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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第3話 ゆとり魔法少女セイントナース舞う
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夢の癒し手、セイントナース治療開始!(5)

「でぇりゃああああああああ!これで終わりっ!」

 サンシャインが大剣で最後のジャーアクを真っ二つにして叫ぶ。

 黒い水溜りは全て消えうせ、大量に転がっていたジャーアクの残骸も闇に溶けるように消えていく。

「新兵器の試し切りには丁度良い相手だったわね。というかまだまだ暴れ足りないぐらい」

「ニャハハ、サンシャインはすぐに調子に乗る」

「ね、ねぇ、ドリームは大丈夫?。大分頑張ってたみたいだけど」

 前線で好き勝手暴れるサンシャインの後方支援に大忙しだったスカイとフラワーは恐らく一番ジャーアクを倒していただろうドリームを気遣って声を掛けた。

「大丈夫です。消耗してはいますが、以前の杖と比べればまだ余裕があります」

 ドリームは少し肩で息をしながらも普段どおり振舞っていた。

 

 ジャーアクの群れが消え去り悪夢領域は不気味な静寂に包まれている

「これで、あとはどうすればここが元に戻るわけ?」

「悪夢領域はそれを作り出したジャーアク本体を倒さなければ消えない。今君達が倒したのはあくまでも眷属にすぎないから注意してくれ」

 サンシャインに捕まえられたシリウスは周囲を警戒しながらも説明した。

「本体ねぇ。まぁ先ほどの様子ならば大したことなさそうですけど」

 マギカフォース達が周囲の様子を伺っていた時だった。

「魔法少女諸君、悪夢領域マでのゴ足労感謝すル」

 どこからか男の声と女の声、若い声と年老いた声が混ざり合って同時に喋ったような独特な声が響いてきた。

 突如ビルの壁面に巨大な黒い水溜りが現れ、その中から異形の魔物が現れる。

 その魔物は中央に一つ目がギョロリと開かれた巨大なピラミッドのような本体に輝く天使のような翼を有していた。本体の底面部分からは赤黒い触手が無数に垂れ下がっており、ときおりヌタヌタとした音と共に触手が絡まりあっている。

「私ノ名はジャ=ゾシ。彷徨う悪夢の欠片ガ一つ。悪夢領域は君たチを歓迎スる」

 異形の魔物はマギカフォース達を一つ目で見詰めながら言葉を発した。

「何なのよこの不快な声は!きっしょく悪ぅ」

「うぅ、怖い…・・・」

 フラワーが縮こまるようにしゃがみ込んでしまった。

「気をつけろ!こいつらの声や本体から精神を不安定にする魔力が放たれている。気をしっかり保つんだ!」

 異様な雰囲気の化物にすっかり飲まれているマギカフォース達を見てシリウスが叫んだ。

「我々ハ歓迎を続けル」

 巨大なジャーアクは空中に水溜りを次々と出現させた。そしてそこから様々な異形の魔獣たちが零れ落ちるように生み出されていく。

「ボスの登場ってわけね……!」

 サンシャインが大剣を握りなおして臨戦態勢をとった。


「ジャ=ゾシって、もう2文字の欠片じゃない。10年ぶりに魔法少女に変身させておいて、いきなりなんて奴と戦わそうとしてたのよ!」

 新たなジャーアクの登場を遠巻きに見ていたありすはジャーアクの言葉に驚愕していた。

「す、すまん。これは完全にワシも想定外の状況なのじゃ。まさかこんな早くここまで力を付けたジャーアクが出現するとは」

 かつてありすが戦った敵、ジャーアクとは巨大な悪夢の集合体であった。目の前にいる異形の化物は集合体の核である親玉から零れ落ちた悪夢の欠片であり、それら悪夢の欠片たちは悪夢領域によって現実世界と夢世界の繋がりを汚染して人々の魂から悪夢の力を引き出して強力な悪夢の化身へと成長していく。成長に伴いジャーアクは悪夢の音として名前が一文字ずつ増えていき、最終的には親玉と同じように4文字の悪夢の音を持つ悪夢の核となると言われていた。

 10年前の戦いにおいて、ありすは数多くのジャーアクを滅ぼして来たが2文字を持つジャーアクは12体しか現れておらず、3文字に至っては3体のみであった。2文字のジャーアクであってもかつては苦戦をしたものだった。

