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かーちゃん実は魔法少女だったの……  作者: 海原虚無太郎
第1話 魔法熟女?プリティーピーチ復活
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最終回から続く物語(4)

 桃美が忘れていた力と向き合い、決意を新たに一歩踏み出そうとしたその瞬間であった。

「こんな馬鹿なことがありえるかああああああああ!!!!!!!!」

ダンテの鬼気迫る叫びに桃美も驚いて出鼻をくじかれる。後ろのマギカフォース達もその怒声でようやく意識を戦いへと戻した。


「なにがプリティーピーチだとおおおおお!!!30年前の忌まわしき存在がこんな小娘なわけがあるかあああ!!ババアがあんな格好できるわけねーだろおおおおおおおお!!」

ダンテはもはや半狂乱で喚き散らす。

「さては貴様二代目だな!?初代のババアからその杖を渡されて良い気になってるんだろうがそれもここまでだっ!!!貴様の死体を手土産に初代のババアも一緒に血祭りにしてくれるわあああああああ!!!!!!」

 ダンテは何か強い言葉を言っていなければ精神を安定させることはできなかった。仮に本当のプリティーピーチが目の前にいるのであればウラーム帝国残党、ひいてはヘイトレギオンの悲惨な末路を認めざるを得なかった。残党を率いる若き新帝王はかつての帝王に匹敵する力を持っているという話らしいが、噂ではそれには遠く及ばないというのがもっぱらだ。そんな我々の軍が全軍を率いても勝てそうにない相手が目の前にいるなどと絶対に認めてはいけなかった。

 口から次々と虚勢に発しているうちにダンテの精神はなんとか落ち着きを取り戻し始めた。そして目の前の脅威に対して立ち向かう覚悟も出てきた。

 ダンテは鬼兵長の中では接近戦において屈指の実力者であった。魔力をこめた爪による一撃は生半可な魔力障壁を紙の様に切り裂き、以前の戦いではマギカフラワーの必殺技を破り、マギカフォースのプロテクターを破壊したこともあった。その過去の経験が自信を取り戻させ、怒りと戦意を蘇らせてくれた。

「先にあの世でババアを待っているんだなああああああっ!!!!!!!」

全身の魔力を爆発させてダンテはプリティーピーチへと突進する。


「トラちゃん、やっぱり最後は必殺技で決めるべきよね?」

 先ほどからダンテの罵詈雑言を黙って聞いていた桃美はトライガーへ静かに訊ねる。声色は驚くほどに落ち着いているが全身から黒いオーラが噴出しているようにトライガーは思えた。それに引きつり気味に微笑みをたたえているがこめかみ辺りに青筋を浮かせている。

「……そうだね、君にまかせるよ」

 とりあえず桃美を刺激しないよう無難に答えるトライガー。

 そうこうしている内にダンテがトドメの禁句と共に突進してくるのを捉えた。

「(あー、アイツろくな死に方しないな……)」

ダンテの末路に同情するしかなかった。


 魔力を振り絞り限界を超えた早さで桃美へ肉薄するダンテ。2メートルを優に越える大男と小柄な魔法少女との体格差は圧倒的であった。ありったけの魔力を込めて巨大化した破壊の爪を携えた右腕を振りかぶりプリティーピーチを間合いに捉えた。

「(殺った!!!)」

 完全に防御する体勢になく、若干顔を引きつらせているように見えたプリティーピーチの姿を前にダンテは勝利を確信し告死の一撃を振り下ろす。

「危ないっ!!」

 後ろのマギカフォース達から悲鳴が飛ぶ。彼女達は次の瞬間に起こるだろう悲惨な光景を予期して目を背けたり、間に合わないと分かりつつも防御魔法を唱えようとしたりしていた。ただ一人マギカドリームだけがプリティーピーチの後姿から目を逸らさずいた。


バギィッ!!!

 何か硬いもの同士がぶつかり合うような激しい音が響く。

 ダンテ渾身の一撃はプリティーピーチから20センチほど離れた中空で桃色の光壁に阻まれている。

「間に合ったの!?フラワー!?」「わ、私じゃない……」

マギカフォース達は目の前の光景をまだ飲み込めていないようだった。

「そっ、そんなっ……馬鹿なっ……」

 確信した勝利の希望がただの願望に過ぎなかったことに気づいてしまったダンテは力なく後ずさる。巨体を誇るはずのダンテがプリティーピーチの前でとても小さく見えた。

 その場から一目散に逃げたかったダンテであったが、いつの間にか体を幾筋もの光の紐によって絡め取られ身動きが取れなくなっていた。そしてその光が伸びてきた元がプリティーピーチの腕輪ということに気づき絶望へと沈むこととなる。

 一歩一歩ダンテへと近づいてくる可憐な少女。ダンテの前で立ち止まり、杖をバトンのごとく回転させながら頭上へと掲げる。同時にプリティーコアへ膨大な魔力が集まっていく。

「さよならっ」

 ダンテが最後に見た光景はプリティーピーチの天使のごとき微笑であった。


「さよならっ」

 そう発して杖を振り下ろす桃美。顔は笑っているが目が完全に笑っていない。


ゴシュッ!!

 鈍い音と共に杖がダンテの脳天へめり込む。そしてダンテの頭部に没入したプリティーコアから最大の輝きが溢れる。

「プリティィィィィフラアアアアアアアッシュ!!!」

 プリティーピーチの叫び声と共にダンテを中心に強烈な魔力が炸裂し桃色の閃光が広がる。

 閃光の中心でダンテの存在は塵一つ残さず消滅した。そして杖から発せられた光の津波はダンテの戦いを遠巻きに見守っていた悪鬼兵の残党を瞬時に飲み込み、ダンテ同様存在を消し去っていく。

 ビリビリとした余波と共に閃光は収まり、その場にはプリティーピーチと傍に佇むぬいぐるみの姿しかなかった。


「ちょっとやりすぎちゃったかしら?」

 何やらスッキリしたような顔で桃美がはにかむ。彼女の後方ではマギカフォースの4人が呆然とし、シリウスが青ざめていた。そしてマギカドリームだけはプリティーピーチの魔力の輝きに感動しっぱなしだった。

「(あんな魔法を私もつかえるようになれるかな……?)」

 羨望も入り混じった眼差しで見つめ続ける夢であった。




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