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ロック・ザ・トゥーワールド  作者: テツ
第一部 導かれし者達
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第3話 迫る魔の手

見上げれば、高くそびえ立つ城。

目の前には、開かれた城門。


ソウは深呼吸をすると、意を決して突き進んでいく。


リュミエール城内は、城下町に負けず劣らずの美しさだった。

きらびやかな魔宝石のシャンデリアに純白の柱。

床や天井には何やら神秘的な絵画が描かれている。

城内の騎士達は整列し、シフォ達が通る道を作る。


「ソウ、こちらへ」


案内され辿り着いたのは玉座の間。

玉座へと続く道には真っ赤な絨毯が敷かれている。

幼い頃、両親に読んでもらった絵本に描かれていた城にどこか似ていた。


「これが城の中……すごいね。なんだかまだ夢を見ているような気がするよ」

「ふふ、夢ではないのですよ」


シフォは玉座の前に立ち、ジェードはすっと背筋を伸ばす。

その厳かな雰囲気にソウの全身は緊張で強張る。


「ようやく話す時がきましたね。ソウ、あなたをロクワルドに召喚した理由――それはこの国、リュミエールを()()()()()のです」

「リュミエールを、救う……? 」


思わぬ理由に、目を見開く。


「……リュミエールから少し北には、ロプスキュリテという帝国があります。その帝国は八年前に起きた大きな戦争によって一度滅ぼされました」


八年前。

自分の両親が事故で亡くなったのも八年前だった。

玉座の間の空気は重く、緊張で冷や汗が流れて口を結ぶ。


「ですが先代皇帝の子息が皇位を継承し、復興に励み、帝国を甦らせたのです」

「一度は滅び、甦った帝国……」

「ロプスキュリテは以前にも増して勢力を拡大させていき、今ではとても大きな帝国になりました。……しかしその勢いは留まるところを知らず、近辺の小国を次々と武力で制圧していったのです」


シフォの表情が段々と険しくなる。

先程までの穏やかで優しい雰囲気の少女の姿はなく、今の彼女はリュミエールの王女として玉座に座っている。


「国は復興したのに、どうしてそんなことを……」

「ロプスキュリテの現皇帝……アスラはとても欲深い人物で、現状に満足できずいずれは全ての国を支配し、ロクワルド一の大帝国を築き上げようとしているのです」

「リュミエールにも、そのロプスキュリテ帝国……の魔の手が迫ってきているってこと? 」

「はい。それに、気がかりなことがあります」


気がかりなことって?

訊ねると、シフォは考え込むように頭に手を添え、目を伏せる。


「先程の魔物、ケルベロスはリュミエールの森には生息していません。本来はロプスキュリテ近辺の森に生息しているはずなのですが……何かが、おかしいです」


疑問に顔を歪めるシフォ。

ソウは森を抜ける時のことを思い出す。


「そういえば……。ジェードが斬った後の魔物の死体が、しばらくしたら黒い結晶みたいなもので覆われて砕け散ったのを見たんだ! あれは一体……? 」

「姫様、やはり……」

「……はい」


シフォとジェードは深刻そうな面持ちで目を合わせる。

あの光景はやはり只事ではないようだ。


「それはロプスキュリテにある守護石の力です。帝国の優れた魔物使いが守護石から魔物を生み出し、リュミエールに放って挑発しているのでしょう」

「つまり帝国による侵攻は既に始まっていた、ということだ」

「そんな……」


消え入るような声で呟く。

城下町での余韻に浸り、火照っていた心と身体が徐々に冷めていく。


あんなに優しくて、温かい、リュミエール王国が……滅亡の危機に瀕しているなんて。


「しかし、ある日リュミエールを訪れた大賢者様にこのようなお告げを頂いたのです」



――リュミエール王家に伝わる秘宝、“七つの守護石"に導かれし者達を探すこと。

七つの守護石をリュミエールの王族が所持していれば、守護石の導きによりその力を使うに相応しい人物が現れる。

その七人はリュミエール王国を救う英雄になるであろう。



「七人の英雄……」

「大賢者様はこのようなことも仰っていました。『ダイヤモンドの守護石に導かれし者は異界の者。彼はきっと、闇を照らす希望の光となるでしょう』……と」


シフォは屈託のない笑みをソウへと向ける。


「ですから私は、世界の鍵を使いあなたをロクワルドに連れてきたのです」

「そう、だったんだ……」



そんなこと、出来るわけがない。

どうして守護石(ダイヤモンド)は、ぼくなんかを選んだのだろう。

よりにもよって、こんなに弱くて頼りないぼくを。



「こちらの事情にあなたを巻き込んでしまったこと、本当に申し訳なく思っています……」

「…………だよ」

「えっ? 」


ソウは唇を噛み締めて俯く。


「……そうだよ。君がこの世界に連れてきたせいでぼくは死ぬことができなかった。元いた世界で散々な目にあって、現実から逃げたくて……死のうとしたのに」

「……ソウ」

「そんな弱虫に何が出来るっていうんだ。逃げたがりの弱虫が逃げ道を塞がれて、もうどうしたらいいのかわからないんだよ……! 」



どうして、どうしてこんな言葉が出てくるの。

シフォのおかげで、ぼくの命は救われたのに。

彼女の力になりたいのに。



「そうだ、ぼくが死んだって悲しむ人は誰もいないんだから、捨て駒にでもするといい――」

「ソウ!! 」

「っ!? 」


心の奥に溜め込んでいたものを吐き出すソウ。

それを遮るシフォの叫び。


「……本当に、死にたいと思っていたのですか? 」

「え……? 」


深い青の瞳が真っ直ぐにソウを捉える。


「私は聞いていました。まだ死にたくない、というソウの叫びを」



『――まだ死にたくない! 』



「あ……」


ロクワルドに召喚される直前、学校の屋上から落下した時に叫んだ言葉。

確かにあれは本心だった。


「本当は……生きたいのでしょう? 元いた世界で辛いことがたくさんあったと思いますが、捨て駒だなんて言わないでください……! どんな人間であっても、生命いのちは尊いものですから」

