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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第3話 ゆとり魔法少女セイントナース舞う
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夢の癒し手、セイントナース治療開始!(6)

「確かこうやって力を貯めれば……」

 ありすの手の中に光が生み出される。

「よし、何も変わってない!セイントダーツ行けっ!」

 ぐっと右手を握り締めて前方へと突き出す。

 ありすの周囲に光り輝く小さな注射器が30本ほど現れ、残光を尾に引いて飛んで行く。

ズドドドドドドドド

 ドリームを追い回していた触手が放たれた注射器によって貫かれてバラバラにされていく。マギカフォース達を捕縛していた触手も魔力障壁もろとも蜂の巣にされ、ボロ雑巾のごとく千切れていく。

「おげぇぇ。くっさ、きっしょ!」

「ゲッホッゴホ。……ヌルヌルがべっとりで最低ですわ」

「もうお嫁にいけないにゃぁ」

「うぅぅぅぅ、グスッ」

 触手から解放されて地面に叩き落されたマギカフォース達は皆げっそりとしているが無事なようだ。それを横目にしながらありすはジャ=ゾシへと一気に加速する。


「癒シ手。排除を開始スる」

 ジャ=ゾシがその大きな一つ目でありすを認識した。

 ジャ=ゾシは魔獣をけしかけてありすから距離を取り、更に黒い水溜りを生み出していく。魔獣たちがジャ=ゾシとありすの間に入るように群れをなして突撃してくる。

「下級眷属が邪魔するな!えーっと、セイントボム!」

 両手に込めた魔力塊をぽいぽいと魔獣の群れへ投げ込む。放たれた魔力は無数のカプセル薬の形を成して魔獣の群れの中で閃光と共に炸裂し、魔獣を木っ端微塵にしていく。

「そうそう、こんな感じこんな感じ。おーし、雑魚は一気に片付けちゃうよ。来い!セイントランス!」

 ありすが叫ぶと右手に身の丈ほどもある注射器が現れる。

「セイントアローレイン!」

 注射器の針側を空へと向け、シリンジを押し込む。

バシュウウウウウウウウウン

 注射針の先から純白の魔力が花火のごとく打ち上げられ、上空で拡散し光の矢の雨を降らせた。光の矢は魔獣を的確に捉え、更に黒い水溜りも撃ち貫いていく。

 大量に生み出された魔獣は一瞬で掃討され、ありすの前にはジャ=ゾシが残るだけとなった。


「……やっば、魔法少女ってこんなに楽しかったっけ!?超爽快なんですけど!」

「あまり調子に乗るでないぞ。セイントナースの力はその程度ではない。まだどこかでブレーキが掛かっておるようじゃが」

「これでフルパワーじゃないの?私超やばいな」

「(まだ本来の力を思い出せておらんのか。やはり記憶消去の後遺症か……)」

 無邪気にはしゃぐありすを尻目にバロンは後ろめたい気持ちで言葉を飲み込むしかなかった。


「危険と認識。排除ヲ続行すル」

ギィイイイイン

 ジャ=ゾシの一つ目が大きく見開かれ魔力の波動となってセイントナースを襲う。

「おっと、フェザーバリア展開!」

 ありすの背中の翼が輝き、光のベールがジャ=ゾシの汚れた魔力の波動を打ち消していく。

「癒し手を排除スる」

 ボロボロに千切れた触手が一気に再生し、絡みつこうと再度四方から伸びて襲い掛かってくる。

「その手は通用しないって。いい加減決めちゃおっかね!」

 ありすは手にした巨大な注射器を振るって触手をバラバラに切り裂いた。そして注射器をしっかりと脇に抱えて突撃体勢を取る。

「必殺セイントピアース!」

 翼が強く輝き、猛烈な魔力の奔流を生み出す。ありすは魔力のフィールドに覆われて光の球となり、翼から噴射される魔力によって強大な推進力を得て流星のごとくジャ=ゾシへと真っ直ぐに突き刺さる。

 激突しながらありすは注射針をジャ=ゾシの目玉に打ち込んだ。そして体を覆う魔力フィールド、背中から噴出される推進魔力を全て込めてシリンジを押し込む。

ボシュウウウウウウウウウウウウン

 膨大な浄化の魔力がジャ=ゾシの背中を貫通して汚染されたビルへと直撃する。

 ジャ=ゾシの体はブクブクと膨らんで破裂し光の粒子となって消滅した。

 ビルに当たった浄化の魔力は拡散して悪夢領域に光の雨となって降り注ぎ、漆黒に染まった狂気の世界は亀裂が広がりバラバラと崩壊を始めた。

「治療完了ってね!」

 調子に乗って決めポーズを取っていたありすはバロンの作り出した転送ゲートに放り込まれていた。

「悪夢領域が崩壊する。現実世界に強制的に戻されてしまう前に人目の付かないところに送るぞ」

 悪夢領域は現実世界と夢世界の狭間に無理矢理作られた不安定な空間であり、悪夢領域を作り出したジャーアクを倒すことで悪夢領域自体が崩壊し現実世界へと引き戻されてしまうのだ。

 視界の隅ではマギカフォースたちもほうほうの体で転送ゲートに飛び込んでいるのが見えた。


 転送ゲートはビルの屋上へと開かれた。

 空を覆っていた異様な暗雲も消え去り、まだ高い夏の太陽の日差しが降り注いでいた。

「ふぅ、相変わらず時間はまったく経ってない。やっば、本当にまた魔法少女になったんだ……」

 ありすはバッグにつけていたアクセサリーウォッチをチラリと眺めて感慨に浸った。

 悪夢領域内は時間や空間が歪められてほぼ停滞しているため、悪夢領域内での時間経過はほぼないに等しい。ジャーアクはこの悪夢領域内の性質を利用して急速に成長しているのだった。

「おお、ありすよ!立派に魔法少女として復活できたのう。これからも闇を払うためにおぬしの活躍に期待するぞ!」

「約束は守りなさいよ。まぁでも、やっぱり魔法を使ってバーンとやるの最高だったし、ストレス解消にいいかも。暇だったらまたやってあげる」

 拒絶していた時から盛大に手のひらを返したありすは笑いなら街を眺めるだった。

 胸の中の疼きはまだ残ったままだったが、気にも留めなかった。



*  *  *



「桃美、どうやら最後の魔法少女の合流の目途が立ったようだ。近々魔法少女同盟として本格的に動くことになるぞ」

 買い物帰りの桃美の元にトライガーが報告を携えて現れた。

「そう、じゃあ無事に魔法少女になれたのね」

 帰り道の人気が急になくなったことは気にも留めず、桃美は浮かんで併走してくるトライガーにそう答えてまだ見ぬ仲間が無事過去を乗り越えたことに安堵するのだった。

「もしかしたら昔会ってる子らしいけど一体どんな魔法少女なのかしら。なんだか会うのが楽しみになっちゃった」

 桃美の中の魔力が何かと呼応するようなそんな気がした。

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