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ロック・ザ・トゥーワールド  作者: テツ
第一部 導かれし者達
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第1話 魔宝石の世界ロクワルド

青々とした草の香り。

肌に触れる空気は温かい。


「……ん……」


眩しさで瞳を開く。

仰向けで倒れている爽の目の前には、清々しいまでに晴れやかな青空が広がっていた。


「……ここ、は……? 」


上体を起こし辺りを見回すと、どこまでも広がる緑の草原と、ただただ青い空しかない。


――先程までの出来事を思い返す。


学校の屋上から足を踏み外して落ちて、見知らぬ少女の声がして、突如現れた七色の扉に吸い込まれて……。


理解が追いつかない。

これは夢なのだろうか?

自分は死んだのか?生きているのか?


「……もしかして、ここが天国? 」


きょとんとした顔で呟く。

ああ、死んでしまったのか自分は。

短くて、つまらない人生だったな。


「――いいえ、天国ではありませんよ」

「うわぁッ!? 」


突然背後から声がして思わず素っ頓狂な声を上げる。

すごく最近聞いた少女の声だ。


「驚かせるつもりはなかったのですが……。申し訳ありません」


振り返ると、ベージュ色の髪をボブショートにして青い宝玉の髪飾りで横髪を二つに結んだ、深い青の瞳の少女が立っていた。

自分と同じぐらいの年頃だろうか。

人形のように愛らしい顔立ちで、女子とあまり話したことのない爽はやや緊張した面持ちで少女を見上げる。


「えっと、あの……君は一体……? 」

「私はシフォ。リュミエール王国の王女です」

「リュミエール王国……? 王女……? 」


王国だの王女だの、現実離れした単語に頭が混乱する。

やっぱりここは天国か夢ではないのだろうか。


「あなたはダイヤモンドの守護石によってこの世界へと導かれたのです。ようこそ、()()()()()へ」

「ちょ、ちょっと待って……! 」

「どうかしましたか? 」


混乱のあまり、手を前に突き出し慌てふためく。

自分の今の状況だけでも理解できてないのに、よくわからないことを次から次へと言われても困る。


「夢でも天国でもないのなら……ここは一体どこなの? 」

「ですから、ロクワルドです」

「ロクワルドって何……? 」


色々と聞きたいことはあるが、まずは今自分がいる場所について少女に問う。


「ロクワルドとは、あなたが元いた世界とは異なる世界……。各地に魔力が込められた宝石、“魔宝石”が点在しており、それらによって人々の暮らしが支えられている()()()()()()です」

「は、はぁ……」


何を言っているかはあまり理解はできないが、少なくともここは日本ではないようだ。


「ダイヤモンドの守護石に導かれし者は異界……ロクワルドとは異なる世界にいるというお告げを大賢者様から聞きましたので、"世界の鍵"を使い召喚させたのですが……。その反動で城から少し離れた場所に飛んできてしまったようですね」


シフォは首を傾げながらぶつぶつと独り言を言っている。


世界の鍵……?

