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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第4話 フォームチェンジ!激突魔法熟女
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至宝の煌き(4)

 プリティーコアから溢れ出した光に包まれ、桃美のコスチュームが光に溶けて形を変えていく。

 フリフリのミニスカートは丈が伸びてふんわりと膨らむように大きく広がり、レオタード状のコスチュームにも刺繍やリボンが施されたドレスへと変わる。

 両肩には蝶々結びの大きなリボンが一つずつ付けられ、コスチュームの上から魔法陣が所狭しと刻まれた胸当てが装着された。

 そして杖も同様に光に溶け、巨大な突撃槍(ランス)となって桃美の手に収まる。

 突撃槍の柄にはプリティーコアがキラリと輝いていた。

「強き心、勇敢な心、どんな困難にも立ち向かう心!ブレイブハート発動!」

 光を纏い、突撃槍を構えたポーズを桃美が決める。

「強き心、渇望する心、純粋に求め願う心!デザイアハート発動!」

 相対する焔も同じ様に変化したコスチュームとなりポーズを決めていた。

 大きく異なるのは焔が握っているのが巨大が鎌であることだ。

「行くよ!焔ちゃん!!」

「桃美ぃいいいいいいい!!」

 巨大な武器を手にした二人がぶつかり合う。



「ちょっ、桃美さん達のカッコマジヤバくない?ってか結界保つのコレ?」

「うっさい!無駄口叩かず集中しなさい!」

 そんな様子を結界の外でトライガーと共に環とありすが観測していた。

 二人とも魔法少女に変身して多重の魔法陣を展開し続けており、額からは玉の汗が吹き出している。

「やはり焔も至宝を使ってきたか……。頼むぞ、桃美」

 大量に展開した魔法陣を背にトライガーは二人の戦いを固唾の呑んで見守るのだった。

 


 身丈ほどもある巨大な武器を振り回し、ピンクと真紅の魔法少女が灰色の世界でぶつかり続けていた。

 彼女達の衝突の度に生じる魔力の激しい衝撃は次元回廊そのものを揺るがせる。

「この力さえあれば私はもっと幸せになれた!こんな惨めな人生じゃなかった!もう二度とこの力を奪わせない!それが桃美であっても!!」

 鬼気迫る様子で大鎌を振り回す焔。

 桃美は視線を逸らさず、その一撃一撃を突撃槍でいなし、弾いていく。

「焔ちゃんは変身できなくなったことを言い訳にしたいだけじゃない!」

 突撃槍全体から桃色の魔力が焔目掛け射出される。

「桃美に何が分かるっていうの!アンタも、葉月も、幸せな生活を掴んだ奴に私の惨めさがわかってたまるか!」

 真紅の魔力を纏った大鎌で桃色の輝きが切り裂かれる。

 四散する魔力を掻い潜り焔は大鎌を桃美目掛け大上段から振り下ろす。

「私も葉月ちゃんも、魔力をなくしたのは同じじゃない!自分だけが不幸だって勝手に思い込んで、それを逆恨みして、そんなの焔ちゃんらしくない!!私の知ってるプリティーベリーの焔ちゃんは何度転んだってすぐに立ち上がる、転んだ理由も気にせずとにかく前に進み続けていくそんな力を持ってたはず!!」

 突撃槍を両手でしっかりと構えた桃美は魔力障壁を展開し焔の一撃を受け止めた。

 巨大な魔力同士の干渉で空間全体が歪むような衝撃が走る。

「うるさい!うるさいうるさい!!」

 焔は視界がぼやけるの感じていた。

 そしてかつてこの小学校で過ごした日々が、仲間との思い出の光景が目の前の桃美の背後に幻視してしまう。

 どんな時も立ち止まらず未来の希望を追い求め続けていたあの頃の自分の姿を。

「焔ちゃん、あの時魔力がなくなったわけじゃなかったの、トライガーが私達に魔力がなくなったように思い込ませただけだったの。それにあの戦いで得たのは魔力だけじゃない。私達の経験や思い出は全部私達に残されたままだった!焔ちゃんは失ったものだけ見て手元に残された物に見向きもしなかっただけ!!」

 魔力障壁を解放し、横薙ぎの一撃で焔を弾き飛ばす。

「焔ちゃんはいつでも立ち上がることが出来た。その強い心が残されていたのが証拠」


 桃美の言葉を受け止める度に焔の心臓は鼓動を早める気がした。

 焔の淀んだプリティーコアがカタカタと振動し続けていることにも気がついた。

「それでも!あの日の喪失感さえなければ私は!!」

 自分の心の弱さとそれに絡みつく呪縛に気がつけた。

 過ぎた事への後悔とただのわがままだと気づいてしまったがもう後には退けない。

 これは押さえ込んでいた自分の心からの衝動なのだから。

 その衝動のままに目の前のかつての友達へ行き場のない怒りをぶつけるしかできないのだ。


 半狂乱の焔の突撃を再度突撃槍で弾き返し、桃美は身に纏う魔法具に宿る魔力を解放する。

「焔ちゃん!弱い心に負けないで!!」

 桃美の両肩のリボンがスルスルとほどけ、ほどけた先から光の粒子となって桃美の周囲に渦巻き桃色に輝く魔力フィールドが形成されていく。

 そしてプリティーコアからも激しい輝きが溢れ、魔力フィールドと呼応するように突撃槍に魔力が収束していく。

 桃色の魔力フィールドは広がり続け、焔を捉える。

「ぐぅうう!私はっ……!」

 焔は悶えるように魔力フィールドによる拘束に抗う。

 焔の両肩のリボンも同様にほどけ魔力フィールドに変換されていき、桃美のフィールドと干渉し合う。

 焔のプリティーコアも激しく輝き、大鎌に魔力が収束されていく。

「過去に囚われた弱虫にならないで!!」

 桃美は腰溜めに突撃槍を構え、満ち溢れた力を解放した。


ドギュウウウウウウウウウウウウウウン!!!

 槍全体から強大な桃色の魔力の奔流が迸る。


「ももみぃいいいいいいいい!!!!」

 焔の大鎌が振るわれるよりも先に桃美の魔力が焔を飲み込む。

 桃色の魔力の津波を焔は大鎌で受け止め続けるが次第に魔力フィールドも削り取られ始める。

「デザイアハート……、私の渇望する心はっ……私の願いは……」

 焔の瞳に浮かぶ正気の光を桃美ははっきりと捉えた。

「焔ちゃんには強い心がしっかりと宿ってる。だから、もう一度立ち上がって!プリティー!ブレイブ!!フラアアアアアアアアアアアアッシュ!!!」

 桃美が投擲した突撃槍は一条の光の筋となって焔の胸を貫いた。


 激しい輝きの中で焔は心の靄が晴れていく気分であった。

「ああ……私は諦めていただけだったんだ……私の心はこんなにも求め続けていたのに……」

 焔の纏うコスチュームが崩れるように光の粒子に変わり、淀んだプリティーコアが粉々に砕け散るのだった。

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