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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第1話 魔法熟女?プリティーピーチ復活
14/58

かーちゃん実は魔法少女だったの……(2)

 夕暮れの住宅地の中、杉田隆は帰路を急いでいた。

 部活も早めに終わり、今彼の頭の中は動画サイトで配信されている深夜アニメの最新話のことでいっぱいだった。

「(キュアエン早く見てー!!あのラストシーンやばすぎだったしマジどうなっちゃうんだ!?)」

 キュアエンとは魔法少女キュアリーエンジェルの略称であり、4月から始まった深夜アニメの一つだった。放送開始から2ヶ月がたち物語も架橋へと突入してこのアニメの人気は日に日に高まっている。

 隆は所謂クソオタクであり、最近は魔法少女物にドハマりしていた。

 頭の中をアニメの事でいっぱいにして家路を急ぐ隆には自宅周辺で人っ子一人どころか車1台ともすれ違わないことに何も不信感を抱くことはなかった。



「やっと帰ってこれた……」

 転送ゲートから出てきた桃美は肉体以上に精神的な疲労を感じていた。

「お疲れ様。久しぶりの魔法少女はどうだったかな?」

「どうって、魔法についてはなんか体が覚えてるからどうにかなったけど、この格好はまだ全然慣れないわよ……」

 鏡に映ったバカバカしい衣装を着ている自分を見て苦笑する桃美。

「昔はそんな不満一つも言わなかったのになぁ。一応そのスーツは呪文と紐つけられてるから変更することはできないからね」

「まぁいいわ。夕飯の支度もあるし戻りますか……」

 トライガーの言葉に落胆しながら桃美は変身を解こうとプリティーコアをかざそうとした。

「ただいまー!」

 突如玄関から誰かが帰宅した声が聞こえる。

「何!?そんな馬鹿な!?」

 トライガーが驚愕の声を上げる。

「えっ!?ちょっ!!」

 意図していなかった息子の帰宅にパニックに陥る桃美。

「どうしよ!?どうしよ!?」

「は、早く変身を!」

 二人してうろたえている内に玄関から上がった足音は二人がいるリビングへと近づいてくる。

「かーちゃんいるのー?」

 リビングの扉が開け放たれる。


 リビングに母親はいた。ピンク色のぴっちりした服にフリフリのミニスカート、手や頭に飾りを付けたトチ狂った姿の母親が確かにいた。

 それはキュアリーエンジェルに似ているなぁと一瞬隆の脳裏をよぎった。

「……お、おかえり」

 ド派手な杖と猫のようなぬいぐるみを抱きかかえた母親は顔を引きつらせて片言のような返事をした。

「…………」

 それは一瞬であったが両者にとって非常に長い沈黙に感じられた。

「……えっと、それはなんなの?」

 隆が声を振り絞る。

「実は、母さん、魔法少女だったの……」

 完全にテンパった桃美も何を言っているのかよく分からず口を滑らせた。

「……………」

 またも両者を沈黙が支配する。

「ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 沈黙を破り隆が怪鳥のような声を上げる。

「ちょあああああああ、コ、コスプレとかマジ勘弁して!しかもよりによって魔法少女とかマジ勘弁してよかーちゃん!年考えてよ!マジ意味わかんねーよ、マジヤベーよ。とととと、とにかく!俺は何も見てないから!俺は何もみてないからね!だからかーちゃんもそんな格好二度と家でやんないでよ!夢が見たら泣くと思うからな!」

 そう一息に叫んで隆はリビングの扉を思い切り閉めてその場から逃げ去った。

 隆が階段を駆け上がり自室へ飛び込む音がリビングにも響く。


「バレた!?バレちゃった!?トラちゃんヤバいんじゃないこれ!?」

 弾かれたようにトライガーへと問い詰める桃美。

「そんな馬鹿な……変身している君に強力な偽装魔法が掛かっていることはマギカフォースで確認済みなのに……。それにそもそもこの家周辺には人払いの魔法も展開されているはずなのに……」

 愕然としているトライガーだった。

「……一応、その姿を見られているが彼もコスプレか何かと勘違いして魔法については気づいている様子がなかったから暫くは経過を観察しよう。我々も君の偽装魔法が破られたことについて調査をしないといけないしね。とにかく今は変身を解こう」

 トライガーの提案に賛成してさっさと変身を解除する桃美。


「……こうなっちゃってもうアレなんだけど、魔法少女の正体がバレた時のペナルティってあったっけ?昔は正体を明かしてはいけないって言われてただけだったはずだけど」

 なんとか落ち着きを取り戻して疑問を口にする。

「正体がバレても活動に支障が出なければ特に問題はないよ。ただ、正体を知ってしまった人間については監視対象になるし、最悪の場合記憶改竄やら関係の放棄を迫ったりしないといけないから面倒が増えるってだけだけど」

 あっさりと説明するトライガー。

「じゃあ同じ魔法少女の夢には私のこと話しても問題はないのね?」

「いや、それはちょっと問題がある。そもそも魔法少女が自ら正体を明かすことは推奨されてないし、彼女には別の契約している妖精がいるから難しい。他の契約関係にある魔法少女へ正体や目的を明かすことは任務の漏洩などの危険性から禁じられてる。それは妖精も同じだから、シリウスから君のことが彼女達にバレることもないだろう」

「でも私は夢のこと知ってるわよ?」

「本来はあまり好ましいことではないんだけど、それは君が自分の力で知りえた情報だし、状況が状況だから特例で認められたんだ。そもそも、ちゃんとしていれば夢ちゃんのような契約が生きている魔法少女の娘が別契約で魔法少女になるなんてありえないはずなんだ」

「へぇー」

 なんだかわかったようなわからないような感じであったがとりあえず桃美は返事を返した。


「ただいま」

 そんなことをしているうちに夢が帰ってきてしまった。

「とにかく、夢ちゃんにはあまり悟られないように気をつけてくれよ。面倒ごとは増やしたくないからな」

 そういって掻き消えるトライガー。

 いつもよりも遅い帰宅に本来ならいろいろと問わないといけない状況だが、さっき会ったとも言えず気まずさが先行してどうして良いか混乱してしまっていた。

「お、おかえり……」

 苦笑いをしながらも娘の帰宅を迎える桃美であったが、こちらを見つめ沈黙する娘に冷や汗をかくしかなかった。

「……ただいま」

 そう言って息子同様に自室へ駆け込む娘の背を見送り、桃美はため息を吐くのみだった。


 その日の夕食は杉田家史上もっとも重苦しいものになったのは言うまでもないだろう。

 こうして大いなる力と共に復活を遂げたプリティーピーチこと杉田桃美の穏やかな日常は再び運命の渦に巻き込まれていくのであった。



第1話これにて完結となります。ここまでご愛読ありがとうございます。

大分先までのプロット自体はまとまってはいるのですが執筆時間の捻出が当面の問題になっておりますので更新に時間がかかるやもしれません。

第2話からはなるべく書き溜めてパートごとにまとめて更新できるよう努力できればと思います。

ここまでの感想などもあればよろしくお願いいたします。

では第2話をご期待ください。

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