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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第5話 走れ青春!夏と祭と悪魔と魔法少女と
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走り出した青春(3)

 バスが終点と告げた先は駅前大通りに繋がる大きな交差点付近のバス停だった。

 いつもであれば駅前のバスターミナルまで運行しているのだが、今日は祭りで大通りが歩行者天国になるためここで折り返しという臨時の運行ルートとなっていた。

 冷房の効いたバスから一歩外へ出ると唸るような暑さが再び襲ってきた。


「天気大丈夫かな?」

 見上げた先、駅方面の空はどんよりした雲に覆われていた。黒雲は祭りの会場となる駅周辺の空だけを包んでいるようで、駅方面から少しでも離れれば雲ひとつ無い気が狂いそうなほどの青空が広がっていた。そのコントラストがはっきりとしすぎているせいで、まるで駅の周りだけ世界がくり貫かれたかのようにも見えた。

 そんな異質な空模様を前にして隆は、曇っているならこの暑さも少しは和らぐし雨さえ降らなきゃいいかな、ぐらいにしか思っていなかった。


「杉田君」

 不意打ち気味に百合子に呼びかけられて隆は少しビクっとして振り返った。

 百合子はなにやらモジモジしながら困った顔をしていた。

「あぁ。それで、これからどうするんだ?」

「えっと……ここから少し歩いた先でお仕事の道具をまず受け取るの。……いこっか」

 そう言うと百合子はさっさと駅の方向へと歩き始めた。隆はとりあえず所在なさげに百合子の後ろ付いていくしかなかった。

 車止めが置かれた交差点を左折すると大通りが視界に広がる。

 いつもは車が絶え間なく行き交う駅前大通りは祭りの期間中歩行者天国となっており、今は多くの人で賑わっていた。


「ここで少し待ってて。すぐ戻るから」

 大通りに入ってすぐのところで通りに面するとあるビルの前で百合子は立ち止まり、振り向き様に隆に待つよう告げた。そして隆が返事をするよりも早く百合子はビルの中へと消えてしまった。

「……まぁ、いいけど」

 何か釈然としない物を感じながら百合子が入っていったビルに背を向けて大通りを見渡す。

 隆から見て左手側、大通りの奥には駅ビルが見えており、遠くの駅前広場に設置されたステージ付近は人でごった返しているのがここからでも見て取れた。

 祭りの会場となっている大通りは3つのエリアに区切られており、駅前広場のステージエリア、そこから少し離れて大道芸・パフォーマンスエリア、そして駅前から最も離れたエリアが現在隆たちがいる屋台村とフリーマーケットの会場となっている。

 また駅ビルの裏手にある市民ホールにて祭りのメイン協賛企業である山三物産の会長と星宮市の市長の講演会も予定されていると言う。

 協賛企業と言うものの、今回の祭りは山三物産が企画してきた大掛かりなイベントに市側が乗っかった形であり、運営に関してもほぼ山三物産主体で行われているのだと市役所勤めの父親が食事中に話していたことを思い出した。

 大通りのあちらこちらに山三物産とその関連企業の幟やポスターが祭りの会場を彩っている。

 また一般客の中にチラホラと仮装したスタッフの存在も目を引いた。ピエロや着ぐるみ、メイドといったオーソドックスなものから、明らかにクオリティがおかしいハリウッド映画の特殊メイクのような異形のモンスターまで様々な仮装スタッフが人混みの中で異彩を放っている。一応一般客のコスプレや仮装も歓迎と銘打っているので、量販店で売られているようなチープな仮装グッズをつけた若者や手作りの衣装をまとってスタッフと一緒に記念撮影をしている親子連れなども少なからずいるようだった。

 先ほどバスの中でオタ友の中村から「なんかオリジナルっぽい魔法少女のコスしてた女の子の集団いたぞ!!」と興奮気味のメールが来ていたようで、割と本気のコスプレイヤーも見れるのではと隆は少しだけ期待を膨らませていた。


「コスプレか……」

 ふと実家での衝撃映像が脳裏を過ぎり少しだけ眩暈を覚えた。

「隆くん、お待たせ」

 過去のトラウマに囚われつつあった隆だが背後からの百合子の声で我に返り、ブンブンと頭を振って思考を無理矢理切り替える。

 そして振り向いた先に待っていた百合子を見て、――隆は唖然としてしまった。

「えっと……おじさんがね……一応スタッフもどきなんだから仮装しろって…………」

 そこには確かに百合子がいた。しかしほんの二、三分ほど前まで涼しげで清楚な姿の彼女はそこにいなかった。そこにいたのはビビットレッドが目に眩しいオーバーオールにパールピンクのマント、やたらと大きなキャスケット風の帽子を被り、もこもことした妙な素材でできた道具バッグを肩からたすき掛けしたトンチキな姿の百合子が顔を真っ赤にして俯いて立っていた。


「お、おう……」

 動悸が激しくなるのを隆は感じていた。

 それは彼女の姿が現在進行形で隆の心を悩ます『魔法少女』のような格好だったこと、そしてとても似合っているなと思ってしまったこと、その両方が原因だろうか。


「じゃ、じゃあ、これからお仕事になるから行くよ」

 赤面したままの百合子が急に隆の手を取った。

「―!!?」

 さらに混乱を深める隆をよそに百合子はその手をぎゅっと握り、ぐいぐい引っ張って歩いていく。

「(やわらかい……)」

 妹の手とはまた違う、少し大きくて柔らかな感触。

 さっきから頭が上手く回らないのはきっと暑さのせいだろうと隆は思考するのを止め、百合子に引かれるがまま大通りから外れて裏路地へと向かって行くだった。


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