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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第3話 ゆとり魔法少女セイントナース舞う
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闇の蠢き

「やはり紛い物の外付けでは限界があるか」

 モニターにデータが次々と羅列されていく。

 その中にはプリティーピーチの画像が映されていた。

「30年前の戦闘データが残されてないのが問題だな。軍部の管理も雑な物だ」

 コンソールを叩き別のデータを開いていく。

 そうしていると端末に何やら通知が表示された。

「……ふむ、奴らも割と優秀じゃないか。期待していなかったが本当に見つけてくるとはな」

 コーヒーを一口啜り、コンソールを手早く操作する。

「これならばあとは上手く泳いでくれるように手引きするだけか」

 懐から小型の端末を取り出しコンソールに手際よく接続していく。

「モルモットの出来が悪すぎて計画が破綻しかねなかったが姫の気まぐれで思いがけない状況になってるんだから面白い。手配は面倒だが上手く奴らを誘導できれば更に面白くなるぞ……」

 ほの暗い一室にモニターの明かりだけが怪しく輝く。


「得られるデータを考えただけでゾクゾクする。魔科学の更なる地平が開けるぞ」



*  *  *



「係長、病み上がりのところ悪いんですがこの書類のチェックお願いできますか?」

 始業時間となり星宮市市役所企画総務課では職員が慌しく動き始めている。

 杉田学も退院し今日から職場に復帰していた。


「おお、忙しいのに穴あけてすまんな。これは来月頭の山三との調整会議のやつか」

 学が手渡された資料の束をパラパラと捲る。

「市長も参加するらしいんで課長がかなりピリピリしててシンドイっすよ。しっかし山三物産もなんでここまで大盤振る舞いで協賛してくれるんですかね?たかが夏祭り程度なのに」

「まぁ大企業とはいってもこの10年ほどで急成長したぽっと出ではあるから地盤固めってことかな。市長もいずれ国政に打って出そうな雰囲気だしお互い利害が一致してんだろ」

 現星宮市長・涼風博史はまだ40代と比較的若いが前市長時代に停滞気味だった星宮市再開発計画を一気に進行させた政治的手腕で知られている。再開発の進行と共に企業や学校の誘致や住宅地整備も進み今や星宮市は国内でもトップクラスの優良財政都市となり、他の地域からの視察が絶えないほどである。

 現在二期目の辣腕市長はギラギラとした野心家としても知られており、来年迎える三期目の市長選挙もほぼ安泰と見られているが星宮市を足がかりに国政進出するのではとの噂も出始めている。


「特に駅周辺の再開発は山三とかなりズブズブだったみたいだしな。美味しい思いをさせてもらってるから最大限貢献しますっていう姿勢を見せたいんだろう」

「それにしても駅周辺を全部祭りの会場として整備するとか、仮装コンパニオンを大量動員するとかどんだけの金が動いてるのか考えただけでもクラクラするっすよ」

 部下の男が苦笑いを浮かべる。

「市長と山三の会長の合同講演会とかも予定しているしそれだけ良好な関係ってことをアピールしたいんだろう。あの市長なら引く手数多だろうしな」

「ですかね。とりあえずその資料で大丈夫そうなら課長へお願いします」

「おう、わかった。たっぷり休んだ分しっかり働くさ」

 学は資料をポンと叩いて応じて見せた。

「お子さんたちもいるんだから体に気をつけてくださいよ。話じゃ倒れた事を連絡した時、奥さん相当動転してたみたいですし」

「まぁ嫁には大分心配かけたからなぁ。久しぶりの休暇みたいなもんだったし入院中はしっかり甘えてきたよ」

「いつまでも夫婦仲良くて羨ましいっす。僕もそんな嫁さん欲しいんですけどねぇ」

 学のいつもの忙しい一日が始まるのだった



*  *  *



 星宮市ともスターランドとも異なる次元の奥底、ウラーム帝国残党の城がそびえ立っている。

 

