正義と生活を秤に掛けて(6)
「財布よーし、エコバッグよーし、タイムセールまでの時間よーし。トラちゃんタクシー便利すぎるから毎日頼みたいわね」
人払いしたスーパーの裏搬入口に現れたゲートから普段着姿の桃美が現れる。
「流石に僕達も魔法少女使命で犠牲になりがちな日常生活はなるべくフォローしろと命じられてるからね。でもあんまり調子に乗ってなんでも押し付けないでくれよ!」
「分かってるわよ。これからも頼りにしてるわよトラちゃん」
そう言って桃美はトライガーにキスをして、そのままエコバッグへ放り込んだ。
「さぁ、ここからは私の戦場よ!」
桃美は颯爽と買い物籠をつかみスーパーへと踏み込んで行くのだった。
「そういえば、キミはダークヘイターについて知っていたようだけど、もしかしてスピリットアスリーテスも知ってたのか?」
エコバッグから顔を覗かせてぬいぐるみのフリをしているトライガーが問いかけてきた。
「詳しくは知らないけど、魔法が使えないって思ってた時期にもそういう噂はなんとなく耳に入ってきてたからね。あと環ちゃんとは一度だけ会ってるのよ」
桃美は若かりし日に思いを馳せながら微笑んだ。
「短大にいた頃バレーの地区大会のボランティアをやったことがあるのよ。そこでね。たしか環ちゃんは大事な仕事とバレーの大会とで板ばさみになって悩んでたんだっけか。なんとなく雰囲気でこの子魔法少女だなって気づいて話しかけちゃったの」
「そうだ!バレーの地区予選の時だ!!」
ベッドに転がりながら記憶を振り返っていた環が跳ね起きる。
「そうだ!そうだよ、あの時だよ。バレーの試合が始まるって時に悪魔が出たから試合を放り出して行くか仲間に任せるかで迷ってた時だ」
魔法少女の使命と自分の日常との選択。それはまだ少女だった環にとってとても重い選択肢であった。その悩みを抱えて懊悩している最中、不思議な雰囲気のお姉さんに話しかけられたのを思い出した。
「あの時の言葉だ。私、あの時から全然成長できてなかったんだ」
自嘲気味に環は笑った。
「桃美さんにまた救われたんだ。私も少しでも桃美さんみたいな凄い魔法少女にならなくちゃ!!」
すっかり日も暮れて暗くなった道を一杯になったエコバッグを抱えて帰る桃美。
「最後の戦いから後、私は魔法がなくなったって思ってたけど、それでもなんだか魔法に関わるような出来事が回りでいっぱいあった気がする」
「そりゃそうだろ。キミの力はとてつもなく大きいんだ。魔法を使わなくなってたことで行き場をなくした魔力が少しずつ溢れていたはずだ。それが他の魔力を持つものを引き寄せていたんだろう」
トライガーによって人払いされた帰り道を歩きながら桃美はトライガーとの会話を続ける。
「同盟に参加する残りの魔法少女ももしかして昔会ってたりするかな?」
「キミの口ぶりからすれば恐らくその可能性は高いだろうな。会ってみればすぐに分かると思うが」
そんな会話をしながら、非日常な事がすっかり日常になってしまったなぁと桃美は思うのであった。




