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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第4話 フォームチェンジ!激突魔法熟女
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あの日の思いはいつまでも

「素晴らしい!実に素晴らしいぞ!」

 ディスプレイにはプリティーピーチとプリティーベリーの戦闘データが次々と羅列されている。

 白衣を纏ったチンパンジー頭の男はコーヒーを片手に画面を食い入るように見詰め、時折興奮したように笑い声を上げていた。

「あの……オリバー博士、本当にこんなことをして大丈夫なんでしょうか?」

 オリバーのデスクの前にはリスの頭を持つ獣人が居場所なさげにキョロキョロしながら立っていた。

「何度も言わせるな!これは魔科学の発展のために必要なデータだ。採取の仕方など瑣末な問題にすぎん」

 オリバーの私室をかねた個人用ラボに声が響く。

「まったく、何の業績もない貴様を研究所にねじ込んだのは誰かもう忘れたのか?貴様は私の指示に疑問をもたずただ完璧にこなせば良いんだ。上手い事トライガーの支援班にもねじ込めたんだ、きっちり働けば貴様に問題は降りかからんよ」

 オリバーはため息を吐きながらデスクの前で直立しているリス頭の獣人を一瞥し再びデータへと視線を戻した。

「次の仕事はこれだ。目を通しておけ」

 視線はデータから外さずに棒立ちしている部下へ端末を投げやる。

「これは……ダークヘイター殲滅作戦への参加ですか?」

「そうだ、軍部は最近の悪魔どもの活発な動きを探知していたがついにXデーがわかったみたいでな。なんで、これに乗じてさらにデータを集めるわけだ」

 男は端末に表示されたデータを次々と確認していたが、計画内容を見てその顔が一気に青ざめた。

「博士!?この計画では悪魔神ダイアロットの復活を手助けするように取れるのですが?」

「その通りだ。悪魔どもが祭りを計画してると聞いた時はあきれ果てたが、全容が見えてきたらなかなか興味深い計画だったのでな。私もそれを後押ししてやろうと思ったわけだ」

 無邪気な顔で語るオリバーに部下の男は顔を引き攣らせるしかなかった。

「良いデータを取るためには強敵が必要だ。雑魚相手にポンコツのモルモットをぶつける遊びもそれなりに良かったが、伝説の魔法少女の全力のデータを取る方が何倍も有意義だからな。それに」

 くつくつと笑いながらオリバーはキャビネットに保管していた物を取り出した。

「それは、プリティーコアですか?」

 オリバーの掌の上には無色透明なハート型の宝石が転がっていた。

「これはまだ中に何の魔法も契約も組み込まれてないブランクの宝珠だよ。だが、得られたデータと私の魔科学の技術によって伝説を越える魔法具となるまさに金の卵だ。万が一プリティーピーチ達が負けようともそのデータは非常に得がたいものだろうし、私の最高傑作が伝説を凌駕できることの実証試験もできるのだから一向に構わんのだよ」

 オリバーはマグカップのコーヒーをぐいと飲み干して不敵な笑みを浮かべた。

 その様子を見て部下の男は冷や汗をかくのを感じていた。

「とにかくお前はその計画通りに動け。既にハートスポットのメンテ計画は書き換え済みだから直ぐにでもあちらに向かえ。フォローはしてやるが、失敗した場合は何も保証できんからな」

「わ、わかりました!」

 リス頭の男が足早にラボから出て行くのを確認してオリバーはイスに体を預けるように深く座り直した。

「プリティーピーチとその娘……シリウスの粗忽者のおかげだな」

 デスクの上にあった『マギカコア(仮称)』と表紙に書きなぐられた資料をオリバーはゆっくりと捲るのであった。



* * * *



「桃美、もうこの辺で良いよ」

「ううん、改札まで送るよ」

 夕暮れ時。

 帰宅ラッシュも相まって星宮駅は人でごった返していた。

 その人波の中に桃美と焔の姿があった。


「……そう」

 焔は少し俯いて歩き続けた。

 その隣を離れないように桃美も改札を目指していく。


「……」

 駅の雑踏の中、二人とも無言で歩いていく。

 改札はもうすぐそこだ。


 改札の前の広場で焔は急に足を止め、桃美へ顔を向けた。

「あのね、桃美。私この街に戻ってこようって決めたよ」

 焔の顔は憑き物が落ちたように晴れ晴れとしたものがあった。

 桃美の一撃によって粉々に砕けたプリティーコアと共に帝王の呪いによって増幅された焔の負の心は浄化された。

 屋上で桃美に抱かれ目を覚ました焔は桃美の記憶に残っているかつての彼女に戻ったのだ。

 あの後、二人は同窓会を心から楽しむことができた。

 かつての友達と他愛のない、そして戻ることのない青春の日々に思いを馳せた。

 その思い出によって焔の中で決心が固まったのだ

「随分遠回りしたみたいだけど、今回のことでやっとわかった。私はあの時からずっと前に進むことから逃げていたんだってね」

「焔、この件に関しては僕も本当にすまないと思っている。我々スターランド側にも責任はあった」

 桃美の持つカバンからトライガーが首の覗かせていた。

「もういいよ、トラは悪くなかった。ただ私が何時までも大人になれなかったのが悪いんだ」

 焔は遠い目をして天井を見上げる。

 明かり取りの天井のガラスに夕焼けの赤い輝きが反射していた。

「向こうのことを片付けたらすぐにでも戻ってくる。この街でもう一度ゼロからやり直してみたいの」

「ゼロからじゃないよ!この街には私もいるし、私達の思い出もいっぱいある。この街なら焔ちゃんは何時だってやり直せるよ!」

 焔への言葉には桃美の願いも込められていた。

 それを聞いて焔は自嘲気味に笑った。

「駄々をこねて、グレて、流された。東京に行けば変われるなんて幻想に溺れて、気がつけば良い歳こいて独身のフリーターの天涯孤独の身ときた。滑稽で仕方がないわ」

 再び桃美へと視線を戻して焔はニッコリと笑う。

「でもね、今はもう違う。私の中の願いを見つけた。私が、私達が守った大切なこの街なら私は今度こそ幸せになるっていう願いを掴めると思ったの」

「私も待ってるからね」

 桃美は焔の両手を包み込むようにぎゅっと握った。

「……ありがとね」

 焔の声は少し震えているようだった。

「あー、焔ちゃん泣いてるの?」

「ばっ!違うわよ!夕日が目に沁みただけ!」

 焔が照れ隠しのようにぷいと顔を背ける。

 桃美はそれを見て穏やかに笑った。


「それじゃあ、行くね」

 切符を片手に焔は改札へと歩き出した。

「今度は葉月ちゃんも呼んで三人でまた会おう!私待ってるからね!」

 桃美の言葉に焔は背中を向けたまま右手を挙げて応え、改札をくぐりホームへ続く階段へと消えていった。

 背後から見た焔の横顔には涙が見えたような気がした。





―クラスメイトには私と一緒に街を守る魔法少女が居ます。

 プリティーベリーの焔ちゃんはいつも元気でパワフルな女の子。

 どんなに辛い時でも立ち止まらず走り続ける頑張り屋さん。

 ちょっぴりがさつだけど本当は泣き虫なのを私は知ってるんだ。

 プリティーミントの葉月ちゃんは頭が良くてとってもクール。

 冷静な判断で難しい問題もばっちり解決しちゃうの。

 焔ちゃんとはケンカばっかりしてるけど本当は友達想いの優しい女の子。

 

 二人とも、私の大事なお友達。


ここまでご愛読ありがとうございます。

これにて第4話終了となります。

次回第5話もご期待ください。

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