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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第2話 社畜から魔法少女へ、スピリットアスリーテス再誕
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正義と生活を秤に掛けて(4)

 「今日の5時にベイサイドの方っていきなりな話ねぇ。もうちょっと事前になんとかならなかったの?」

掃除も一段落してちょっと早めの昼ごはんにしようとしていた桃美はトライガーからの出撃指令を聞いて不満を漏らす。

「すまない、どうもヘイトレギオンの大規模なアジトの場所とそこに悪魔が集結するチャンスがあるという情報を偶然掴んだらしいんだ。このチャンスはみすみす逃したくない」

「とはいっても時間が時間だし、買い物と夕飯の支度はどうすんのよ。流石に何度も急な体調不良だからって出前にするのは避けたいし……」

プリティピーチとしての活動によって現実のスケジュールが狂わされることは間々あった。特に丁度夕飯時の出撃は夕飯が遅れたり手抜きになったりした時の家族への言い訳が非常に面倒なことになるため、桃美は不快感を隠さなかった。

「仕方がないがこれもこの町のためだ。町が平和になれば巡り巡って君達家族も無事平穏に暮らせる訳だし我慢してくれ。それにスーパーまでの行き帰りは僕が転送してあげるから魔法少女の仕事を早く片付ければいいのさ」

「それぐらいは魔法少女の福利厚生としていつもして欲しいんだけどね」

拗ねたように桃美は呟き、昼食の支度を進めていく。




 もうすぐ夏ということもあって夕方5時ではまだ日は高い。眩しい西日と人目から隠れるように倉庫の影にド派手な格好をした二人の姿があった。

「すみません、急に呼びつけてしまって」

スピリットホワイトのコスチュームを身に纏った環がフリフリピンクなコスチュームを着て赤面している桃美を労う。

「ま、まぁ、早く行きましょう。お互いこんな格好で外にいるのはあんまり良くないし……」

どうやら桃美はそのコスチューム姿を誰かに見られたくないようだと環は悟った。

「(うーん、私はこの格好好きなんだけどなぁ)」

スピリットアスリーテスの姿は打ち込んでいたスポーツのユニフォームをベースとしているためとても気に入っていた。そんなことを考えながら、改めて桃美の姿を眺める。時代遅れとはいうが正統派魔法少女という趣があって環は正直に可愛くて良いなぁという感想だった。ただ30歳を越えてからこれを着れるかというとなかなか返答に困ってしまうと思うが。

「とにかく行きましょう!そこのビルなんでしょ?トラちゃんサクっと転送してよ」

「わかった。だがスピネル君の情報から障壁魔法で守られた5階から上へは転送できないようだ。4階の階段前に転送するからそこから上へは障壁を破って強行突入ということになるぞ」

桃美がトライガーというマスコットキャラと会話をしてるを見て環はちょっと羨ましくなった。スピネルはメダルを通して会話をしているが実際のスピネル本体のことは環も他のスピリットアスリーテスのメンバーもかつて見たことがなかったのだ。だから直接目の前で会話して触れ合えるマスコットには少し憧れていたのだ。

「障壁魔法を破った時点で相手に侵入が感知されると思っていいだろう。気をつけるんだぞ」

「向こうから来てくれるなら儲けものよ。一刻も早く悪魔からあの会社を解放しましょ!」

桃美が異常なまでにやる気なのが環には少し気が重かった。

「(社長や幹部が全員悪魔でしたー、なんて他の社員の人にどう説明して解決すりゃいいのよ……。それにそもそも社長達がいなくなったら会社そのものがどうなるかもわからないし……)」

そんな思いとは裏腹にどうやら先輩魔法少女の正義の心はメラメラ燃えているようだ。やる気の先輩の足を引っ張ることは流石に環の中の体育会系の血が拒否しており、今は流れに身を任せるしかなさそうであった。


 転送ゲートを潜るとそこは環の見慣れた会社の階段の前だった。エレベーターはどうも封鎖されているようなので階段で5階へと上り障壁を破りフロアの悪魔の殲滅そして6階へ、というのが今回のプランだ。単なる力押しによる殲滅ではあるが、異次元や異空間ではない現実世界での戦闘であるため大規模な魔法の使用は厳禁である。そこで正面から突入して敵を注意を集めるやり方が打ち漏らしが少ないだろうと踏んだのだ。

「ところで悪魔って初めて見るんだけど、どんな感じなの?」

桃美からの質問に環はちょっと不安になった。

「えーっと、人間の頭をトカゲやカエルみたいにした感じですかね。身体能力が高いんで危なくなったら私に任せて支援をお願いしますね」

「ごめんね、何分邪鬼しか相手にしたことがないから。足手まといにならない程度に頑張るわね。じゃあ行きましょう」

悪魔相手が初見というにも関わらず桃美はずんずん前へと進み、階段を半分駆け足で上っていく。環は桃美があんまり前にでないように釘を刺すべきか少し迷った。スピネルからは桃美の力については余り説明を受けていない。同盟という仲間関係であるため少なからず同等程度の力は有しているとは判断しているが、初めて会った時に覚えたふんわりした少し抜けてるような印象や、今のこの期に及んで悪魔は初見だと告白したような所から少し心配になってきた。

