びる部分が目に見えて存在するというのは、実に心躍る。

 苦戦すら、今は楽しい。


 四十の老兵だった頃、頭打ちを感じていた。己の弱さに絶望し、死する覚悟でイルクレアに挑んだのだから。今思えば、聖剣グウィベルに魔力を通せばイルクレアとももう少し戦えたかもしれないのだが。

 まあ、今さらだ。

 残念ながらあの肉体は(オーク)に喰われた。ラミュを恨む気にもなれない。


 そのようなことよりも、今はこの借り物の肉体で余生と成長を楽しみ、そして傷つけることなく胸を張ってイルクレアに返したい。己は、そのときのイルクレアの驚いた顔が見たいのだ。

 ああ、そうとも。




 それが笑顔だったなら、もう思い残すことはない。




 それまでは、煉獄(アビス)の探索はお預けだ。そいつは楽しみとして取っておく。

 もう一度、ふう、と息を吐く。


「ロスティア、ちょっと待っていろ」

「なんじゃあ?」


 ユランはドライグを地面に突き立てたまま手を放し、中途半端に引き裂かれたプリンセスドレスのスカートを、貧相な太ももが露わになるまで縦に裂いた。

 右足を出し、赤い靴で地面を踏みしめて感覚をたしかめ、懐から取り出した紐で長いルビー・レッドの頭髪を後頭部で一本に縛る。


「ぐはは、なかなか様になっているではないかっ!! 可愛らしいもんよのう!」

「ふんっ、貴様のみっともない女装と比べれば、スカートを穿いた(オーク)でもマシに見えるだろうよ」

「なんじゃ、おぼえておったんかい。儂の女装と言えば、第六騎士団におったセリーヌちゃんのラブレターの一件のことよな? おぬしが待ち合わせ場所で儂の女装を見て、早とちりして帰ってしまった、あの不幸な件の」


 不幸にしたのは貴様だろうがっ!! と言いかけてやめた。糞爺を喜ばせるだけだ。


 女騎士セリーヌ。細剣を自在に操る凄腕の騎士で、当時のカナン騎士たちの間では偶像(アイドル)的存在でもあった。美しく、気高く、魔族や魔物を華麗に屠るその剣技には、ユランもまた一目をおいていた。

