幼馴染のヒミツ4
「答えは、二人だ!」
オレの答えにも、ポストマンは眉一つ動かさなかった。手に汗がにじむ。
「ほう――正解だ」
「焦ったぁ、まったく、正解ならそれらしいリアクションしてくれよ!」
「難しい問題だと思ったんだがな。まあ一応、理由も聞いておこう。もちろん、ただのカンであっても正解を取り消しはしないが」
「買収するのは、審査員じゃなくてオーディションを受ける残りの二人なんだ」
つまり、金の力でオーディションを辞退させる。これが一番確実で最少人数になるやり方だ。現実ではまず不可能な方法だけど、ナゾナゾならこれでいいはずだ。
「むう、パーフェクトだ。じゃあ、手紙をどうぞ」
オレは小人から手紙をひったくると、慌てて封を切った。
「……やっぱり」
それは、まちがいなく透からの手紙だった。
見慣れた丸い文字が、ポストカードにびっしりと綴られている。
『九郎ちゃんへ、
ボクは、いま人体模型の付喪神に捕まってどこかの地下室に閉じ込められています。運良くポストマンに出会えたので手紙をあずけることにしました。
九郎ちゃんが、うまくナゾナゾを解いてくれることを祈ります。あっ、でもこれを読んでるってことは、無事に届いたってことなんだよね。
さすがは九郎ちゃん。ボクのご主人様だ。
ええと、ボクがいきなりいなくなって心配してますか?
でも大丈夫だよ。ひどい目には合わされていないから。
それよりも、もうそろそろ九郎ちゃんはボクの正体に気づいた頃だよね。
こんな日がいつか来るってことは覚悟してたつもりだけど、やっぱりちょっと怖い。そして、かなり淋しい、かな。
最初にあった日の事を、キミは覚えていないはずです。
キミったら、203号室に入ってくるなりベッドにうずくまってぜんぜん動かなくなっちゃうんだもん。寮生たちの噂でご両親の事故のことはすぐにわかったけど、一時はどうなることかと思ったよ。
そこで、お節介だとは思ったんだけど九郎ちゃんの記憶をいじらせてもらったんだ。
家族を亡くしたのはボクで、キミはそんなボクの面倒をみてくれる幼馴染だってね。
今から考えると、キミには申し訳ない事をしたと思う。ボクは、九郎ちゃんがご両親の死とちゃんと向き合う機会を奪っちゃったのかもしれない。
でも、それから日を追うごとにキミが元気になって笑顔になっていくのが嬉しかった。ううん、キミのためだなんてのは言い訳だね。ボクはキミとの生活するのが楽しかった。
だから、九郎ちゃんに正体を明かすことができなかったんだ。
もう気がついていると思うけど、ボクは人間じゃない。学園七不思議のその66『緑水寮に潜む座敷わらし』です。隠していてゴメン。黙っていてゴメンなさい。
あと、ボクを人質に付喪神から封印帳を制覇しろって脅されているんだよね。
でもそんなわけだから、心配はいらないです。助けてもらう必要もありません。ボクも付喪神と同じ魑魅魍魎だから。
それに封印帳が制覇されて聖玉が復活すると、理事長との契約で封印されていた鬼神が復活してしまいます。付喪神は、どうやら鬼神を復活させてこの世界を魑魅魍魎のものにしようとしているみたい。
でも、ボクはちょっとイヤかな。
ボクは魑魅魍魎の仲間だけど、キミと過ごしたこの世界が変わってしまうと思うと淋しくてなりません。
だから是非、封印帳の残りは燃やしてください。
ボクの机の引き出しにしまってあります。ごめんなさい。自分が座敷わらしだとバレるのがイヤで、こっそり切り取って隠しておいたんだ。
くれぐれも、助けになんか来ないでね。こうして囚われの身になったのも、キミを騙したバチがあたったんだと思うから。
てゆうか、ボクはキミに、妖怪に戻ったこの姿を見られるのは絶対にイヤです。九郎ちゃんの記憶の中では、いつまでも可愛い透でいたいんだ。
だから、このままお別れってことにしよう。
いままで、本当にどうもありがとう。
座志木 透
P.S.エロゲのヒロインに実在の女の子の名前を入れるのは止めた方がいいよ。もしバレたら、普通の子ならメッチャ引くと思います。ボクはイヤじゃなかったけどね』
便箋を握る手が、ブルブルと震えた。
「ウソだろ。座敷童子って、んなこと信じられるかよ」
ぐっと唇を噛み締める。
でも本当にそうだろうか?
考えてみれば、おかしいことはいろいろとあったんだ。いくら双子とはいえ妹が兄のフリをして入学なんてできるわけがない。ましてや幼馴染同士が偶然同じ部屋になるっていうのもできすぎている。
そんなありえないことを何の疑いもなく信じ込んでいたのは、やっぱりあいつが座敷童子だから。きっとそれが学園七不思議だったんだろう。
「でもだからって、なんでこのままお別れになるんだ。いつまでも可愛い透でいたいって、何だよそれ、ぜんぜん意味わかんねえし。いつおまえが可愛かったんだよ!」
頭の中を、これまでの透との生活がフラッシュバックする。
一緒に寝て、起きて、ご飯を食べ、学校に行き、弓道部に寄って風呂に入り、たまには勉強もした。
笑った顔、寝ぼけた顔、起こった顔。
可愛いか可愛くないかでいったら、もちろんメチャクチャ可愛い。男として扱うなんて言いながら、ホントは女の子としてバリバリ意識していた。好きか嫌いかと聞かれたら、100対0で大好きだ。
傍らで、ポストマンがボソリと言った。
「手紙を出すかい? 心から繋がっている相手と、どうしても伝えたい気持ちがあれば、相手がどこにいても手紙を届けるよ。今の君には、その資格があるようだ」
そういえば、この緑の小人は伝えたいけど伝えられない気持ちを手紙にして届けてくれるんだったっけ。じゃあ透がどこに監禁されていても、手紙を書けばきっと配達してもらえるんだろう。
でも――
「いや、やめておくよ」
「そうか?」ポストマンは少しだけ怪訝な顔になる。
「オレが伝えたい気持ちは、オレが直接アイツに伝える」
「そうか……そうだな。それがいい」
そういうと、緑の小人は納得したように肯いた。今まで一切の感情を表にしなかったポストマンが少しだけ微笑んだような気がした。
そうだ。
オレは、絶対に透を取り戻す。「助けに来ないで」なんて戯言には耳を貸さない。そもそもこれまでだってアイツの言う事なんか聞いたことなかったし。
だから、アイツに言いたいことはその時に言えばいいんだ。




