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初投稿になります。更新が途絶えないように頑張ります。

「あーあ、終わったか」

加賀海斗は、卒業証書の入った筒を左手に持ち、カバンを右肩にかけながら一人大通りを歩いている。学校から商店街にある家へ帰る最短の道に大通りを通る道はない。卒業式が終わり、これで名実ともに高校生を終えてしまった海斗は、家に帰る決心がつかないでいた。海斗の両親は魚屋を代々営んでおり、卒業後海斗はそこを継ぐことになっていた。


「とは言ってもなぁ……」

海斗は、右に見える大きなショッピングモールを見上げた。二年前に出来たこのショッピングモールだが、はいっている店はどれも有名なブランドばかりだった。海外のファッションブランド、老舗の和菓子、品揃えの多さで有名な本屋等々。どうして、こんな寂れた街にショッピングモールを作ろうと思ったのかは知らないが、どうも儲かっているらしく連日多くの客で賑わっていた。そんな、住宅街から少し離れていても多くの客が押し寄せるショッピングモールの様子は、商店街がもう必要なくなったことの象徴のようにも見える。ショッピングモールの影響で商店街に足を運ぶ人が激減し、海斗の両親の店も大きく影響を受けた。両親は海斗が一人前になるまでは店をたたまないと必死になって案を考えたが、どれも効果を発揮せずうまくいかないでいた。しかし、海斗は海斗で、卒業後の進路を全く真剣に考えておらず、就職もうまくいかなかったため、結局廃業寸前の魚屋を継ぐことになった。


「これが地方商店街の末路か。ははは……」

店を継ぐことになった海斗は、最近頻繁にショッピングモールの方へ足を運んでは自嘲するようになっていた。卒業した今日も変わらず、諦めと尊敬の目をショッピングモールの方へと向けていた。

海斗は、ショッピングモールの正面で足を止め考えた。


「早く帰って寝たいんだけどなぁ……。やっぱ、帰りたくねぇ……。ここで帰ったら本当に終わってしまう気がする」

まだ腹が減ってないから昼を過ぎたばかりだろう、と海斗は時刻を推測し、現実逃避をするための時間を取るためにショッピングモールの入り口を通った。



どん底にいるような海斗の心とは裏腹に、ショッピングモールは明るく、すれ違う客は皆楽しそうであった。

「どこで時間を潰すか……。ワックとか行ってみるか」

黄色のWと赤い背景でおなじみのワクドナルドへと海斗は、歩き出した。

が、

「高ぇ……、こんな高かったのか……」

店内のメニューに書かれた値段に、海斗は絶望した。ワンコインで買えると聞いてはいたが、50円ではなく100円だったとは、と海斗は自分の世間の知らなさに愕然とした。


そもそも外食のなかった加賀家は、魚屋の経営悪化でここ二年ほど外食はなかった。そして、小遣いがほとんどなかった上にバイトもしなかった海斗の全財産は78円であった。

「一昨日、佐藤さんとこの駄菓子屋で30円分買ったのがダメだったのか……」

佐藤さんとこの駄菓子屋は、海斗の家の二つ隣の店である。ちなみに、間の店は一年前に閉店している。

「仕方がねぇ、本屋で立ち読みだな……」

海斗はワックを後にしながら、左手に持っていた卒業証書をカバンにしまった。



「こんな立派な本屋ができたのか。そりゃ、向かいの本屋は繁盛しねぇよな」

本屋へとたどり着いた海斗は、店の大きさに驚き、商店街の本屋と比べた。向かいの本屋は、小さいながらも一定のリピーターがいる店だった。だが、ショッピングモールができたことにより、この本屋に対抗しようと店主であるおじいさんが並べ出したマニアックな本が、あまりにもマニアックだったため客足が遠のいていた。