 「これが障壁ね。えいっ」

先頭に立った桃美がピンク色の杖で5階の入り口を覆っていた魔力の壁を軽く小突くと簡単に障壁魔法は崩れ去った。

「流石ぁ。プリティーピーチの力は衰えてなさそうで安心したわ♪」

メダルからスピネルの声が響く。環は魔法分析などの細かな魔法には疎く、先ほど桃美が障壁魔法を破った事の何にスピネルが感心しているのかまったくわからなかった。

 

 魔法障壁を破ったものの、悪魔が集まってくる様子がなかったため階段の傍にある秘書課にまず突入することとなった。

「私が先頭で入りますのでピーチは後ろから付いて来て下さいね」

流石に悪魔相手初見の人間、しかも先輩に先に行かせるわけにもいかず、環は先立って秘書課のドアを開け放ち進入する。秘書課の部署はデスクが壁に沿って配置されており、中央には会議用の長机を二つくっ付けて配置してあった。その長机の回りに秘書達は集まってどうやらティータイムをしていたようだ。

 桃美が続いて入ってきたのを確認してから、秘書達は急に立ち上がりこちらを向いて客を迎えるかのように恭しくお辞儀をした。

「悪魔って、なるほど人間そっくりに化けるのね」

環の隣で暢気な感想を言っている桃美に少し疲労感を感じながらも環は警戒を緩めなかった。

「ようこそいらっしゃいました。お客様、本日はアポイントメントはお取りでしょうか?」

秘書達のリーダー格のような中央に陣取る一人が問いかける。

「悪魔に対してアポは必要ないでしょ!さっさと化けの皮を剥がしなさい!!」

このリーダー格の秘書、いつも他の課の女性社員をいびっていたお局様として有名だったのだ。

「少々社会のルールというものがお分かりになっておられないご様子。社会人としてマナーを叩き込んで上げましょう!」

その声と共に両脇の秘書が飛び掛ってくる。飛び掛りながら秘書達の美貌は醜悪な悪魔のものへと変化していく。

「うぁあぁ!気持ち悪っ!!」

環の隣で桃美が叫びながらピンクの可愛らしい杖で悪魔を迎撃する。虫を追い払うかのような雰囲気で振るわれた杖に触れた途端に悪魔は凄まじい速度で壁へと激突し木っ端微塵となった。

「バカバカ!力の加減しろって言っただろ!流石に悪魔とはいえ、ビルから人間の形をした物が放り出されるのを目撃されたら大事になるぞ!」

慌てたトライガーが桃美へ詰め寄る。

「ご、ごめんなさい、あんまりにも気持ち悪かったからつい」

桃美は苦笑いしながら頭を掻く。その様子を見ながら環は桃美の能力の一端を垣間見て震えていた。

「(この人、本当にめちゃめちゃ凄い力を持っているんじゃ……)」

環も悪魔の一体を迎撃したが、カウンター気味のストレートをお見舞いした悪魔は痙攣して倒れている。一方の桃美が倒した悪魔は壁に埋もれて血と肉片とコンクリ片のモザイクアートと化している。この差はあまりにも歴然であった。

「なっ、何をしている!お前達もかかれ!魔法少女を血祭りにするんだ!!」

プリティーピーチの一撃で悪魔も浮き足立っていた。リーダー格の秘書が叫ぶが誰一人として動こうとしなかった。動けなかったと言うべきか。

「全員悪魔ってことなら遠慮は要らなさそうね。こっちは時間がないのよ!」

桃美が杖を頭上へ掲げる。悪魔達は杖を睨みながら身構えるが、杖の先端のハート型の宝石が輝いた瞬間全ての悪魔の上半身が消滅した。

「なっ!?」

「さあ次の部屋に行きましょう!人の姿をしてるけど悪魔の見分けも付くようになったしこれからはサクサク倒していけるから」

あまりの出来事に驚きを隠せない環をよそに、桃美は意気揚々と部屋を出て行く。

「さすが伝説の魔法少女プリティーピーチ、格が違いすぎて惚れちゃいそう」

メダルからスピネルが呟くのが聞こえる。

「なんなのよ!桃美さんのあの強さは!スピネルはどこまで知ってるのよ!?」

「プリティーピーチ達の戦いはもはや伝説よぉ。スターランド本土も巻き込んだ大規模な事件を解決した魔法少女なんて後にも先にも彼女達だけなんだから。潜った修羅場が違いすぎるわよ」

スピネルの淡々とした言葉だが、逆にそれが桃美の実力を物語っていた。

「とんでもない先輩とチームになってしまったのかもしれない……?」

環は部屋を出て行った桃美を追いかけて走り出した。


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