 城の最深部、禍々しく荘厳な装飾で飾られた玉座の間の中央で甲冑を着込んだ悪鬼三人が片膝を付いて深々と頭を下げていた。

 部屋の最奥の玉座には漆黒のオーラが充満し、そこに鎮座しているだろう帝王の姿を覆い隠している。

 しかし、揺らめく漆黒の帳の奥の邪悪な影と真紅の眼光、そして強大なプレッシャーが帝王の存在を確実に示していた。


「……報告は以上になります。相変わらずジャーアク共は協調する気があるのかはっきりしておりません」

 左端の長髪の悪鬼が少し顔を上げて玉座の方を伺う。

「―まぁ良い、奴らは我らとは理が違う存在、勝手に暴れまわらせて構わん。奴らと魔獣を我々が便利に使えば良いだけよ」

 圧迫感ある重厚な低音が玉座から響いてくる。

「―それで、ガリオの方はどうなっておる。首尾良く進んでいると聞くが」

 ガリオと呼ばれた中央の老悪鬼が顔を上げる。

「はっ。現在プリティーピーチによる損害を抑えるために斥候部隊のみの派遣になっておりますが、悪魔共から提供された情報で着実に成果はでております。後は悪魔共が計画している作戦に乗じて同時多発的に攻めるのが良いかと」

「―悪魔共の手を借りるのは少々癪だがまぁ良かろう。スターランドを攻め落とした暁には最大限敬意を払って始末してやらねばな」

 帝王の言葉に合わせるように悪鬼達も不敵に笑った。


「それと、帝王様に―」

「お父様!そのような大した成果も挙げずコソコソしているような弱者の言葉に耳を傾ける必要はありませんわ!」

 右端の筋骨隆々な悪鬼が何か言おうとしていたが背後の大扉が急に開け放たれと同時に響いてきた大声にかき消された。

 悪鬼達が苦々しく振り返ると褐色の肌に腰まである銀髪と真紅の瞳が映える少女ほどの悪鬼が玉座の間に踏み込んできた。その姿は人間で言えば中学生ほどだろうが、纏う邪悪なオーラが人ならざるものと如実に示していた。

「……レイジー様、今は帝王様へのご報告の最中ですのでしばしお待ちになって頂けませぬか」

 老悪鬼が乱入してきた若い悪鬼へと落ち着きを払って語りかけた。

「ふん、どうせまたマギカフォースに負けましたとかいう泣き言でしょうが!お父様、出撃の許可をいただきに来ました。帝王の娘たる私、悪鬼将軍レイジーがそこに雁首揃えた役立たずの将軍共との格の違いというものを見せつけてあげますわ!」

 レイジーは跪いている悪鬼将軍達の視線を無視して玉座へと叫ぶ。

「―そこまで言うならば良かろう。レイジーよ、ハートスポット探索および星宮市への出撃を許可する。ガリオ、レイジーの部下として悪鬼兵長を何名か見繕ってやれ」

「……はっ、帝王様のご命令とあらば速やかに」

「お父様感謝します。すぐにでもマギカフォース共の首を取ってきますわ!」

 レイジーは恭しくお辞儀をするとスカートを翻し飛び跳ねるように玉座の間から飛び出していった。


「―状況も知らぬバカ娘が迷惑をかけたな。目付け役の選定は貴様に一任する。計画の邪魔にならない場所で好きに遊ばせておけ。それとボージャよ、先ほどの報告の続きがあるのだろう?」

「はっ、失礼しました。帝王様にお見せしたいものがございます。悪魔共が発見したという物なのですが、これはまさかと思いまして」

 ボージャと呼ばれた筋骨隆々の悪鬼が懐から取り出した物体を見て玉座に立ち上るオーラが激しく揺れた。

「―!?なんと……。フハハハ!まさか我が手の内に来るとはな!」

 帝王が闇の魔力でボージャの掌に乗せられていたハート型の宝石を手元に引き寄せた。


「―プリティーコア!!忌まわしき魔法具よ!!」

 赤色の宝石が闇に染まっていく。

ここまでご愛読感謝いたします。

第3話はこれにて完結し物語は後半戦へと突入します。

闇の勢力の攻勢に激しさを増していく桃美達の戦いにご期待ください。


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