表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女魔王さま奮戦記! ~中身はおっさんですけども~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/97

第18話 老兵がキョトン

前回までのあらすじ!


老兵幼女、あにきに殺されそう……。

 ノームなど知らない。そう言ったのだ、森の王たる地竜は。


 ユランは瞳を閉じて暗い空を見上げた。

 ……この得も言われぬ絶望感よ……。

 ややって、ユランは長いため息をつきながら幼く赤い瞳を開けた。


「…………ちょっと待っていろ、森の王よ」

 ――ふむ……。


 ユランはへたり込んでいた蛇の女王ラミュの腕を引っ張り、転がっているノームの首に巻かれた紐をつかんで口に咥え、引きずりながら地竜に背中を向けて歩き出した。

 こうなってくると片手で肩に担いでいる魔剣ドライグの重さが、年老いた幼体には堪える。

 立ち去る前にふと思い立ち、振り返った。


「おい、まだ寝るんじゃあないぞ、地竜。話は終わっていない」

 ――生意気な魔め。だが、よかろう。戯れは嫌いではない。


 あくまでも堂々と、ゆっくり。決して逃げ足にはならず。

 首吊り状態のノーム三匹を、ぷらぷらと揺らして。


 そうして地竜の視線を切ったあたりでユランはラミュの手を放し、乱暴にノームを澱みの森の湿った大地へと転がした。


「起きろノームどもッ!!」


 幼い怒声が風すら遮る深い森に轟く。


「はっ」

「うう?」

「あぱー」


 ノームらがクイっと上体を起こす。


「質問にこたえろ、この阿呆ども。貴様らはあの地竜(あにき)と面識はあるのか?」

「めんしき?」

「め~んしき!」

「きしめ~ん!」


 三匹そろって首を傾げた。

 どうやらこの黒妖精たちには、少々難しい言葉だったらしい。

 ユランは怒りを抑えながら言い直す。


「顔見知りなのか? 知り合いなのか? お友だちなのか?」


 三匹が互いに顔を見合わせた。


「しってる?」

「ぼく、しらないなー」

「ぼくも」


 終わった。


「あるいはぼくも」

「なおかつぼくも」

「ともすればぼくも」


 なぜ二回ずつ言う。ややこしいやつらめ。

 そうして最後に三匹が同時にこちらを向いて口を開けた。


「どうやら、あにき、しらんひと?」


 ユランは今一度瞳を閉じ、空を見上げる。


 やはりだ。

 ノームたちは、すっごくでっかくて、すっごく強そうで、すっごい速さで空とか飛べちゃう、あの神々をも苦しめた超生物、古竜種地竜が格好良すぎて、勝手に「あにき」と呼んでいただけの、完膚無きまでの他人だったようだ。


 ……この甘美なる絶望感よ……。


 否、失望である。


「ラミュ」

「は……」

「(この三匹のクソをぶっ殺しても)いいか?」

「(この三匹のクソをぶっ殺しては)だめです」


 蛇の女王は穏やかな諦観を見せ、首を左右に振った。


「だめか……そうか……」

「帰りましょう」


 ラミュが真顔で呟いた。


「地竜を待たせたままか? やつは待ってくれているのだぞ?」

「対話なんて不可能です! ベヒモスとも比べものにならないくらいの大物ですよ、あの古竜は! 人間の間でも伝わっているでしょう? 神々と古竜の戦争は!」


 世界を三月で灼き尽くした大戦だ。

 逸話は山ほどある。大陸が高熱で融解して硝子の島と化しただの、海水が蒸気となり枯れ果てただの、星が落ちてきただの、胡散臭いとさえ感じられるものばかりだ。


 だが、どの伝承も、締めくくりには、この世界に神なるものが存在しないのは、古竜が神々を喰らい尽くしたからだとされている。


 そんなものの生き残りを、「あにき」て! 他人が「あにき」て!


