蘇るスポ根。スピリットアスリーテスGet ready!(3)
「ここがアジトって訳ね」
繁華街の中央通りから3本ほど外れた路地にその雑居ビルはあった。
中心地からいくら外れているとは言え普段の繁華街とは思えぬ静寂の中、マギカフォースの5人は突入の準備を行っていた。
「いいかい、一応人払いの魔法と偽装魔法はビル周囲に展開しているがここは人間世界なんだ。派手に暴れると誰かに見られたり警察に通報されたりして面倒なことになるからなるべく範囲の大きな魔法は使わないように」
「わかったわかったって。ドリームは後ろで見てなさい、今回は私達だけで十分よ」
シリウスの注意をあまり気に留めてない風なサンシャインはドリームを後方に回してビルへと踏み込んでいく。
「それで、敵は最上階でいいんだっけ?」
「そうだ、1階と2階の倉庫はフェイクで3階のダンス教室がアジトになっている。ここまで来たら一気に攻め込むしかないから突入と同時に戦闘が起こってもいいように注意しておくんだ」
マギカフォース達は音を消しながら階段を登っていく。繁華街の喧騒が遠くに聞こえる。
「それじゃあ、私とアクアが飛び込むからスカイとフラワーは援護、ドリームは後方を警戒。いくわよ!」
古ぼけたダンス教室の扉の前でフォーメーションを確認し、サンシャインは思い切り扉を蹴破りエナジーブレードを抜きながら突入する。
「マギカフォース参上!!悪魔共覚悟しなさい!」
そう叫びながら飛び込んだサンシャイン達の前にはサラリーマン風の男女が10人ほど立っており、突入してきた彼女達に気づいて皆こちらを振り向いた。扉の先ははワンフロアーを丸々ぶち抜いた構造の広々としたダンスホールとなっていたが、奥側の鏡張りになっている壁の前にダンスホールには場違いな醜悪な細工が施された石像が鎮座していた。
「ちょっと、どこに悪魔がいるのよシリウス」
「気づかないのか!?こいつら全員悪魔なんだ!!」
彼らの正体をまるで見破れなかったマギカフォースの4人とは対照的に最後列のドリームは彼らの邪悪な魔力を察知して身構えていた。
「やぁやぁ、歓迎するよマギカフォースのお嬢さん方。ウラームの連中から噂はかねがね」
部屋の最奥、石像の正面に立っていた小太りの中年サラリーマン風の男が声を掛けてくる。
「態々君達の方から足を運んでくれるのは好都合だ。若い女の精神エネルギーは極上でね、しかも魔力に満ちているのは最上級の捧げ物となる。我らの神ダイアロット様も喜んでくれるだろう」
いやらしい目つきでマギカフォース達の体を物色しながらニタニタと笑う。
「行け、痛めつけても構わんが殺さんようにな」
その声と共に最後列にいたサラリーマン風の男達4人がこちらに歩き出した。
近づいて来る彼らの姿は見る見るうちに変貌していった。トカゲともカエルとも取れるギョロリとした目、頬まで大きく割れた口には牙を覗かせている。肌の色は茶褐色となり、体は膨れるように筋肉が発達し着ていたスーツが胴体の一部を残して無残に破れていく。
「キッモッ」
先頭を歩く悪魔に向かってスカイが半笑いでエナジーガンを発射する。
バシッ!!
光弾は顔面を正確に捉えるが少し焦げて煙が上がっている程度で悪魔は気にも留めず歩き続ける。
「ぬるい攻撃じゃダメってことね!先手必勝サンシャインクラッシュ!!」
サンシャインが飛び出し煙を上げるながら先頭を歩く悪魔へエナジーブレードを叩き付ける。
眩い閃光を伴った斬撃が悪魔の胴体へと吸い込まれ、閃光と同時に衝撃が走り悪魔が後ろへと後ずさる。
「グギギ、ソレデオワリカ」
斬撃を受けた胴体に残っていたスーツの残骸はビリビリに破れてもはや形を成していなかったが、悪魔の体は斬撃の跡が大きく焦げているだけだった。
「嘘でしょ、サンシャインクラッシュが完全に入ったのに……」
サンシャインはエナジーブレードを構えなおし悪魔から離れるように後ろへ飛び退いた。
「デワ、コンドハコチラノバンダ!」
焦げ付いた悪魔とその隣にいた悪魔が襲い掛かる。
「一人1匹はやるわよ、アクア足引っ張らないでよね!」
「あなた、その様でよくそんな大口叩けるわね。本当に関心しますわ」
サンシャインとアクアが接近する悪魔にそれぞれ向き合う形となった。
ブンッ
襲い掛かる悪魔が振るう爪を掻い潜りアクアは懐に潜り込む。
「ふっ!」
エナジーブレードを腹に向かって一閃し、脇から抜けて悪魔の背中に回りこみけさ切りにする。
斬撃を受けた部分が激しく火花を散らせるが悪魔は怯まず攻め続ける。
「ニャハハ、アクアちん危ないよー。スカイショット!」
エナジーガンのチャージショットがアクアの横手から襲いかかろうとしていた別の悪魔を吹っ飛ばす。
スカイの攻撃を受けた悪魔は弾かれゴロゴロと転がっていくがすぐに起き上がり、今度はスカイへと狙いを定めたように駆け出した。
「ニャハー、怒らしちゃったかな?」
スカイはエナジーブレードを確認しながら撃ち続けた。
「タフすぎんのよこいつ!」
エナジーブレードで斬りつけ、蹴飛ばして悪魔との距離を放しながらサンシャインが叫んだ。
愚痴をこぼしたその一瞬の隙を突いて新手の悪魔が急接近し、鋭い爪で切り裂こうと右手を振りぬいた。
「フラワーシールド!」
バゴッ!
