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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第5話 走れ青春!夏と祭と悪魔と魔法少女と
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走り出した青春


―キーンコーンカーンコーン

「それじゃあお前達、夏休みはまだあると言って宿題から目を逸らすんじゃないぞ。では2学期にまた会おう」

 教壇に立った眼鏡を掛けた初老の担任がお決まりのようなセリフを言ってホームルームを閉じた。それと同時に机と椅子に縛り付けられていた学生達は解放され、教室内はわっと騒々しくなる。

 今日は星宮市内の大体の学校は登校日となっており、それは隆の通う高校も例外ではなかった。一部の私立の所は違うらしいが、一応妹の夢の通っている小学校も同様に登校日のようだった。

 

 退屈な補習が午前中みっちりと詰め込まれていたがそれもこれで終わりだ。

 隆はぐんと両手を上げて凝り固まった体を伸ばしていた。

「杉田ー、今日この後駅前のアニマートいかね?キュアエンの円盤受け取りに行くからついでによ」

「あー、どうしようかな。駅前の方って祭りの準備で凄いゴチャゴチャしてるんじゃなかったっけ?アニマートの方行けるのか?」

 クラスメイトでオタク友達の中村がカバン片手に席の横まで来ていた。

「多分大丈夫だろ。そんなことで俺たちのキュアエンへの情熱を止められるかっての!なぁ!」

 魔法少女キュアリーエンジェル、春アニメの中でもカルト的なヒットをした深夜アニメだ。当然、隆も夢中になって見ていたが、とある理由から魔法少女物アニメを見るとPTSD的な症状を発するようになったため結局途中で見るのを止めてしまっていた。

「いやぁ、俺はあんまり流れに乗れなかったからな……」

「んだよ、流行物に乗れなくて腐るオタクかぁ?」

 事情も知らずふざけて煽る中村に隆は苦笑いした。


「つか、明日の祭りどうする?どうせお前も暇なんだから一緒に回らない?なんか仮装とかコスプレとかOKらしいし見に行こうぜ」

「祭りなぁ、何が楽しくてお前と行かなきゃならんのだ。妹と一緒に行くほうが5000兆倍楽しいわ」

 妹の夢と回る祭りは絶対楽しいに決まっている。少なくとも中村と一緒にコスプレイヤーを追い掛け回すよりも断然有意義な夏休みの1ページだ。

「可愛いリアル妹と祭りとか許されざる案件だし、杉田も俺と濁った青春しようぜぇ」

 ゾンビのようなオーラを纏った中村とふざけ合っている時だった。


「杉田君」

 突如背後から聞こえたか細いながらも清廉な声に隆は中村共々思わず振り向いた。

「突然ゴメンね。杉田君、今ちょっとだけお話大丈夫かな?」

 そこにはお下げ髪に眼鏡と絵に描いたような文学少女然としたクラスメイトが立っていた。

「井上……さん。えっと、どういう用件?」

 井上百合子、隆のクラスメイトで割と近所に住んでいる所謂幼馴染というやつだ。

「明日なんだけど、知り合いからバイト頼まれてて、その手伝いをして欲しいんだけど、ダメかな……」

 百合子の言葉は尻すぼみに小さくなっていき、最後の方は何かモジモジしているだけのようになってしまった。

 小、中、高校と同じ学校に通っていたが同じクラスになるのは小学校以来であり、流石に昔のように声を掛けるようなこともなかったが、百合子の小学生の時と変わらない自信がなくドンドントーンダウンしていく喋り方を見て隆は少し笑ってしまった。

「すっ、杉田君?」

 それを見て百合子は顔を赤らめて困ってしまったようだ。

「ゴメンゴメン、ちょっと小学生の頃と変わってないなって思い出し笑い」

 隣で中村が「えっ?知り合いなの?幼馴染?マジ?」とか小言で何かつぶやいていたが無視して続けた。

「んで、バイトねぇ。どういう仕事なの?」

「えっとね、知り合いのおじさんが祭りで設備の管理をしているんだけど当日忙しいらしくて、当日の設備の見回りをやって欲しいんだって。会場にある三ヶ所の設備を見て回るだけなんだけど、どうかな?」

「設備?見回り?なんか漠然としたバイトだな」

 怪訝な顔で隆は百合子に聞き返した。

「えっと、うん、まぁ、見て回って何かトラブルがあったら私が直すだけだから、簡単なバイトではあるんだけど……」

 消え入るように小さくなる百合子の声。なんだか百合子自体小さくなったようにも思えた。

「機械みたいなもんか?直すのは井上さんができるんだ。ふぅん、中村、一緒にやるか?」

 どうせ暇だし、態々声を掛けてくれた幼馴染の頼みを無下に断るのもなんだか近所ネットワークで角が立ちそうだったので中村を巻き込もうと決めたのだが。

「……いや、やっぱ俺明日なんか忙しかったわ!杉田、お前は井上さんの助手をしっかりやるんだぞ!」

「はぁ!?おい、なんだその態度の代わり具合は!てめぇさっきまでモガッ」

 予想に反した中村の言葉と態度に隆は異論を唱えようとしたがヘッドロック気味に腕を回され口を押さえられてしまった。

「井上さん、こいつならいくらでもコキ使っても良いからね!それじゃまた2学期にね!!」

「えっ、あっ、それじゃあ杉田君、明日朝10時に迎えに行くから……」

 中村の勢いに押されて百合子それだけ言い残すとそのまま足早に教室を出て行ってしまった。


「てめぇ!どういうつもりだ!ふざけんなよ!」

 なんとか中村の腕から逃れ、隆は怒りを顕わにしたが、中村もなぜか怒り狂っていた。

「ふざけんなはこっちのセリフだ!リアル可愛い妹に美人の幼馴染持ちとか!しかも祭りで!?フラグで!?何補正だよ!死ね!!」

 そう叫び、泣きながら教室から飛び出していった中村を呆然と見ることしかできなかった。

「一体、何なんだよ……」

 隆は溜息を吐いて席を立つのだった。

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