あの日灯った輝き(4)
「プリティーピーチが魔力を与えた?」
マギカドリームの瞳は突如現れたプリティーピーチ達に釘付けになっていた。
あわやと思われた瞬間に眩い光のゲートから現れたスピリットホワイトによってセイントナースは九死に一生を得た。
そして続いて現れたプリティーピーチはセイントナースの手を取り、セイントナースから力が溢れたように見えた。
「私だって……」
プリティーピーチとセイントナースが手を取り合い、力を受け渡すように見えた光景はプリティーピーチ
にどこか母親の雰囲気を感じていたドリームの心に嫉妬の影を作り上げていた。
そして、一瞬だがジャ=ゾハルの視線がドリームに向けられたことに誰も気がつかなかった。
* * *
「全部思い出した。なんであんたがまたここにいるのかもね!」
ありすは力強く叫ぶ。
「後輩ちゃんやっとお目覚め?雑魚は私が片付けておいたからね」
環が桃美とありすの元にやってくる。
環の背後には胴体はベコベコに凹み、四肢もバラバラにされた戦魔獣の残骸が四つ転がっていた。
「うわぁ、えっぐ」
ありすが戦魔獣の残骸を見て苦笑いした。
「癒し手ヨ、何度でモ闇ニ閉ざサレよ。恐怖に心ヲ濁すノダ」
沈黙を続けていたジャ=ゾハルの一つ目が再び大きく見開かれ、悪意の波動が再び放たれる。
ありすは飛び上がり背中の小さな羽根を広げる。
「フェザーフォース!!」
光り輝く白い羽根が舞い散り、悪意の波動を霧散させていく。
向こうでのたうち回っていたマギカフォース達も、光の羽根に触れて自我を取り戻しているようだ。
「ぐぐぐっ。……あれ?ここは?」
サンシャインが頭を振りながら周りを見回す。
他の3人も同じ様に悪夢から解放されて混濁する意識をなんとか取り戻している。
「って!またアイツら!」
いつの間にか現れていたプリティーピーチとスピリットホワイトの姿を見つけサンシャインの叫びが木霊する。
「セイントナース!私達があなたの道を開くわ。決着はあなたが付けなさい!」
桃美が杖をかざしながら空中のありすに呼びかけた。
桃色の閃光が頭上から降り注ぎジャ=ゾハルの周囲を囲む白亜の茨を吹き飛ばしていく。
「抵抗ハ無意味と知レ。癒し手ヨ我に還ルノだ」
ジャ=ゾハルが幾つも黒い水溜りを作り出し、戦魔獣が次々に這い出てくる。
「雑魚は私達が引き受ける。後輩ちゃんはボスに集中して!」
環が戦魔獣の群れへと飛び込み先頭の一体を殴りつけた。
拳に内包された魔力によって戦魔獣が後続を巻き込みながら弾けるように吹っ飛んでいく。
頼もしい協力者の力を信じ、ありすはジャ=ゾハルだけをギュっと睨みつけた。
「もう思い出したんだから、あんたが私の恐怖そのものだったってことも。あんたこそ私の記憶の中に帰りなさい!」
ありすは自らの恐怖心目掛けて真っ直ぐに飛び立った。
「セイントランス!」
右手に注射器を模した槍が光と共に現れる。
「抵抗は無意味。むイミ、ムいミ、むいミ……」
進撃するありすを絡め取ろうとする白亜の茨は桃色の閃光がなぎ払っていく。
ありすの行く手を遮ろうとする戦魔獣は生み出される傍から殴り飛ばされていく。
10年前はたった一人で戦っていたありすにとって、共に戦う仲間がいるということがこれほどまで心強いものなのかと感動を覚えるほどすばやく的確に障害が排除されていく。
ジャ=ゾハルはもう目の前だ。
ギィンッ!!!
ジャ=ゾハルの一つ目から漆黒のブラズマをまとった邪悪な魔力のビームが放たれた。
「いっけぇ!!」
ありすはセイントランスに魔力を込めて投擲する。
ギュゥウウウウン!!!
白く輝くオーラを放つセイントランスがジャ=ゾハルの放ったビームを拡散させながら貫いていく。
「グォオおおオオおオオオおおオおおオおお!!!!!」
セイントランスはビームを貫き、勢いを衰えさせず真っ直ぐジャ=ゾハルの一つ目に吸い込まれるように突き刺さる。
セイントランスのシリンジが自動的にゆっくりと押し込まれ、内部につめられた魔力を流し込んでいく。
「悪夢よ消え去りなさい」
ありすが左手を突き出し、手のひらに魔法陣が生まれた。
ジャ=ゾハルが純白の魔力の十字架の中心に固定される。
「セイントォオオオ!!!ウィィイイイング!!!!!」
ありすの背中の小さな天使の羽が輝く巨大な魔力の翼へと変わり、純白の光をまとう。
光り輝く天使と化したありすが輝く白い羽根を散らしながら矢のように飛び、ジャ=ゾハルを魔力の翼で一刀両断にした。
バアアアアアアアアアアアアアアアアア
ジャ=ゾハルは崩壊し霞のように消え去っていく。
「治療完了!」
翼が元の可愛らしいサイズに戻り、ありすは着地した。
舞い散る白い羽根が悪夢領域を浄化していき、悪夢領域に次々と亀裂が走り光が漏れ出し始めた。
「よし、終わったな。積もる話は帰ってからだ。時空間転送ゲート起動!」
トライガーの声が聞こえ、眩い光を放つ転送ゲートが作り出される。
マギカフォース達も同じ光を放つ別の転送ゲートでそそくさと帰っていた。
「さようなら、そしておかえり。私の大切な怖い思い出……」
崩壊していく悪夢領域の中にありすの声が手向けられた。