店の中に入った海斗は、目の前にあった本を手に取りながらその店を思い出していた。

「『盆栽全集 〜縄文から江戸までの盆栽を全て揃えました〜』だもんなぁ。縄文時代に盆栽があるわけないのに……。爺さんもボケちまったのか」

海斗は、手元の『現代盆栽入門』を元の場所に直し、ぶらぶらと店内を歩き始めた。


読みたい本があるわけでもなく、狭い通路を歩いていた海斗は何も書かれていない背表紙に目が止まった。

「……ん? 不良品か?」

引き寄せられるようにしてその本をとった海斗は、表にも裏にも何も書かれていないことを確認した。

「バーコードもないとか……。この本屋も、なかなかマニアックな本を……って、マニアックとか関係ないよな、これ」


中を見ようと海斗が本に手をかけたその時、周囲が凍るような感じを海斗は感じた。

「? なんか、変な空気が……。ま、いいか」

気に止めることなく本を開いた海斗は、本に吸い込まれる……こともなく、ページをめくり続けた。

「あれ? 何も書いてねぇ」

どれだけページを捲っても、どれも白紙で海斗は徐々に興味を失っていった。

「あー、これは店員の趣味か。なかなか面白い趣味してるな。全部見つけてくださいってか?」

海斗は、この本が店員の趣味によって置かれたものだと判断し、本を閉じる。


「誰が探すかっての」

「探すも何もそれ一冊しかないしね〜」


何も書かれていない本を棚に直そうとしていた海斗は、すぐ後ろから声をかけられ驚き、その拍子に本を落としてしまった。

「あーあ、それすごく高いんだから大事にしてよね!」

「……………………これあなたのですか?」


後ろ振り向いた海斗の前にいたのは、女の子だった。少しの沈黙の間に、海斗は頭をフル回転させ考えた。目の前の彼女は、知り合いにしては綺麗すぎるし、店員なのにゴスロリのフリフリはどうかと思う。というか、さっきの店員は普通の格好に緑色のエプロンをつけてるだけだったし。背がかなり小さく小学生ぐらいの大きさであることからクラスメイトでないし、そもそも俺に話しかける同級生がほとんどいない。髪が銀色で目が濃い青色をしていることから、日本人でもない。それでいて彼女は、流暢な日本語を話しており、何も書かれていないこの本を手に取った俺に話しかけており、なおかつこの本のことを知っている人物。


そこまで、考えた海斗はとりあえず少女はこの本の持ち主であると仮説を立てた。海斗がここまで必死に考えたのは、彼女の雰囲気があまりにも危険であったからである。


「そ。こないだのオークションで落としてね〜 で、せっかくだから、こっちで使ってみよっかなって思って!」

そうやって笑いながら楽しそうに話す彼女は、海斗が狭い通路にもかかわらず彼女と距離をとろうと背中を棚にぶつけるほど恐ろしかった。


「……そうですか。それは失礼しました。この本はお返しします。それでは」

彼女に本を押し付けるようにして返した海斗は、走るように出口へと急いだ。途中、熱心に立ち読みしている客にぶつかって跳ね飛ばされたりもしたが、すぐに立ち上がりただただ急いだ。



「冗談じゃねぇ。あんなのに関わったら命がいくつあっても絶対足らねぇっての」

「いいじゃん別に。そもそも大した価値もないんだしさ〜」

突然真上から聞こえた声に、海斗は驚きのあまり足を止め、上を見上げた。黒いヒラヒラとしたものが海斗の頭上を越え、海斗の前に着地した。先ほどの本を右手に抱えながら、銀色の髪と黒い布を揺らす彼女は海斗を見てこう続けた。

「せっかく、やり直させてあげるのに、話ぐらい聞いてよ……って、待ってよ!!」


海斗は、後ろに振り返り全力疾走を開始した。どうしてこういう状況になったか未だにわからない海斗であったが、このままだと自分の命が危ないことだけは理解していた。

角を曲がり、レジが並ぶ開けた場所に出た海斗は、周囲の異様さに気がついた。

「……あれ……誰も動いてねぇ」

雑誌を手に取ろうとしている人、通路を走っているかのような子供、レジで本を渡そうとしている店員。海斗以外の人という人が動いていなかった。


「わたしが止めてるからね!」

足が動かなくなっていた海斗の背後で、少女の声が響いた。海斗は気がついた。自分はもう終わってたんだ、と。


「死んでるわけじゃないよ? わたしが指定した物体以外の時間を止めてるだけだから」

「とりあえず、聞いてくれる気になったってことで話すね。あなたがさっき読んでいたのは『無』の書、って言ってすごく貴重な本なの!」

「でも、どうしても使いたくて、それで下界で使おうと思ったんだけど、なかなか発動条件に合致する人間がいなくて」

「いくら、わたしでも時間をさかのぼる魔法を何度も使えないし。それで地道に、探そうと思って、ここに置いていたわけ」

「ずいぶんと待ったんだけど、誰も取ってくれなくて後10年くらいかなぁ〜って思ってたら、あなたが来て手に取ってくれたわけでしょ!」

「人間が魔道書を見るためには、その発動条件であったり、生贄であったりと条件があるんだけど、あなたは見れた」

「それでわたしがあなたに話しかけたわけなんだけど……、って聞いてる?」


あまりの急展開に呆然としていた海斗は、少女が目の前まで迫っていることに気がつかなかった。少女は海斗が聞いていないと知ると、その青い瞳で海斗の目を覗き込んだ。

ようやく、海斗は、少女がまだ自分の前におり、自分が生きていることに気がついた。数歩後ろへ下がった海斗は、震える声で少女に尋ねた。


「…………あんた、何物だ?」


少女は、驚いたように目を大きくさせた後、顔に笑みを浮かべながら答えた。


「そういえば、自己紹介してなかったね。わたしは、えーっと、クリスだよ! 悪魔みたいなの、って言えば伝わるのかな?」


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