 ユランはあらためて三匹の矮小なるアホンダラに視線を向けた。


 あにきて、おまえら……。自分たちは小動物か、もしくはそれ以下の生物の分際で……。


 三匹のノームは木の枝を振り回して、キャッキャウフフしている。


「イルクレア様! 一刻も早く、ニーズヘッグ城へ引き返すべきです。万に一つ、地竜の怒りにでも触れようものなら、わたくしたちなど塵と化します」

「ニーズヘッグ城はどっちだ?」


 ラミュが苦い表情で黙り込む。

 星すら見えぬ深い森で、方角などわかるはずもない。

 ユランはルビー・レッドの頭髪を振って、ラミュとノーム三匹に背中を向けた。


「ちっ、役立たずどもめ」

「イルクレア様、どこへ?」

「聞いてくるに決まっている!」

「誰に!?」

「あにきの他にいるか、阿呆が! やつは空を飛ぶ。知らんわけがあるまい」


 ラミュがユランの手首を強くつかんだ。


「いけません! もうあなた一人の肉体だとは思わないでください!」

「よせ、貴様。誤解を招く言い方はやめろ」

「わたくしはその肉体を護るためだけに、ここにいるんですよ!」


 ユランとラミュが剣呑に睨み合う。


「ふん、知ったことか。おれはおれの好きにする」

「……行かせませんよ。絶対に」


 乱暴にラミュの手を振り払ったユランへと、実力行使に出ようとしたラミュを追い越して、三匹のノームが走った。


「わぁ~い、ぼくもいくー」

「あにきに、じんぎをとーすー」

「まってまって~、うふふー」


 ノームの一匹がラミュの股ぐらを通って追い越し、二匹目三匹目がそれぞれ左右の肩を通って追い越した結果。


「あ、ちょ――あ、や! ま、ま待ちなさい、ノーム!」


 ラミュは再び編み込みのような(亀の甲羅のような)縛り方で地面に転がっていた。もちろん、ノームたちもずっこけて転がっている。

 ユランがその様子を眺めて、冷笑を浮かべた。


「初めて役に立ったな、黒妖精ども」


 そうしてラミュと三匹のノームを置いて、老兵は歩き出す。


 少々、待たせすぎた。怒り狂っていたらどうしよう。


 木々の隙間、地竜のいる拓けた場所まで来て。


「ずいぶんと待たせたな、地竜よ」

 ――気にするな。ゆるく地を這う魔よ。


 恐ろしい容貌に依らず、意外と懐が深い。そんなことを考える。


 だが、威嚇のつもりか、地竜は尾をゆっくりと左右に揺らしていた。尾といっても、太さは巨人族の胴回りほどもあり、長さは巨人族五体分だ。

 あんなものに薙ぎ払われては、ひとたまりもない。いくら魔王の肉体を持つ老兵幼女であったとしても。


 それでも、ユランは胸を張る。


「貴様に問いたいことがある。ニーズヘッグ城を知っているか?」

 ――フン、塵のごとき砂の城よ。

「ならばどっちの方角に歩けば着くか教えろ」

 ――………………迷子……?


 ユランの顔が真っ赤に染まった。

 だが、それでも。だがそれでも、老兵は朗々と告げる。


「その通りだ! 帰り道がまるでわからん! 正直腹が減って泣きそうだ!」


 深々とルビー・レッドの頭髪を下げ、直角に腰を曲げて。


「貴様、おれを助けろ」


 ユラン・シャンディラは幼少期より剣を持ち、青年期を迎えるよりもずっと早く、戦場に立っていた。騎士団に所属してからも、剣技に優れるこの少年を持ち上げるものこそいても、意見するものは誰もいなかった。




 ゆえに知らないのだ。礼儀というものを。




 礼を尽くすラミュがここにいなかったことは、僥倖だったといえよう。

 幼女、鼻息荒く頭を上げて。


「ふん!」


 ――(わきま)えよ、地を這う魔ごときがッ!


 地竜の尾が風を巻きつけるほどに、激しく揺れ始めた。

 瞬間、老兵の全身の穴という穴が開いた。汗が一瞬にして全身を覆い、手足が痺れる。

 恐怖。絶対的な恐怖だ。


「く……っ、やはりだめかッ」


 叩きつけられる暴風から目を守るため、ユランは片手で顔を覆う。

 だが、その幼き全身から、闘神のごとき闘気が溢れ出した。


 恐怖など関係ない。そのようなものは剣を収める理由にはならない。老兵はかつてそう心に刻みつけたのだ。仲間を見捨てたその夜に。


 ゆえに幼女、嗤う。凄まじき形相で。


「くく、よかろう……っ」


 右手で肩に担いだドライグを、微かに抜く。

 だが、次の瞬間、地竜は幼き魔王の肉体を持つ老兵の足もとへと、己のあまりに巨大すぎる翼を差し出していた。


 ――さあ余にのるがいい、魔の娘よ! 方角だけでは迷うこともあろうッ!!


 毒気を抜かれたユランが、きょとんとした表情で眉を歪める。


「あぁ?」


 ――さあ! さあ! 早よう! 早よう!


 地竜の尾は一層激しく揺れていた。

 それはまるで、長らく留守にしていた主人を迎えた飼い犬(ワンコ)のように。




まさかのッ、ツンデレェェ!(ノД`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