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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第3話 ゆとり魔法少女セイントナース舞う
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夢の癒し手、セイントナース治療開始!(2)

 放課後のチャイムが鳴り終わり、校内には下校する生徒の笑い声や運動部の掛け声、吹奏楽部の練習の音などがいくつも混ざり合い独特の空気が形成されていく。

 そしてそれらの喧騒から無縁である星宮中学校第4視聴覚室、マギカフォースのアジトと化している教室にもいつもの声が響いている。


「シリウス!!いい加減新兵器はまだなの!?」

 マギカサンシャインこと春日井日向がいつものようにシリウスを握り締め問い詰めている。

「ぐぇぁぁあああ。ちゃんと、あるから、とりあえず、その手を離してくれ!」

 息も絶え絶えになったシリウスがフラフラと飛びながらマギカフォース4人から少し離れる。

「うぅむ。武器の方はもう少し時間がかかるが、スーツの方は新しいのが完成した。今から君達の装備を更新するからマギカギアを出して欲しい」

 4人はそれぞれ右手を前に差し出す。すると何もなかったはずの手首にそれぞれ色の違ったブレスレットが現れた。

 シリウスは小さな光の玉を4つ作り出し、それはそれぞれのブレスレットへと飛んで行き、吸い込まれた。

「ドリームに先行配備していた強化型スーツの決定版だ。君達の旧型スーツとドリームのものからフィードバックされたデータを元に多少バランス調整を行っている。旧型スーツと比べれば大分体が軽くなるはずだし、防御フィールドも強固なものになっている」

「デザインは?ドレス風?それともコスプレ系?」

 いつもの病気を出した日向の後ろで海美がやれやれとため息を吐いている。

「日向ちん、夢ちゃんのと同じなんだから絶対違うって分かってて言ってるっしょ?」

 空良がニヤつきながらツッコむ。花代はそんなやり取りを見ながら相変わらずオドオドしている。

「うっさい!シリウスのセンスがないことは十分理解してるわよ。でも万が一ってことがあるじゃない」

「デザインセンスについては善処させてもらうよ……。あと要望があったフォームチェンジについても近いうちに実装できるはずだ」

「フォームチェンジ!?」

 目を輝かせ始めた日向を無視してシリウスはコホンと咳払いして改めて4人を見回した。

「とりあえず、追加武装については供給の目途が立ったわけだ。今後は今まで以上にこの街を守るために頑張って貰いたい。現在、ウラーム帝国残党の動きが活発になりつつあるという報告も入っている。そして新たな敵、ジャーアクが原因と思われる集団昏睡事件も起こっている。激しい戦いになると思うが君達なら乗り越えられるはずだ」

「はい!シリウス先生!ジャーアクってなんですか!!」

 空良が元気良く手を挙げて問いかけた。シリウスはそれに答える。

「ジャーアクとは10年ほど前にこの街を襲ったことがある敵だ。夢世界からの侵略者、夢を喰らう者、悪夢の使者、このように呼ばれていた。ジャーアクは現実世界を悪夢領域というフィールドで汚染しそこから夢世界で洗浄されている人々の魂を捕食する。ジャーアクは一つ目の魔獣で、ちょっと前に戦ったダンテが連れていた四足の魔法障壁を生み出す魔獣はジャーアクの一種だ」

「夢世界?次元回廊みたいな別の空間ってことで良いのかしら?」

 海美が空良に続いて質問した。

「大雑把に言えばそうだ。夢世界は現実世界と位相を別にした世界で、寝ている間に人々の魂が世界魂(ワールドコア)と精神エネルギーをやり取りしたり魂の洗浄を行う場だ。寝ているときに見る夢っていうのは、魂を世界魂(ワールドコア)に接続して巨大な意識のプールの中で魂を洗い流すときに逆流する世界中の意識の飛沫なんだ」

「なるほど、まったくわからないわ」

「それじゃあ、寝ないと体に悪いっていうのは魂を洗えないからってことなの、かな……?」

 腕組みして唸っている日向をよそに花代がシリウスに問う。

「そうだね、医学的見地以外に精神エネルギー的な見地から見ても寝不足は魂を淀ませる原因だ。君達もしっかり睡眠はとるんだぞ」

「それでもそのジャーアクとかいうのに夜中寝てる間に襲われたら手出しできないじゃない」

「その通り、だからジャーアクは危険なんだ。幸い悪夢領域の検出はできるから、見つけ次第突入して戦うという手はずだ。それにまだ相手も力が弱いようで、大量の魂が接続して大きなエネルギーが動く夜中は手出しできないみたいだ。昼間に疲れて転寝している人や病院とかの弱った人が多い場所を攻めて力を付けているみたいだから早めに芽を摘むことができればいいが」

 シリウスの言葉を聴いて日向がドンと胸を叩いた。

「まぁ新しい力を得た私達ならジャーアクだろうが敵じゃないわ。悪鬼や悪魔との戦いで確実に私達は強くなってるわけだし!」

 日向以外の4人は苦笑するしかなかった。

 

「そういえばもうすぐ夏休みだけど、やっぱり長い休みといえば特訓しなきゃでしょ!」

 急に話題を変えて盛り上がりだす日向に海美は辟易としながら答える。

「あら、あなた特訓とかそんな殊勝な思考を持ち合わせていたのね」

「日向ちんなら新しい武器に浮かれてるかと思ってた」

「と、とても意外」

 三人のリアクションに不快感を示しながらも日向は止まらない。

「だってさ、いずれフォームチェンジも出来るようになるのよ!新フォームが用意されてるならやっぱり私達も特訓しなきゃ!新たな敵が来るなら私達も進化するのが当然の流れ。つまりは努力・友情・勝利の黄金方程式よ!」

 ぐっと拳を握り締め天に突き上げる日向。

「また訳の分からないことを言いますわね……。まぁでも、夏休みも近いことですしどこか皆で遊びに行く予定を立てても良いんじゃない?」

「ニャハハ、海行こうよ、海!」

「あ、あんまり日焼けしたくないなぁ」

 ジャーアクの話題などすっかりどこかへ消え去り、夏休みの予定について盛り上がる彼女達の賑やかな声が響くだった。


「本当にこいつら大丈夫かなぁ……」

 不安そうな顔のシリウスのぼやきは姦しい声にかき消された。

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