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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第2話 社畜から魔法少女へ、スピリットアスリーテス再誕
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スターランドにて

 壁に設置された大量のモニターにはズラズラと数値と何らかの情報が映し出されていた。

 その部屋の中央でそれらを眺めていた白衣の男がコーヒーを啜る。

「発注していた装備の進捗はいかがですか?」

 扉が開く気配を感じた直後、男は背後からかけられた声に振り向く。そこには頭部が狼のソレであること以外はどこかの軍人のような詰襟の制服を着た男がいた。

「シリウス君か。スーツの方は人数分出来上がっておるよ。武器はまだ一部調整が遅れてるがもうすぐって所だな。流石に輝き属性をインストールするのには骨が折れた」

 頭部がチンパンジーのソレである白衣の男がコーヒーをデスクに置きながら答えた。

「なるべく早く頼みますよ。連中からの催促がしつこい。まったく、もう少し成長の欠片を見せてくれればここまで手が掛からなかったはずなんですが」

 辟易した様子で狼男が肩をすくませる。

「あと、追加で要望があった外付けのフォームチェンジギアについてもなんとかなりそうではあるよ。今回はサンプルの魔力データが全部こっちにあるからそれに合わせてオーダーメイドっていう色合いが強いけど、これが成功すれば当初の予定通り汎用的な拡張装備にできるんじゃないかな」

 ここはスターランドの王立魔科学研究所。最新技術である魔科学の研究とそれを応用した様々なマジックアイテムの開発が日夜行われている。現在はシリウス主導の下のマギカフォースプロジェクトのために全設備フル稼働で新武装の開発が進められていた。

「頼みますよオリバー博士。旧態依然とした魔法少女システムを打ち砕くためにもこのプロジェクトは絶対に成功させなければならないんですから」

 シリウスはそう言ってチンパンジー頭の研究者と握手を交わし研究室を後にした。

「あとは姫をなんとか説得して追加予算の承認をとれればマギカフォースシステムの量産化も夢ではないぞ。あのオッサン共のカビが生えたような魔法少女の概念をぶち壊す時だ」

 研究所の廊下にシリウスの独り言が響く。




*  *  *



 スターランド王城、その一室を訪ねる男がいた。部屋の壁には『健全なる精神を宿し健全なる身体を持つ青少年振興課』と書かれた札が掛かっていた。

「失礼するよ」

「あらぁ、トライガーちゃん。今日はこっちに戻ってきてたの?」

 黒豹の頭を持つサラリーマン風スーツ姿の男が入ってきた男に気づき書類整理の手を止めた。

「この前の後始末についてそちらに任せきりになってしまったからその礼をしにな。本当なら我々軍部が動く案件だったんだが、そちらで早々に事態を収拾に向かわせているようで」

 虎の顔をした軍人のような格好の男が答える。

「なに水臭いこと言ってるのよ。私とトライガーちゃんの間柄じゃない♪」

「スピネルが軍部を抜けた時は少々驚いたが、君はやはり保全部のほうが性にあってたようだ。君が育てた魔法少女はやはり真っ直ぐで力強かった。それに今回の件のフォローもかなりスムーズに行ってるようじゃないか。あの会社、結局他社に売却という形で大きな混乱なく収まったと聞いたが」

 スターランドの魔法少女運用部門は大まかに二種類あり、スターランドや星宮市への直接的な攻撃に対応するのは軍部、スターランドや星宮市の市民生活へ間接的に悪影響を及ぼすような攻撃へ対応するのが保全部である。保全部では精神エネルギーの管理、愛情や友情などのポジティブな感情の推進、夢世界での魂の洗浄などが主な業務であり、軍部が動き難い変則的な攻撃手段でスターランドと星宮市の繋がりを汚染してくる相手に対応する魔法少女を担当することが多い。

 スピネルの担当していたスピリットアスリーテスは精神エネルギーの守護者として、「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」を体現したスポーツ少女を集めた魔法少女チームとして運用された経緯があった。

「伝説の魔法少女を導いた歴戦の軍人様にそんなこと言われちゃうとむず痒いわよ」

 スピネルが体をくねらせて身悶えする。そして急に声音が変えトライガーに向き直った。

「それに、後始末って言っても私達は殆ど何もしてないわ。全てはあの会社の親会社、山三物産がすぐに裏で動いてたみたい。ダークヘイターの本拠地も恐らくこの会社だと思われるわ」

「……なるほど、やはり山三物産か。あそこの持つ影響力はかなり大きい。こちらからあまり下手な介入はできないということか」

 山三物産は星宮市、ひいては県内でも指折りの大企業であり、全国区の知名度で知られる。そして現市長とのパイプも太く、市長が打ち出した星宮市各地の再開発計画などにも深く関わっている。

「そう。そして星宮市のかなり細部まで入り込んでるってことね。悪魔神については20年前の事もあるしそこまで問題はならないと思うけど、市民生活に影響を及ぼしてる部分が多すぎてその洗い出しだけでも一仕事よ」

「山三物産周辺は軍部の方でもチェックをしておくよう働きかけてみるよ。ヘイトレギオン案件としてやればなんとか動かせるだろう」

「それは助かるわ♪それで、今日はもうこれで終わり?暇ならこの後一杯付き合いなさいよ」

 スピネルは書類を片付けながらネクタイを緩めだしている。

「ありがたい誘いだが、この後同盟の最後の一人の担当者に会いに夢調律課を訪ねなきゃならんのでな。」

「夢調律課なら同じ保全部だしすぐそこじゃない、私も付き合うわよ。担当者ってあそこのバロン爺さんでしょ?それなら同盟の顔合わせもかねて一緒に飲めばいいじゃない♪」

「まったく、君のそういうところは変わらんな。まぁ、余り無理強いはしないようにな。担当してた魔法少女のアフターケアが上手くいってなくて復帰できるか少し怪しい状況だそうだから」

「そのときはまた桃美ちゃんに会わせてみれば?『本物』のオーラで目が覚めるかも」

 タイムカードを押しながらスピネルが悪戯っぽく笑いかける

「気軽に言ってくれるなぁ……」

 トライガーはなんともいえない渋い表情をするのであった。

第2話はこれにて終了。

第3話では新たな魔法少女が登場し、前半最後の話となる予定です。

毎日筆を少しでも進めることを目標に頑張りたいと思います。

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