 よもや己のことを好いていたなどとは思いもしなかったが。

 何せ、若い頃は英雄や勇者になることばかりを考えて突っ走り、夢破れてからは死に場所を探してばかりいた。

 正直なところ、己にとっては性欲の対象でこそあっても恋愛など考えたこともない。それは彼女に限ったことではなかったけれど。


 ドライグを引き抜いて肩に置く。

 獲物へと飛びかかる寸前の野獣のように、ぐぐっと身を屈め、ユランが死線を鋭く変化させた。


「ハッ! 貴様の薄汚い女装のせいで忘れようにも忘れられんわ!」

「セリーヌちゃんな、儂の嫁になったぞ」


 かくっ、と足から力が抜けた。


「……な、なな、な……なんて?」

「いやあ、ユラン・シャンディラに振られたとか言うて泣いておったから、一晩中酒につきおうてな。慰めてるうちにこう……(ねんご)ろに……な?」


 こいつ、最低だ……。わかっていたけど、最低だ……。


「貴様それ、おれがセリーヌに惚れていたとしたら、自殺ものだぞッ!?」

「ぐはははは! ならばおぬしの墓の前で笑うて報告してやるわ!」

「こ、こ、この野郎……っ」


 だめだ。話せば話すほど頭がおかしくなる。二度と軽口など叩けぬよう、さっさと首を切り離さなければ。

 地を蹴って迫り、まだ何か話そうとしているロスティアの胴体部へと逆袈裟にドライグを振り上げる。


「ぬらァ!」

「ぬはははは!」


 その一撃を袈裟懸け斬りで迎撃したロスティアが、金属音を響かせた直後に表情を凍らせた。


「ぬ……」


 軽かったのだ。ユラン・シャンディラの斬り上げが。異様なまでに。

 渾身の力を込めた袈裟懸け斬りを振り切ってしまったロスティアは、無防備な脇腹を凶悪に笑う幼女に晒してしまった。


 途端に赤き刀身が、ロスティアの脇腹を浅く斬り裂く。

 パッと赤い花びらが虚空に散った。


「ぬぐぅ……!」


 弾かれたように飛び退いたロスティアを、幼女は頭を限界まで低くした体勢で追う。ちょこまかと素早く足を動かして。


「ハァ!」


 ロスティアが鉄塊の剣をルビー・レッドの頭髪へと振り下ろす。

 ドライグを持ち上げたユランは、鉄塊の一撃を赤の刀身を斜めに滑らせることで地面へと斬撃を反らし、破れたスカートから幼い素足を突き出して深く踏み込んだ。


「死ね」

「ぬぁぁ!?」


 ロスティアの胴体部へと、ドライグを薙ぎ払う。

 ガギィンと剣呑な音が響き、ロスティアの胸鎧の一部が熔解して弾け飛んだ。


「むあっち、あっちち!」

「ちっ!」


 息つく暇もなく迫った幼女の一撃を鉄塊の剣の腹で防ぎ、さらに後退したロスティアの視界に、違和感が走った。


「む――」


 だが、その正体をたしかめる間もなくすぐさま叩き込まれたドライグの一撃を、鉄塊の剣で受け止める。

 ユランは右に左にと小さな身体を回転させながら、軽く速い一撃を次々と叩き込んでゆく。


「天才エドヴァルドの真似事か!」

「さてな」


 だが、ユランの軽い一撃を弾くために、ロスティアが軽く速い斬撃を繰り出した瞬間、ドライグの刀身が突如として重く変じ、老将軍は鉄塊の剣を逆に跳ね上げられて背後によろめいた。