自分はその鍵によってこの世界……ロクワルドに来たのか。

そして自分は今生きている。


まるで絵本や漫画のような話だが、今は黙って彼女の話を聞くことしかできない。


シフォの姿を改めて見ると、宝石が散りばめられた王冠や高価そうなケープを身に纏っている。

もしかして、冗談ではなく本当に王女様なのだろうか。


「あ、あの……! さっきからぼく、無礼な口を聞いててごめんなさい……! 」


失礼だと感じた爽は咄嗟に頭を下げて謝る。


「良いのですよ。私はあまり同年代の方と話したことがないので……気軽に接してくれた方が嬉しいのです。ですから、顔を上げてください」


ほっとして顔を上げる。

柔らかな微笑みを浮かべているシフォに、爽は思わず見惚れそうになった。


「そういえば、あなたのお名前は……? 」

「ぼ、ぼくは……爽」

「ソウ……良い名ですね」

「……ありがとう」


名前に対して全然爽やかじゃない、とよく言われていた。

自分の名前を他人に褒められたのは初めてだ。

爽改めソウは、嬉し涙を堪えてハの字の眉で笑った。


「……では、あなたを召喚した理由など色々と話すことがあるのですが、ここでずっと立ち話をするのも辛いでしょうし城に向かいましょう。案内します」


シフォはどこまでも広がる草原を躊躇いもなく歩いていく。

爽は小走りでその後をついて行った。






「はぁ……はぁ……ねぇ、シフォ……? 」

「はい? 」

「なんで森の中を通るの……? 」

「この森を通った方が城に近いので……」


どこまでも広がっているかのようにみえた草原だが、しばらく進むと森が見えてきた。

森までに結構長い距離を歩いてきたが、慣れている道なのかシフォの歩みは速く、彼女の五歩ほど後にソウは息を切らしながら必死に歩いていた。


こんなに華奢でお淑やかそうな女の子よりも体力がないなんて……自分が情けない。

そんなことを考えていた矢先に。


「グルオオォォォ……」


呻くような獣の鳴き声。


「な、何……!? 」

「困りました……魔物に遭遇する前に早く森を抜けたかったのですが」


ガサリ、と草の擦れる音がした。

こちらに近付いて来る。


「ひっ! ど、どうすれば……! 」

「ソウ。これを! 」


恐怖で足がすくみかけているソウにシフォは何かを手渡した。

それはひんやりとしており硬い。

掌の中を見ると透き通る宝石の結晶。

中心には紋様のようなものが刻まれている。


「こ、これが守護石ってやつ……? 」

「はい、これがダイヤモンドの守護石です。守護石に導かれたあなたであれば所持者と認められ、その力を解放することができるでしょう」

「力を解放……? どうやって!? 」

「所持者と認められた者が戦う意思を示せば、守護石は応えてくれます……! 」


戦う意思……。

同じ年頃の少年達にも敵わないというのに、魔物なんて戦えるのだろうか。

とにかく今は時間がない。


「お願い、どうかぼく達を助けて……! 」


ソウは守護石を両手で握り締め祈る。

すると光と共に守護石は鋭い刃のようなものに形を成していく。


まるでそれは――


「透明の……つるぎ


ソウの守護石はダイヤモンドの剣となった。


「オオォォォ!! 」


ガサガサと草むらが大きく揺れ、魔物が雄叫びを上げながら飛び出す。

その姿は三つ首の犬のような獣。


「ケルベロス……!? なぜリュミエールの森に……? と、とにかく強力な魔物なので気を付けてください! 」

「そ、そんな強そうな魔物といきなり戦うなんて……! 」

「私の守護石、サファイアはあまり戦いには向いていませんが……援護します! 」


シフォが取り出した青い宝石……サファイアが光り、冷気を纏いながら棒状のものに形を成していく。

それに共鳴するかのように身に付けている王冠、髪飾り、リボンにあしらわれた魔宝石も青く光り輝く。


彼女の守護石はサファイアの杖となった。

杖を振りかざすと、ケルベロスの足元が氷で覆われていく。


「さぁソウ、今のうちです! 」


雪の結晶できらめいている彼女に目を奪われそうになったが、我に返りケルベロスの方に向き直る。


「やぁっ!! 」


足元が凍りつき身動きが取れないケルベロスに斬りかかる。

剣は眩い光を放ちながらぎこちない線を描き、ケルベロスの三つ首のうち一つを斬った。

そのザクリという音と感触に血の気が引きそうになる。


「よ、よし。この調子で――」

「グルオアアァァァ!! 」


バキン、と氷が砕ける音。

ケルベロスを凍らせた足元の氷が砕かれてしまった。

手負いの獣は恐ろしい。


「そんな……! 」

「シフォ、危ない! 」


鋭い牙が覗く大きな口を開け、ケルベロスが飛びかかる。

ソウは咄嗟にシフォに覆い被さり、そのまま転がるように避ける。


避けるのは得意な方だ。

でも、それだけではこの魔物には勝てない……。

ケルベロスは唸りながら、じりじりと倒れたままの二人に近付いてくる。


「もう……ダメだ……」


今度こそソウは死を覚悟した。


――が、


鋭い風切り音と共に、ケルベロスの残り二つの首が全て落ちた。

首がなくなった体はそのまま横に倒れる。


「姫様ー! ご無事でしょうか! 」


男性の声。

そして徐々に近くなる馬が駆ける音。


「良かった……来てくれたのですね」


森の奥から騎士とおぼしき格好の、馬に乗った男性が駆けつけた。

男性の髪と瞳は深い海のような青緑色。

目元の小皺や整えられた顎の髭を見るに、年齢は四十代後半から五十代前半といったところか。


「お怪我はありませんか? 」

「はい、なんとか無事です」

「……そちらの少年は? 」


固い表情の男性と目が合い、びくりと体を震わせる。

厳格そうな雰囲気はソウの祖母を彷彿とさせる。


「彼はソウ。ダイヤモンドの守護石に導かれた者です」

「なるほど、彼が……」


騎士の男性はソウの方に向き直り、右手を胸に置く。



「私はジェード。リュミエール王国騎士団の団長だ」

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