スカイの後ろに待機していたフラワーが絶妙のタイミングで魔力シールドを展開し、悪魔の攻撃は黄色に光る壁に阻まれた。
「サンキュー、フラワー!こんにゃろー!サンシャインクラッシュ!」
サンシャインは目の前の悪魔に必殺技を叩き込み吹っ飛ばすが、息つく暇もなく別の悪魔が飛び掛ってきたためそちらを迎え撃つ。
サンシャインに吹っ飛ばされた悪魔は体勢をすぐに立て直し、後ろで援護を続けるフラワーへ突進した。
「えっ!?嫌っ!」
サンシャインとアクアの援護に集中していたため悪魔の接近を許したフラワーは思わずしゃがみ込んでしまった。
「そのまま立たないでください!」
フラワーの後ろに控えていたドリームが叫んで魔法を放つ。
ギュオッ!という音と共に握りこぶし大の漆黒の魔力弾がフラワーの頭上を通過し、襲い掛かる悪魔の顔面を捉えた。
ドバァッ!
破裂音が響き頭部から胸元までを失った悪魔がオモチャのように転がりながら吹き飛ばされていく。
「こっちも!」
同じくスカイを狙って回り込んできた悪魔に魔法を放ち滅ぼす。
「あ、ありがとうね。ドリーム」
「助かったにゃー」
「お礼なら後でいいです、まだ戦いは終わってません」
二人から感謝の言葉を掛けられるがドリームは杖を構え前の戦闘へ集中した。
そっけない言葉に肩をすくめるスカイとオドオドと此方を見つめるフラワーの姿を視界の隅に捉えて夢の胸はチクリと痛んだ。
前線では今だサンシャインとアクアが悪魔と打ち合っていた。
「しつこい悪魔ですわね!アクアウィップ!!」
悪魔の繰り出す拳が掠めて肩のアーマーを砕くが、怯まずアクアはエナジーブレードの刀身を瞬時に伸ばし振るう。
「お仕置きの時間ね!」
鞭状に伸びた刀身を悪魔の体へ絡みつかせ力を込める。
バシバシバシッ!
青く輝く鞭に絡みつかれた悪魔の体から火花が飛び散り続ける。
「ギギギギィー!!!」
断末魔の叫びを上げて悪魔が膝から崩れ落ちる。
「サンシャイン!」
担当していた悪魔を倒しアクアはサンシャインへと注意を向ける。視線の先には片膝を突いたサンシャインに悪魔がまさに今左手を叩き付けようとしていた。
「舐めんじゃないわよ!!」
サンシャインは転がるように悪魔の足元を抜けてギリギリ死地から逃れる。そして、起き上がるや否や体当たりのごとく飛びつきながら振り向く悪魔の腹部へエナジーブレードを突き立てる。
「殺った!」
悪魔の背中から突き抜けた刀身が激しくスパークする。サンシャインは痙攣する悪魔の体に密着し、エナジーブレードの柄を握り締めて押し込む。
「グガァアアアア!!!」
悪魔が最後の抵抗とばかりに両手でサンシャインを突き飛ばし、エナジーブレードから手を放してよろけた隙を突いて彼女の腹へ前蹴りを繰り出す。
「ぐぇっ!」
咄嗟の反撃をもろに受けてサンシャインはゴロゴロ後転しながら入り口付近の壁へと叩き付けられた。
「ゲッホッゴホッ。ふっ、ふざけたマネしてくれんじゃない!」
咳き込みながらも立ち上がるサンシャインは背中からエナジーブレードの刀身を覗かせて土下座しているように倒れている悪魔を確認する。
「まぁこんなもんね!」
「無様に転がってたのに良く言いますこと」
悪魔からエナジーブレードを引き抜くサンシャインへアクアが近づき残りの悪魔へと身構える。
「しっかし、4匹でこれだからちょっと厳しいわね」
目の前にはまだ無傷の悪魔が8人とその奥の中年サラリーマン風に擬態しているリーダー格の悪魔が此方を向いて立っていた。
「思ったよりもやるようじゃないか。だが遊びもここまでとしようかな」
下品な笑みを湛えたリーダー格の男が悪魔達に指示を出し、悪魔達が殺気を放ちながらマギカフォースを取り囲むように広がっていく。
「逃げようとしても無駄だぞ。既にこのビルには結界が張られているからな」
獲物を前に舌なめずりをするような悪魔達の視線が絡み付いてくる。
「こうなったら気合を入れるしかないわね」
「ど、ど、ど、どうしよう」
「ニャハハ、絶対絶命ってやつ?」
マギカフォース達がそれぞれに覚悟を決めようとしていたその時、サンシャインに蹴破られて開けっ放しになっていた入口から青白い閃光が放たれる。
「なっ、なんだ一体!?」
咄嗟の出来事に悪魔もマギカフォース達も光へ意識を持っていかれた。
「健全なる精神は健全なる肉体に宿る!強き心の守り手スピリットホワイト!」
閃光の中から叫びと共に謎の少女が飛び出し、空中で膝を抱えてクルクルと回転しながらマギカフォース達の前へ着地した。
「我らスピリットアスリーテス!!」
心臓の位置に右手の握りこぶしを当てて背筋を伸ばして直立した少女は悪魔を睨みつける。