 それは異様な光景だった。

 小さな幼女の剣が、巨体の老将軍の剣を跳ね上げたのだ。


「ぬお……っ」


 エドヴァルドのように軽く速い剣を振るい、敵の剣を決して受け止めずにすべて受け流す。

 だが、それだけではない。付け焼き刃のそれだけならば、おそらく老将軍には通用しなかった。

 老兵ユラン・シャンディラはさらに、そこに己の重い剣を織り交ぜることで、歴戦の老将軍を翻弄したのだ。


 続く刺突は、しかし老将軍に避けられた。


「ぐは、ぐははっ! なんという賢しさ! なんという適応能力か! それでこそカナン騎士団歴代最強と呼ばれし遊撃騎士ユラン・シャンディラよ!」

「昔の話だ」


 言葉が終わるよりも早く、ユランは小さな身を最大限に利用して老将の足もとへと潜り込んでいた。

 獣の剣術でロスティアの足の肉を削ぎ、巨大な老体が傾いたところを頸部目掛けて斬り上げる。

 だが、防がれる。


 未熟な若い騎士ではない。痛みでは歴戦の老将軍の動きは鈍らない。

 それでも確実に、ユランはロスティアの命を削る。首を掠めて焦がしつけ、胸鎧を叩き割り、怯んだ瞬間に心臓を目掛けて刃を突き出す。


 しかし老将軍はどれほど削られようとも、その動きを止めない。鈍らせることさえない。骨を断ち、筋肉を断裂させでもしない限りは。痛みでは止まらないのだ。決して。


「ぬがあああああっ!」

「おおおおおおおッ!!」


 剣戟。離れた位置に立つ騎士らが死を感じ、息を呑むほどの。

 轟音と炎が散り、汗と血が混ざり合ってガリアス砦屋上を穢してゆく。


 鉄塊の剣は掠めない。ルビー・レッドの頭髪はおろか、もはやドレスでさえも。それはすでにロスティアの知る、老兵ユランの剣術ではなくなっていたからだ。




 獣は知を得た。




 リントヴルムやエドヴァルド、そしてロスティア・ヘンリックと戦うことで進化したのだ。


「ぐは、ぐはははははっ」


 血塗れの老将軍が笑う。

 己の半分にも満たない体躯の幼女に吹っ飛ばされ、ガリアス砦屋上の縁でドライグの切っ先を突きつけられながら。

 ユラン・シャンディラは冷笑する。


「ではな、ロスティア。少しばかり懐かしかったぞ」

「ぐははははっ! ユラ――いや、くく、魔王レギドよぅ。そう急くな。受け取ってからでも遅くはあるまいよ」

「受け取る……何をだ……?」


 言うや否や、ロスティアは左手の手甲でドライグの切っ先を跳ね上げ、ユランに背中を向けて鉄塊の剣を屋上から大門へと向けてぶん投げた。


「ぐははははぁぁ、餞別じゃあ!」


 舌打ちをしたユランが、鉄塊の剣の行く先に視線を向ける。

 その先、ガリアス砦大門内側では、ユランとロスティアの一騎打ちのどさくさに紛れて姿を消していた六翼のヴァルキリーが、数十名もの騎士らを相手に奮闘していた。


 気づかれていた。墜落したはずのネハシムが、この屋上から姿を消していたことを。

 雷光を放つ特大剣(グウィベル)が振るわれるたびに騎士らの悲鳴がこだまし、彼女の足もとにはすでに、騎士らの死体が累々と積み重なっている。

 鉄塊の剣は緩く弧を描きながらも、確実に金色のヴァルキリーへと向かっていた。


「ネハシムゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 叫ぶ。その声にネハシムが視線を向けた直後、凄まじい轟音とともにネハシムの羽根付きヘルムが転がり、鉄塊の剣が大地に突き刺さった。

 ネハシムの身体が吹っ飛び、跳ね上がって静かに地に落ちる。

 直後、ユランは左足に走った激痛に顔を歪めた。


「ぐ……っ!?」


 ロスティアのナイフが太ももに突き刺さっている。

 当のロスティアはすでに距離を取り、血塗れで騎士らに肩を借りながらも厭らしい笑みを浮かべていた。


「ではのう、魔王レギドちゃんっ。――おぬしら、撤退じゃあ!」

「え、し、しかしまだ……」


 騎士らが戸惑うのも無理はない。

 砦の勢力は、おそらくまだ八〇〇程度残っている。にもかかわらず、砦を放棄して撤退などと。


「儂はこの有様じゃあ。もう戦えん。おぬしが魔王を討てるというなら好きにせい。じゃが、それができんなら民なき砦などさっさと捨ててしまえぃ!」


 そうして老将は小さな声で付け加える。


「……今のカナンに命を賭してまで守る価値などない……」

「わ、わかりました」


 警戒する騎士に連れられて去るロスティアを、ユランは追わない。

 それどころか一瞬の躊躇さえ見せずに屋上から飛び降り、ドライグの刃を天然石の壁に突き立てながら落下の勢いを殺し、数秒の後には地に足をつけていた。


 ぶしゅっ、とナイフの刺さった傷口から血が噴出する。

 だが、ナイフを引き抜くや否やすぐさま走り出し、倒れ伏したネハシムへと恐る恐る近づきつつあった騎士らの集団へと背後から斬り込んだ。


「どるぅああああっ!!」


 横薙ぎで背中を断ち、真っ二つにした騎士の上半身を盾にしながら振り向いた騎士の斬撃を受ける。


「ひ……っ、ま、魔王レギド!」


 手に持った騎士の上体を乱暴に投げ捨て、反撃をした騎士の頸部をドライグで貫いて斬り飛ばし、炎の渦を巻き上げながら雄叫びを上げた。


「おおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーッ!!」


 幼い声、女の高い声であるにもかかわらず、騎士らは竦む。その一瞬でユランは全身を回転させながら、七名の騎士の命を絶った。

 血風が炎の渦とともに遙か上空まで噴き上がる。


「どぉぉぉけええええぇぇぇぇーーーーーーーーーーーッ!!」


 騎士らの集団が割れた瞬間、ネハシムのもとまで走り寄りながら、鉄でできた大門の木製閂へとドライグをおもいっきり投げた。


 ずどん、と音がして閂が割れた瞬間、ネハシムの上半身を抱え上げたユランを取り囲んだ騎士らは恐慌状態に陥る。

 破られた鉄壁の大門からは、百戦錬磨の魔族たちが雪崩れ込んできたのだから。



老兵はレベルが上がった。


賢さが1上がった。

素早さが2上がった。

エンゲル係数が3上がった。

血圧が5上がった。

LDLコレステロールが7上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