「シフォ……」


彼女は涙を流してソウに訴えかける。

慈愛に満ちた青い瞳が、悲しげに揺れる。


「それに、あなたが死んでしまったら悲しむ人はいますよ。……私です」

「どうして……! 」

「私達はまだ出会って間もないですが、あなたと城下町で過ごした時間はとても楽しかったです。あなたと共に生きて国を守り、またあの時のように笑い合いたいのです」


偽りを感じさせない、ただただ真っ直ぐな瞳がかえってソウの心を締め付ける。


「でも、ぼくなんかが国を救えるわけないよ……! 」

「迷ったり、困ったりした時は私達が支えます。……ですよね、ジェード? 」


呼ばれると、彼はシフォの前にひざまづく。


「はい。いつでも力を貸しましょう」

「ジェード……」



どうして、出会って間もない人間のことをこんなに思ってくれるのだろう。

こんなに自分を思ってくれる人間は、両親以外今まで会ったことがない。


まだ出会って間もないが、シフォもジェードも好きだ。

森や城下町で過ごしてそう感じた。

リュミエールの人達も、皆優しくて好きだ。


……でも、このままでは帝国に潰されてしまう。


もう二度と、あの美しい景色や楽しく笑う城下町の人達の顔を見ることができないかもしれない。


そんなのは嫌だから……。



「――ぼく、戦うよ。リュミエール王国の為に」



「ソウ……! 本当に、よろしいのですか? 」

「守護石に選ばれたんだから、仕方ないさ」


ふっ、と柄にもなく格好をつけて笑う。


「シフォの国……リュミエールを救いたい。もうぼくは死ぬ為に戦うんじゃなくて、生きる為に戦うんだ! 」


戦う。

国の為、シフォの為、自分が生きる理由を見つける為。

覚悟を決めた空色の瞳には、もう迷いはない。


「でも、今のぼくじゃまともに戦えない。少しでも強くなりたいんだ」

「わかりました。まずは守護石についてしっかりと説明しましょう」


シフォがサファイアを取り出す。

それに続きソウもポケットからダイヤモンドを取り出した。


「魔力が込められた宝石……魔宝石の中で戦闘や護身用のものは守護石といい、所持者が最も扱いやすいと思うものに形を変えて戦うことができます。ソウは剣、ジェードは大剣、私は杖。それぞれ違うものに形を変えているでしょう? 」

「確かに……」


ソウの守護石は再び剣に形を成していく。

その透明な刃に、不思議そうな表情が映る。


「それと、守護石にはそれぞれ込められている魔力の属性があります。炎、水、草、雷、風、氷、光、闇の八つです」

「ぼくの守護石はどの属性なの? 」

「ソウの守護石、ダイヤモンドは光属性。ちなみにジェードのヒスイは風、私のサファイアは氷属性です。守護石には、その属性を表す紋様が刻まれているのですよ」


剣を守護石の状態に戻したソウは、ダイヤモンドに刻まれた光を表す紋様を眺める。

太陽のようにも見えるその紋様は、どことなく神秘的なものを感じる。


シフォの話によると、リュミエール王国の秘宝である守護石は普通の守護石よりも強力な力を秘めており、氷のサファイア、風のヒスイ、草のエメラルド、炎のルビー、雷のトパーズ、水のアクアマリン、そして光のダイヤモンドの七つが存在する。


「そのうち三つは既に所持者がいるのであと四人、導かれし者を探さなくてはなりません」

「……あれ? シフォとジェードもその一人だったの? 」

「はい」

「い、意外と近くにいるんだね……」


二人の顔を見ながら苦笑いを浮かべる。


「そうとも限らないぞ。姫様の持つ七つの守護石の、残りの四つはリュミエールから離れた場所に導かれし者の気を感じているらしい」

「そこで、旅に出ようと思うのです」

「旅? 」


シフォはぱん、と両手を合わせ、二つに結んだ横髪を揺らして微笑む。


「はい。導かれし者達を探す旅に。もっとも、どんな方々なのかわからないので私達に快く協力してくれるかどうかが問題ですが……」

「……それでも行こう。一刻も早く導かれし者達を探してリュミエールを守るんだ」

「ふふ。先程とは打って変わって、頼もしいですね」


えへへ、と照れくさそうに笑っていると、跪いていたジェードが突然立ち上がる。


「国を守ろうとしているその心意気は立派だが、まだお前はロクワルドに来て間もない。戦うすべは私が教えてやろう」

「よ、よろしく」


眉間に皺を寄せ、見下ろすジェード。

ソウの体は無意識に強張る。


「とはいえもう遅いですからね。ソウには住む場所がまだないので、今日は城の空き部屋を使い休みましょう」

「承知しました。……明日、騎士団にお前を紹介する。しっかり体を休ませておけ」

「うん……おやすみ」






シフォに案内され、空き部屋に着く。

空き部屋といえど人が一人住むには申し分なく、城らしい豪華な雰囲気は残されており少し落ち着かない。

色々と疲れていたソウは真っ先にベッドに飛び込み、仰向けになった。


「今日一日で色んなことがあったな……辛いことも、楽しいことも」


ロクワルドに来たこと、シフォやジェードに出会ったこと。

リュミエールという国を知って、その温かさに触れたこと。

そして自分は、この国を救う為に守護石に選ばれたこと。



今日の出来事を思い返しているうちに、ソウは深い眠りについていた。

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