魔法少女同盟
眩い光のゲートが現れ、プリティーピーチ達が星宮中央病院の屋上へと降り立った。
上空に渦巻いていた悪夢領域の暗雲はすっかり消失しており、夏の爽やかな青空が広がっている。
病院周囲に展開されていた魔法陣も徐々に消えようとしていた。
「なるほどね。ってことは桃美さんたちと私はこれから仲間同士ってことね」
トライガーとバロンから事のあらましを説明され、ありすはうんうん頷いていた。
「また魔法少女に戻って色々戸惑うこともあると思うけど、早く終わらせられるようにがんばりましょうね」
「そんな!桃美さんにまた会うことが出来ただけでも嬉しかったのに、これから一緒に戦えるなんて超感激です!」
桃美が差し伸べた手をありすは両手でしっかりと掴み胸元に強引に引き寄せはしゃぐ。
「ま、そういうことだからよろしくね。後輩ちゃん」
ありすの頭をポンと叩いて環が二人に割って入った。
「それじゃあタマっちもよろしくね」
「タマっちぃ?」
「仲間ってことなんだから堅苦しい呼び方はやめよ。私のこともありすで良いから」
眉根を寄せる環にありすは無邪気に笑って答えた。
「なんで桃美さんには敬語で私はタマっちなのよ!」
「え~、良いじゃん可愛いのに。ホワイティパイセンの方が良かった?」
「目上の人間への配慮ってのがあるでしょ!」
「年上だからって目上って訳じゃないじゃん。あんまり細かいこと気にすると老けますよセ・ン・パ・イ」
「ぐぬぬぬ……」
なにやら収まらない様子の環を無視してありすは二人の姿を眺め回す。
「それにしてもコスチューム超ヤバい!桃美さんのもタマっちのも超可愛い。タマっちのそれ体操服っぽいけど、私ブルマって初めて見たかも」
「あ、あはは、ありがとうね」
「しれっとジェネレーションギャップを感じさせる発言を……」
無自覚に抉ってくるありすの発言に翻弄される二人。
「にしてもあんたのコスチュームどうなのよ。イメクラみたいな格好じゃない」
「えー?この衣装も可愛いじゃん」
胸もスカート丈もギリギリなナース服状のコスチュームのありすがくるりと回ってみせる。
「あ、そういえば実習中だったんだ。そろそろ戻らなきゃ」
ふとありすは自分がなんのために病院にいるのか思い出して変身を解いた。
セイントナースのコスチュームから普通のナース服に戻ったありすを見て桃美が不思議そうな顔をした。
「あら?本当に看護師だったの?」
「えへへ、まだ専門学校生ですけどね。魔法少女やってたから人を癒す仕事に憧れるようになったってこともさっき思い出しました」
ありすが舌をペロっと出しておどける。
そしてちらりと見えた腕時計の時間を二度見して驚愕する。
「ちょっ!もう11時!?悪夢領域になったのは10時半ぐらいだったはずなのになんで時間がこんなに過ぎてるの!?」
「あー、そのことか。時空間転送ゲートの仕様で同じシステム使用者の中でタイムスタンプが最も遅い使用者の時間に同期されているんだ。制御できない事象が多すぎてバラバラの時間軸には戻れないからね。今回は10時47分に突入した桃美達に合わせてるから、全員その時間に戻ってきてる」
動揺しているありすにトライガーが答えた。
「……ちょっとまって。じゃあ、現実からいなくなってった間私はどうなってたの?」
「その間君はこの時間軸から消失していることになる。一応、病院の時間をスターランドの方で止めてたから存在消失による大きな問題は起こらないはずだ。ただ戻ってきてからの10分ぐらいは普通に動いてるから、気がついたらいつの間にか君がいなくなってるという状況だろうね」
「げぇー、指導官マジギレしてそう。バロン、元いた部屋の近くまで転送して!」
ありすの言葉に応えて転送ゲートが開かれ、それに飛び込むありす。
「後で連絡先教えてくださいね!今度皆で遊びに行きましょうね!」
満面の笑みで桃美達に叫びながらありすは転送されていった。
「はぁ、なんか疲れた。これが若さってやつなのか……」
環が肩をすくませる。
桃美も小さく苦笑いをした。
「じゃあ、私も行きますね。スピネル、お願い」
若干疲労の色を出しながらも環が桃美に挨拶をして転送ゲートへと消えた。
次第に暑さが増して来た夏の日差しが降り注ぐ病院の屋上に桃美一人が佇んでいた。
魔法少女チームとして戦い、そして仲間との取りとめのない会話、それらがきっかけとなり桃美は30年前の自分達を思い返していた。
「ねぇ、トラちゃん。もし焔ちゃんと葉月ちゃんがこの街に残ってたら、三人とも魔法少女に戻ってたの?」
桃美がぽつりと呟いた。
「……。そうだな、一応全員に復帰を打診する予定だった。だけど君以外の二人はこの街を出てしまっていたからね。それに多分もうプリティーコアも手放してしまっているだろう」
「プリティーコアって大事な物なのにトラちゃん達が回収しなくて良かったの?」
「プリティーコアは契約者しか使えないんだ。それにプリティーコアは変身と契約者の魔力を変換して出力する装置にしかすぎないから、価値を知らなければ悪用されることもないだろう。契約者から手放されたプリティーコアはおもちゃの宝石程度の価値しかないからね」
桃美は記憶の奥底を浚っていく。
「契約者の魔力なら使えるんでしょ?ならあの戦いの後、何度か皆で変身してみようとしたけどダメだったのは?実は魔力残ってたんでしょ?」
「そのことか。それは君達が魔法少女として役目を終えたと錯覚させるために変身機能にロックをかけたんだ。そうやって君達を魔法少女から普通の少女の人生に戻して行こうという方針だった。プリティーコアも思い出の品として機能の制限だけ行って、回収はしなかった。まさか30年も後になって役目を終えた魔法少女を復帰させなければならない事態が起こるなんてこっちも想定していなかったからね」
「ふーん」
桃美は遠くを眺めながらトライガーの言葉を聴いていた。
30年前の友情の思い出は長い時間の中で随分ぼんやりとしたものになっているが、その輝きは今も尚桃美を動かす原動力の一つであった。
「プリティーコアの探索はスターランドの方でも行ってはいるよ。契約者共々見つかれば復帰を打診する予定ではいる」
「そうなんだ。……また会えるといいな」
屋上を後にする桃美の瞳には30年前の魔法少女だったころと同じ輝きが宿っているようだった。




