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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第2話 社畜から魔法少女へ、スピリットアスリーテス再誕
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杉田一家の憂鬱な日々

「はぁ……」

杉田隆はため息をつく。

「かーちゃんの顔がチラついて全然集中できない……」

マウスを走らせ開いていた動画サイトを閉じるとベッドへと崩れるように倒れこむ。

「あーもう、全然楽しくないぞ……」

短く揃えた髪の毛ガシガシと掻き毟りゴロゴロとベッドの上を転がる隆。

 母親のあられもない姿を見て以来、ハマっていたアニメの内容もまったくと言って良いほど頭に入ってこなかった。

 あの一件からはや1ヶ月が過ぎようとしており、アニメ魔法少女キュアリーエンジェルも最終局面へと向かって最高潮の盛り上がりのはずだったが隆はまったく楽しめず、逆にあの光景がフラッシュバックしてしまいちょっとしたPTSDへと陥りつつあった。

「早いところ魔法少女物のグッズを処分しないとなぁ」

この間、同じようなことをいつもぼんやり考えていた。

 親にはオタクということは認知されているが、流石に母親の魔法少女コスプレを見て魔法少女物にハマったと思われてしまうと立つ瀬がないと判断していた。しかし処分するには自分の貧乏性がいつも邪魔をしてグダグダと1ヶ月も立ってしまった。

 幸い母親に魔法少女物のグッズについては言及される気配がないためなんとかなっているが、これ以上は自分自身のプライドの問題もあり、あの記憶と共に忘れ去るためどこかで決別する必要があるとは常々思っていた。

「とりあえず今日はもう寝るか……」

明日こそ学校でグッズの引き取り手を捜すかなどと考えながら隆は眠りに付く。



「はぁ……」

杉田夢はため息をつく。

「(お母さんから感じられる雰囲気とあの子の魔力が似ているなんてどう説明すればいいんだろ)」

 頭の両サイドで短く括った髪をピョコピョコ揺らしながら学校の階段を降りて行く夢。

 下校のチャイムが鳴り終わり教室や廊下からは次々と家路を急ぐ子供達の声が賑やかに響いている。

 あの戦い以来、二代目プリティーピーチと名乗る少女とは何度か次元回廊で出会っているが、いつも自身が疑問に思っている母親との繋がりについて彼女に直接問うことができないでいた。

「(お母さんが実は初代プリティーピーチで彼女はその弟子なの?もしかして自分や兄が知らない姉妹が実はいたり?それともあの子はお母さんそのものとか?)」

 そんなことを頭の中でグルグルを考えては思考がショートしてため息を吐く。近頃の夢は謎の魔法少女と母親の関係について考えすぎて地に足が付かない生活を送っていた。

「夢ちゃん大丈夫?私で良ければ相談に乗るよ?今日うちに来る?」

 声を掛けられて初めて、いつの間にか隣に三つ編の少女が並んで歩いてることに夢は気づいた。彼女は夢の同級生の香だ。

「夢ちゃん最近いつもフワフワしてて私本当に心配なの。私で良ければいつでも力になるから、何でも頼ってね!」

 そういって夢の両手をがっしりと握り締めブンブン振る香。

 どうもこの子は自分と話す時の距離感が異様に近いなぁと疑問に思いつつも心配してくれる親友にきちんと事情を話せない自分に罪悪感を抱いていた。

「あはは、大丈夫だよ香ちゃん。ちょっと考え事してただけだから」

 いつもこんな風に返しては心配そうな香を黙らせてしまっていた。

 この1ヶ月ほど、あの魔法少女の登場により戦況は非常に好転し、かつては強力だった悪鬼兵達も最近ではずいぶんと弱体化を起こしていた。それでもマギカフォースの出番はあまりなく、リーダーはいつも不機嫌でこちらに苛立ちをぶつけて来ることがあるので夢は最近出動するのが少し嫌だった。でも出動しないとあの謎の少女のことは分からないし、といった具合で複雑な状況の中を夢は心労を募らせながらも過ごしていた。

「今度こそちゃんとお話を聞きたいな……」

 隣を歩く香に聞こえないような小さな呟きが放課後の喧騒の中に消えていった。



「はぁ……」

 杉田桃美はため息をつく。

 桃美にとってこの1ヶ月ほどの期間は嵐のように過ぎ去っていった。

 特に魔法少女として再び戦った日からの1週間は多忙を極めた。

 二代目プリティーピーチ登場の報はウラーム帝国残党およびヘイトレギオンに知れ渡り、相手側も浮き足立ったもののこちらの出鼻をくじくためか一気呵成に侵略の手を進めてきた。

 そのため、ほぼ毎日のように魔法少女へと変身することを強いられ、主婦業との両立が困難になってくるほどであった。

 酷い日だと早朝に叩き起こされたかと思えば、その日の昼下がりに一息休憩をとろうとした際にも再び出動ということもあった。ちなみにその日の桃美は堪忍袋の緒がブチ切れてしまい、変身して到着と同時に必殺技を叩き込み瞬時に全員消滅させるという悪鬼兵もドン引きの所業をやるほどだった。

 このように敵の攻勢は一時的に桃美を疲弊させたものの、攻勢を強めれば強めるほどプリティーピーチは雑に、そして無慈悲に戦うようになり、プリティーピーチと当たった悪鬼兵の部隊の生還率ほぼ0%という惨状の前にウラーム帝国残党は見る見るうちに弱体化していった。

 特に前線指揮官である鬼兵長の損耗率が激しく、大規模作戦の実施も困難になるような状況へと追い込まれていたのだ。

 こうして最近ではなんとか出動回数も落ち着き主婦業との両立にも余裕が生まれていた。

 しかし魔法少女になった日に息子に姿を見られてしまったこと、そして娘が疑惑の眼差しを投げかけてくることによる影響は今だ健在であり、巨大な爆弾を抱えた杉田家の生活はどこかぎこちなく、桃美は神経をすり減らしていくのだった。

「魔法少女ってこんなに大変だったっけ?昔はもっと自由でノンビリしてた気がするんだけど……」

 1ヶ月前の自分の軽はずみな決断を呪いたくなる桃美であった。



「はぁ……」

杉田学はため息をつく。

 職場の時計は午後6時を回ったところだ。どうにも今日は残業の構えなので少し休憩を取ろうと席を立つ。

 平凡な市役所勤めの公務員である学には杉田家に起こっている異変の根元は分からなかった。それでも家族の空気が少しぎこちないことぐらいは分かっていた。

 だからと言って何かできるわけでもないため、学は仕事を優先することにしたのだ。

 彼は家族を信頼しており、最後にはきっと良い方に転がると信じているのだ。

「大黒柱たる者、揺るがないことが大事だよな」

 自販機の前でそんなことを呟きながら残りの仕事について考えを巡らせていた。

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