40歳の魔法少女(3)
「確かに契約したけど30年前よ?それに契約期間はいつまでなのよ?」
「魔法による契約はその魂が消滅するまで有効だ。つまり君が死ぬまで時が来れば魔法少女として戦う義務が生じる」
「お婆ちゃんになってもこの衣装着なきゃならないなんて……。今でもこの姿で人前に出るのは正直キツイし完全に罰ゲームじゃない」
桃美は自身の姿を見返す。確かにコスチュームや魔法具などは30年前と何一つ変わっていない。変わったのは桃美自身だ。
体のラインがハッキリ出るレオタード状のスーツを纏うには二児を出産した桃美の肉体はあまりにもだらしがなかった。
「最近顔に小じわも増えてきたし、お腹だって……」
「大丈夫、かつてと同じように君の周囲には偽装魔法が展開されるから他人に身バレする心配はないさ」
ふっくらとした腹部をなでる桃美に向かって続ける。
「よほど魔力の高い存在でない限りは周囲からは君は中学生程度の年頃の魔法少女としか認識されないはずだ。それに、そもそも人払いの魔法が展開されるだろうし、前のように異次元フィールドでの戦いも多いだろうから心配は無用」
「それでもねぇ……」
決心が付かないまま桃美はあることを思い出した。
「今の魔法少女はどうしたのよ。あれ私の娘もやってるはずなんだけど、それがいるんだからわざわざ私が出ていく必要はないじゃない」
「マギカフォースのことか……実はあれは同じ魔法少女部門の後輩の肝入りで始まった計画なんだけど、去年まではうまく働いていて特に問題はなかったんだ。というか上手い事実績を上げまくって調子にノリやがって……」
どす黒いオーラが吹き出しながらトライガーはまくし立てる。
「先輩の魔法少女論は古臭い骨董品だとかぬかした挙句、もう僕一人で魔法少女部門やっていけますから先輩は隠居でもどうぞ、だとおおおおおお!!!!」
「妖精の世界も夢がないわねぇ」
ファンシーマスコットたちも出世欲をギラつかせているという知りたくもない情報を得て辟易とした表情を浮かべる桃美。
「だけど最近になってヘイトレギオンとして敵勢力が集結した結果やつの計画は苦戦を強いられている。そしていよいよスターランドとその表裏存在にある星宮市にも影響が現れはじめたから別プランとしての魔法少女を投入することとなった、つまりそれが君だ」
「別のチームとして娘たちと協力すればいいのね」
「……ちょっと確認したことがあるんだけどいいかな」
何かに引っかかるような雰囲気を出しつつトライガーは尋ねた。
「娘がどうのっていってるけど、まさか君の娘は今の魔法少女なのかい?」
「2ヶ月ぐらい前からかな。確証はなかったけど久しぶりに魔力の感覚を思い出したから娘の雰囲気からして確実だと思う」
「……ややこしいことになってきたぞ」
青ざめたトライガーは離れて後ろを向きブツブツ独り言を言っている。
「(あのアホはなんで身辺調査を密にやらんのだ!桃美を使ってやつの魔法少女計画をぶっ潰して鼻っ柱をへし折るプランだというのに……)」
「とりあえずマギカフォースとは別チームだから一応は協調しつつも不干渉路線でいこうか、……ハハハ」
そう言って振り返り、力なく笑うトライガーに向かって桃美は決意を持って答えた。
「トラちゃんもなんだか大変そうだし、娘の助けになるかもしれないんなら魔法少女またやっていいよ」
こうして桃美は40歳にしてまたもや人々の笑顔を取り戻す戦いへ舞い戻ることとなった。