「しかし心配はいらん。セイントナースの力は最後の戦いから何も失われてはおらぬ。おぬしがかつての気持ちを取り戻せればその力も自ずと答えてくれるはずじゃ!」

「あーもう、本当に最低。あいつらが倒してくれればいいんだけど」

 ありすはすがる思いでマギカフォース達の戦いを見守った。


「ボスさえ倒せば勝てる!一撃必殺!サンシャインバスタークラアアアアアアアアアッシュ!!」

 サンシャインがまっすぐヨ=ゾシの本体目掛けて飛び上がり大上段に振りかぶった大剣を叩き付ける。

バシィイイイイイイン

 輝きの魔力が乗せられた一撃がヨ=ゾシの本体を捉え真っ二つに、できなかった。

 光り輝く刃はヨ=ゾシに触れる直前に揺れる水面のような障壁に阻まれ、その威力を全て拡散されていたのだ。

「なんなのよ!当たったはずなのにまったく手ごたえがないじゃない!!」

 サンシャインは着地するや横っ飛びして押し寄せる魔獣から距離をとった。

「あれはダンテが連れていた障魔獣のものに似ているがはるかに強力な魔力障壁だ。攻撃を集中させて破るしかないぞ」

 シリウスの分析を聞き、スカイはドリームへ目配せを送る。

 ドリームもそれに答えてうなずく。

「サンシャイン射線から離れてね!スカイラピッドショット!!」

「ドリームマグナパニッシャー!」

 スカイとドリームの同時攻撃がヨ=ゾシの本体を急襲する。

ズドドドドドドドドド

バシュウウウウウウン

 緑と黒の魔力が派手な爆発を起こす。

 着弾の爆風と衝撃は周りの魔獣たちを巻き込み吹き飛ばした。

「やったわ!」

 射線から離れ群がる魔獣をぶった切りながらサンシャインは叫んだ。

 しかし。

「我々ハ歓迎を続けル」

 爆煙が輝く翼によって払われ、ほぼ無傷のヨ=ゾシが姿を見せた。

 翼の一部がドリームの魔法によって消滅させられているが、それ以外はダメージを負っている気配が見られない。

「ウソでしょ……」

 サンシャインは絶句するしかなかった。

「魂よ闇ニ染マれ」

 ヨ=ゾス本体の底面から生えていた触手が一気に伸びてマギカフォース達に襲い掛かる。

 ノーモーションであまりに急な動作であったためドリーム以外の四人はまったく反応できず触手に絡みつかれてしまった。

「げぇ、ヌルヌルで気持ち悪い!」

「ちょっと!放しなさい!っうっぷ」

「ニャアアア!変なところ触ってる!!」

「お、おかあさああああん」

 四人は触手に絡め取られたまま自由を奪われて空中へと釣り上げられていく。

 唯一反応できたドリームだったが、触手の一撃によって杖を絡め取られて奪われてしまった。

「くっ、このままじゃ……」

 ホルスターに納められていたブラスターとエナジーブレードを起動させてながらドリームは体勢を立て直そうとしていた。

 しかし、触手の追撃に追い立てられてドリーム満足に反撃もできずセイントナースの近くまで追いやられていく。


「げっ!?こっちに来ちゃう!」

 触手から逃げてこちらに近づく魔法少女を見やりながらありすの心は揺れていた。

 変身してから、そしてジャ=ゾシが現れてからありすの胸の中の疼きがどんどん強くなっているのを感じていた。

「彼女達を救うためにも今こそありすの力を見せるときじゃ。その心のままにジャーアクを討つのじゃ!」

 10年前をぼんやりと思い返し、あの頃の自分の姿が俯瞰で見えたような気がした。

 過去の自分は手を差し伸べ何か伝えようとしていた。そんな気がしてならなかった。

 記憶の中でキラキラと輝く過去の自分の姿を幻視してありすの中で一つだけ決心が固まった。

「……バロン、一つだけ約束して。魔法少女として役目が終わった後で前みたいに記憶や力を消さないって。それなら戦ってもいい」

 ありすがポツリと呟いた。

「なんじゃと?うぅむ……」

 少しの沈黙の後、バロンは心苦しい調子でゆっくりと答えた。

「わかった約束しよう。ただ力に関しては制限が付く可能性が高い。こればかりは魔法の悪用を防ぐためにも仕方がないことなんじゃ。それでもよいかの?」

「……それでいいよ。もう二度と私から記憶を奪わないでくれるなら」

 魔法少女だった頃のありすは充実していた。

 闇の勢力からこの世界を守る、そんな立派な役目を担っているという誇りがあった。

 魔法少女として力を付けていけば周囲の世界にも少しずつ幸せが溢れてくる実感があった。

 しかし、その記憶は突如深い霧の中に溶けていき、魔法少女としての記憶がなくなると共に世界に溢れていた幸せも霞んでいった。

 だからありすは一つだけ約束を迫ったのだ。

 また同じ結末を辿りたくなかったから。

 この10年間大いに迷い立ち止まったが、ありすは再び前を向いて歩こうとし始めていたのだから。


「約束は絶対守りなさいよ!」

 背中の小さな翼を輝かせ、ありすは飛び出していく。

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