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ロック・ザ・トゥーワールド  作者: テツ
第一部 導かれし者達
7/21

第6話 来訪せし不穏

ソウが騎士団に入団してから一週間が経った。

騎士団の生活にも慣れ、今日はウルソンが手合わせに付き合っている。


ウルソンの守護石であるシトリンは、雷を閉じ込めたようなやや小型の黄金色の剣に変化していた。

キン、と透明な刃と黄金色の刃がぶつかる音が草原に響く。


「よーし! 今日の手合わせはここまでだ! 」

「ウルソン、ありがとう」

「お前、なかなか筋がいいな! まぁオレにはまだまだ及ばないけどな! 」

「はは……」


得意気に笑うウルソン。

お調子者な彼だが、剣の腕はエヴァンやライモンドと同じくなかなかのものだ。


「でも、ソウも入団したての頃よりずっと強くなったんじゃないかな」

「そうだな。日々の積み重ねはいつかきっと実を結び、己の力になるだろう。精進あるのみだぞ! 」

「もはや団長みたいだなーエヴァン」

「はは、後輩ができて嬉しくてな。つい先輩風を吹かせてしまうな」


三人がいつものように楽しそうに笑い合っている。

本当にこの三人は仲が良い。


「そういえば、君達はどうして騎士になろうと思ったの? 」

「え? ああ……」


きょとんとしているエヴァンとウルソンの代わりに、ライモンドが答える。


「僕達は同じ街の出身でね、幼馴染みなんだ。三人が共に過ごし育ったこの国……リュミエールが帝国に狙われているって話を聞いた時、この国を守りたい、この国の為に何かをしたいと思って三人で騎士に志願したんだよ」

