最終回から続く物語(2)
このあたりから桃美とプリティーピーチの2つの姿が見る者によってバラバラに映し出されるため、
桃美=魔法熟女の姿
プリティーピーチ=魔法少女の姿
という風に解釈していただければ幸いです。
「プリティーピーチ!ただいま参上!!」
悪鬼達と魔法少女達のちょうど中間当たりに突如現れた謎の魔法少女。彼女にその場全員の視線が注がれる。
「はっ、恥ずかしいぃ……」
後ろの少女たちをチラチラ横目にしながら消え入るような声で桃美がぼやく。
「あんな若い子達にこんな姿をガン見されてるし!なんなのよあの子達の足の細さは!スタイルだって違いすぎるじゃない!」
だらしなくたるんだお腹、少したれ気味の胸、油断しきった太腿、自らの姿を省みて桃美は死にたくなった。桃美の太腿と比べればマギカフォースの少女達のものは細枝と言えるだろう。
「だから皆には君が中学生にしか見えてないんだって!とにかく、彼女達に何か声をかけてあげるんだ。君だって娘に後ろから撃たれたくはないだろ」
赤面しっぱなしの桃美にトライガーは小声で返答する。桃美はぎこちない笑顔を作りなんとか彼女達へ振り向く。
「あなた達もう大丈夫よ。あとは私が何とかするから安心してて」
振り向き様にこちらへ声をかけてきた見知らぬ少女にマギカフォースの四人は息を呑んだ。
プリティーピーチと名乗った少女の顔立ちは非常に整っており、どこぞのアイドルなど足元にも及ばない超絶美少女と言って良かった。しかし次の瞬間には外観におけるある共通の強い感想のほうが優先して口から出てしまう。
「なんですの?あのダサい格好」「聖子ちゃんカットって言うんだっけ?初めて見たにゃー」「さ、流石に古いと思います」
口々に外観の古臭さを指摘する彼女達であったがリーダーだけは違った。
「可愛いコスチュームいいなぁ……」「「「えっ!?」」」
「あれこそ私の憧れのTHE魔法少女そのものじゃないの!シリウス!あの子は一体何者なのよ!」
青ざめたような雰囲気を出すシリウスにサンシャインは問い詰める。
「マジかよ……マジかよ……」
シリウスはうわ言のように繰り返しながら呆然としているだけだった。
「(あのオバさんがマジでプリティーピーチなのかよ!先輩、マジで30年前の魔法少女引っ張りだしてきたとか頭おかしいんじゃねーのか!)」
スターランドの妖精であるトライガーとシリウスはプリティーコア由来の偽装魔法の対象から除外されているため桃美の姿を認識できている。そのためプリティーピーチと名乗った素っ頓狂な格好をした熟女とその横に浮く自分の先輩を確認してシリウスは狼狽しっぱなしだった。
「(マギカフォースの作戦行動については僕に一任されているはずだから先輩たちは完全に別の指令で出張ってきたってことだろ?あの老害何出しゃばってきてんだ!)」
とにかくこの場は彼女らの出方を伺おうと決めたシリウスは言葉を濁らせながらもマギカフォース達に説明する。
「あれは一応スターランドと契約している魔法少女だ。今は彼女に任せて僕達は体勢を立て直そう」
シリウスに問い詰めてくるマギカフォースの四人とプリティーピーチの後ろ姿から片時も視線を逸らさないドリーム。
「詳しいことは魔法少女とスターランド間の契約で言うことはできないんだ。それは君達についても同じだから勘弁してくれ」
四人をなだめながらもシリウスの思考はフル回転していた。
「(もしあれが本当に本当の伝説の魔法少女なら僕の手柄はどうなるんだ!?なんとかして次の一手を考えないと……)」
シリウスは桃美の姿を食い入るように見つめる。
「ふざけるなぁ!!!」
ダンテの怒号が轟く。シリウスは「そうだふざけるな!」と敵ながら万雷の拍手をもって称賛したい気分であった。
「いきなり現れてゴチャゴチャと!貴様のような小娘がプリティーピーチなわけがあるか!!しゃらくさい小娘を嬲り殺しにしろっ!!」
突如現れた魔法少女に勝利の瞬間を邪魔されたダンテは激昂し悪鬼兵を全軍突撃させる。
黒い津波のごとく大軍が押し寄せてくる。
「ちょっとトラちゃん!どうやって戦うのよ!」
敵の突撃を前に桃美は焦りながらトライガーに訊ねる。
「昔と何も変わっていない。君が握ってるその杖と自分の力を思い出すんだ!」
「もうどうなっても知らないんだからっ!!」
及び腰になりながらも桃美は両手で握っているピンクと白のストライプ模様のド派手な杖を下方から切り上げ気味に横なぎにする。
シャララララララーン♪
間の抜けた音と共に杖が振りぬかれる。杖の先端に取り付けられたプリティーコアからファンシーなハートのエフェクトを撒き散らしながらピンク色の極太の光線が撃ち出され、杖の軌跡を辿ってその先の押し寄せる悪鬼兵の群れをなぎ払っていく。
桃色の一閃の後、光の濁流に飲み込まれた悪鬼兵達が瞬時に光の粒子となって蒸発していく。
「…ッ!!」
杖が振るわれる瞬間、ダンテは言葉に出来ない悪寒に襲われとっさに障魔獣をありったけ展開させていた。桃色の閃光はダンテを直撃しなかったどころか、近くを掠める程度だったにも関わらず余波によって次々と障魔獣が破裂していく様に愕然とせざるを得なかった。
桃色の暴風が吹きぬけた後には全軍の半数以上が瞬間蒸発し完全に恐慌状態に陥った悪鬼兵達と障魔獣の死骸の山の前で立ち尽くすダンテの姿が残されていた。