「そうなんだ……。なんかそういうの、いいな」


ソウは羨ましそうに三人を眺める。


「ソウももうオレ達の仲間だぜ! 」

「そうだ! 共にリュミエールを守ろうと誓った仲間だ! 」

「……ありがとう」



仲間、そう呼ばれただけで涙が溢れてきそうなぐらい嬉しい。

今までそう呼んでくれる人はいなかったのだから。



ざぁ、と草原に強い風が吹く。

ふと空を見上げると先程まで晴れていた空は曇り、辺りが暗くなっていく。


「なんか暗くなってきたね」

「雨が降りそうだな。そろそろ寮に戻るか」


四人が寮へ帰ろうとしていたその時。


「――ロプスキュリテの皇帝、アスラが来たぞ!! 」


思わず振り返ると、城下町の住人と思われる男性が顔に冷や汗を浮かべながら必死に叫んでいる。


「ロプスキュリテの皇帝……アスラ……」


「くっ、ついに奴がリュミエールにも! 」

「奴はまだ港にいるはず。そのツラ拝んでやろうぜ……! 」

「野次馬なんかしてる場合じゃないだろ」


呆然とするソウ。

今までになく険しい表情の三人。


「……行こう」

「えっ? 」

「ぼくは皇帝アスラを知らない……。どんな人がこの国を奪おうとしているのか知りたいんだ」

「……わかった。港に向かおう」


ソウ達は城下町の港に向かい駆け出した。






「ここが港だ。ここには貿易の船や他国からの来客を乗せた船が来るのだ」


港には大勢の人が集まり、とても動きづらい。

城下町はいつも賑わっているが、今日は空気の重さが違う。


人々の間を潜りながらなんとか前に出ると、ソウは息を切らしながら顔を上げる。

その瞳に映る人物を見た瞬間、


「え……? 」


心臓が、一瞬止まるような感覚に襲われた。


夜闇を映したような深い紫の髪、そして右が金、左が緑と左右で異なる色の瞳を持つ整った顔立ちの青年。


一週間前に城下町で出会った人物だ。


「なんで、あの人が……」


黒いマントを纏った青年は悠然と歩き、城に向かう。

信じがたい状況だが、後ろについて歩く白髪と黒髪の美女を見て確信した。


――彼こそが、ロプスキュリテ帝国の皇帝アスラであると。


「城の中にはシフォが……! 止めないと! 」

「待てよ! 皇帝の前に出るなんて殺されるぞ! 」

「じゃあ、どうしたら……」

「こっちに裏から城に入れる通路があるんだ。ついてこい」


ウルソンの後を慎重についていくソウ。

一体、この国はどうなってしまうのか。

不安ばかりが心を埋め尽くしていった。






「ここが裏から城に入れる通路だぜ。大丈夫、この通路はリュミエール王族と騎士にしか知られてないからな。緊急時に使う、ヒミツの通路ってとこだな」

「退屈さに嫌気が差したシフォ王女が時々ここから抜け出すから、困ることもあるけどね」

「い、意外と活発なんだねシフォ……」


三人とソウは声を潜めながら、城の裏の通路へと進む。

しばらく進むと、以前来た場所……城の空き部屋の傍の通路へと繋がっていた。


「奴はシフォ王女に会う為玉座の間へと来るだろう。急ぐぞ! 」

「うん……! 」


玉座の間へと繋がる扉は既に開かれており、恐る恐る入る。

中には警戒している様子の大勢の騎士達。

騎士達の間を潜りながら覗くと、既にアスラとその側近と思われる美女達がシフォと顔を合わせていた。


「お、遅かった……かな」

「とりあえず今は大人しく話を聞いていよう。……ね? 」


ライモンドはソウの頭を軽く撫でる。

優しい彼の手は、緊張で焦る心を落ち着かせた。


「シフォ王女。このように会うことができて光栄に思う」

「……こちらこそお会いできて光栄です、アスラ様」

「どうせ敵同士なんだ、アスラでいい。……はは、貴女きじょは思っていることが顔に現れるようだな。歓迎されているようには思えない」

「……」


シフォとアスラの周りの空気と、玉座の間の空気は今まで感じたことのないぐらいに重苦しい。

そんな状況の中でも、アスラは涼しい顔をしていた。


「さて、本題に入ろう。今日俺がリュミエールに来た理由……。それは王女とある交渉をする為だ」

「交渉、とは? 」

「――貴女が持つ“鍵”だ」

「……! 」


シフォは目を見開き、狼狽える。

出会った時から度々話していた“世界の鍵”とやらのことだろう。

一体その鍵にはどれほどの力があるのか。


「リュミエール王家が持つ“鍵”には、異界へと渡れる力があるという伝説を聞いた。そんな代物をこの俺が欲しがらないわけがないだろう? 交渉というのは、その鍵をこちらに渡す代わりにリュミエールの侵略から手を引くということだ」

「……“世界の鍵”は代々王家に伝わる大切な物です。そう簡単に渡すことはできません」


アスラが放つ威圧感にもシフォは一歩も引かない。

その瞳には力強い光が宿っている。

しかし彼は畳み掛けるように、不利な条件を突き付けていく。


「……ならば、国民を危険に晒すことになるが? 」

「それは……! 」


コツ、コツ、と靴音を立ててアスラはシフォへと歩み寄る。

警戒していた周りの騎士達が、守護石を変化させて武器を構える。


「皇帝といえども、王女に無礼を働くことは許されんぞ! 」

「ほう」


不敵な笑みを浮かべた彼の足元が黒く光る。


――その瞬間とき、無数の黒い結晶が彼を囲うように現れた。


「その気になれば、今この場にいる全員を串刺しにすることも容易い。下手に手を出さない方が身の為だろう」


城の灯りに照らされて不気味な光を放つ、鋭く黒い結晶。

その様子に圧倒された騎士達は、武器を再び守護石へと戻してしまった。


「これが……皇帝アスラの力……? 」

「そうだ。いつかは戦わねばならない相手だ」

「こんなの、勝てるわけない……! 」

「……そんなこと、俺達だってわかっている」


見上げたエヴァンの表情は、怒りと悔しさに満ちている。

ライモンドやウルソンも、皆険しい表情で目の前に立つ敵を睨んでいた。


「さぁ王女よ。決断してもらおうか。この国か、鍵か、どちらを取るか」

「っ……」



世界の鍵を渡したら、恐らくこの男は様々な世界を支配し始めるだろう。

しかし鍵を渡さなかったら、この国を潰す気でいる。

どちらを選んでも悪いことしかない。


そんなの、めちゃくちゃだ。



「やめてよ……。もうこんなことやめてよ……! 」


「お前は……」

「ソウ……!? 何をしているんだ! 戻ってこい! 」


気が付けばソウはアスラの前に立っていた。

目の前には金と緑の双眸を見開いてこちらを見るアスラ、背後には動揺するエヴァン達と驚きで声も出ないシフォ。


足がすくんで、これ以上は動けない。

自分でも何をしているのか、全くわからない。


「あの時の少年じゃないか、久しいな」

「ソウ、彼にお会いしたことがあるのですか……!? 」

「……君がロプスキュリテの皇帝だなんて思わなかったよ」


一週間前、城下町の路地裏で美女二人と共にいた青年。

左右で異なる瞳の色やその雰囲気から普通の人間とは違う、となんとなく思っていたが、まさかこの国を奪おうとしている張本人とは。


「はは、前はみっともない姿を晒してしまったな」

「全くですよ」


以前アスラ達を連れて帰った、白髪の美女が彼を睨む。

怒る彼女とは対照的に、アスラは相変わらず涼しげな顔をしている。


「出会った時から気付いていたが、どうやらこの少年が異界から来たという“ダイヤモンドの守護者”のようだな」

「なぜそれを……! 」

「少年から感じる、強い光の魔力だ。異界の者は魔力が一際高いと聞く。……そうだ、」


アスラはふっ、と妖しい笑みを浮かべる。


「この少年が俺に掠り傷一つでもつけることが出来たら……リュミエールも、世界の鍵も、俺が奪うまでの間に少しの猶予を与えよう」

「えっ……? 」

「ソウがアスラに……!? いくらなんでも……! 」


エヴァン達も、周りの騎士達も、皆動揺している。

ソウ自身も理解が追いつかない状況だ。


「ソウ、下がっていてください。ここは私が――」

「……いいよ。受けて立つよ」

「そんな……! 」



ここで自分が止めないと、この国も世界の鍵も奪われてしまう。

少しでも猶予ができるのなら、戦うしかない。


やれるかどうかは、やってみなければわからない。



「覚悟を決めたようだな、少年」



あんなに弱虫だったぼくが、今は一つの国を守る為に敵の大将に挑もうとしている。

フィクションの世界よりも、現実はありえないことだらけだ。

こういうの、事実は小説より奇なり……とか言うんだっけ。

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