表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大きな栗の木の下で

作者: REZ☆

 今日もまた、行かなくちゃいけないんだ。

 小学校からの帰り道、私は一人ため息をついた。向かう先は公園。本当は寄り道は学校で駄目って言われているんだけど仕方がない。

 みのりちゃんはもう来ていた。中央にある、大きな木の下にちょこんと正座している。その周りに散らばるのはすっかり緑から茶色に色を変化させた大きないがぐりたち。

この公園を見つけてみのりちゃんと出会ったのは四月のこと。一年生からずっと仲の良かった友達とけんかして、すぐに家に帰りたくなくて遠回りして帰ろうといつもは通らない道に入った時だった。初めて見る公園の木の下に一人で女の子がいて、一人の下校が寂しくかった私は思わずその子に声をかけた。それから一緒に遊んで、また明日も遊ぼうと約束をした。その日から土日以外は毎日みのりちゃんと遊ぶことになってしまった。それから今までずっと、けんかした子とは話してない。本当は仲直りしてまた一緒に帰りたい。ただ一言ごめんねって言えば済むことなのに、それができないままずるずるとここまで来てしまった。あの子はもうどうして私たちの仲が拗れてしまったのか覚えてないかもしれない。でも学校にいる間は他の友達と一緒にいるから声をかけられないし、放課後は暗くなる時間までずっとみのりちゃんと遊ぶから家に行って謝りに行く時間もない。どうしよう、元に戻れなかったら。このままずうっとけんかしたままなんてそんなのは嫌だ。だから、いい加減けじめをつけてそろそろみのりちゃんに遊ぶのを断らなきゃ。そう思っても、いつも別れる時の「今日は楽しかったね!明日もまた遊ぼうね!」と言うみのりちゃんのきらきらした、私のことが大好きだよって伝わってくる笑顔を見ちゃうと断れない。でも、今日こそ勇気を出さなきゃ。


「今日は楽しかったね!明日もまた遊ぼうね!」

 すっかり暗くなって私が帰る時間になり、みのりちゃんがいつも通り言った。いつもならここで頷くんだけど。

「…えっと、ごめんね。明日は遊べないの」  

 私はそう言った。遂に言った。

 みのりちゃんが笑顔のまま固まった。

「何で⁉何で遊べないの⁉」

 次の瞬間、みのりちゃんが別の人みたいに

がらりと変わった。

「駄目。私と遊ばないなんて許さない。あなたはずっと私と遊ぶの。私のものなの。駄目。絶対駄目。明日も来て」 

それを聞いて私はむっとした。なんて自分勝手なんだろう。私にだって都合があるんだからみのりちゃんだけに構ってられるわけないじゃん。でもうまく言葉が出てこない。腹だけが無性に立ってくる。

 気がづいたら私は辺りに落ちている栗を引っ掴んで、みのりちゃんに投げつけていた。

「みのりちゃんの馬鹿‼嫌い‼大っ嫌い‼私もうみのりちゃんとは遊ばないから‼」

 そう叫んで公園を飛び出した。

 栗のとげで手がちくちくする。それと一緒に、こころもちくちく。私がみのりちゃんに投げた言葉がこだまのように跳ね返ってくる。言っちゃった。止められなかった。家。家に帰りたい。早く。ただそれだけを考えて、冷たい風を切って走った。

 私はただいまも言わずに、階段をどかどかと駆け上がって自分の部屋のベッドに飛び込んだ。

「うぅ……」

 涙が溢れてくる。みのりちゃん。みのりちゃんみのりちゃん。ごめんね。栗、痛かったよね。私、酷いこと言ったよね。ごめんね。ごめんね。うまく言えなくて。傷つける言い方しかできなくて、ごめんね。

私は泣いて、泣いて、泣きじゃくってそのまま寝てしまった。


 ……やっぱりみのりちゃんに謝ろう。目が覚めてからそう思った。かなり気まずいけど、ちゃんと理由を伝えたらわかってくれるはず。こんな気持ちでいるのは嫌だ。このままみのりちゃんとお別れしたくない。あの子と同じことをみのりちゃんにするなんて私ってサイテーだ。みのりちゃんだって、私の友達の一人なんだから。


 次の日の学校帰り。私は公園に行った。

「え……?」

 みのりちゃんはいなかった。それだけだったら昨日あんなこと言っちゃったし当然かとも思ったけどそうじゃない。公園もない。私たちが遊んだ、あの公園が。そこは石と砂だらけの空き地だった。どういうこと?怖くなってきてそこを離れた。家に帰ってもあの空き地が目に焼き付いて離れない。今までみのりちゃんと遊んでいたのは何だったのだろうか。夢?幻?それとも……。

 目を閉じなくてもはっきりと思い出せるみのりちゃんの笑顔。なんとも言えない不気味な気持ちと、自分を好いていてくれた人を傷つけたという苦い後味を残して、五か月間一緒に遊び続けた女の子はどういうわけか私の前からいなくなってしまった。



***



 公園の中央にある大きな栗の木の下で。私は今日もここであの子を待つ――。


「ごめんね遅くなっちゃって。先生に呼ばれてたの」

 いいよ。あなたが来てくれるならそれだけで幸せ。

「寒いなあ。ねぇ、そんな薄い恰好で寒くないの?」

 寒くないよ。あなたがいるから。それだけで私は暖かいの。

 ゆきちゃんは小学六年生。毎日こうして私に会いに、この公園に来てくれる。そして毎日、日が暮れるまで二人で遊ぶ。昨日も、今日も、明日も、明後日も。これから先もずっとゆきちゃんは私と遊んでくれる。そんなゆきちゃんが私は大好きなの。絶対に離したくない大切なお友達。ゆきちゃんも私のことが好きだよ。だってこんなにたくさん私に話しかけてくれるもの。

「今日はね、テストで満点を取ったんだ」

 そうなんだ。すごいね。

「明日は調理実習があるんだ。味噌汁を作るの。楽しみだなぁ」

 そっか。よかったね。でもね、正直学校の話はあんまり興味ないかな。それより早く遊ぼう。今日は何する? もう秋だから栗がいっぱい落ちてるよ? これでおままごとしよう?

「……ねぇ」

 それまで楽しそうに話していたゆきちゃんが急に不機嫌になった。

「ちゃんと話聞いて?」

 もちろん。でも遊びながらも話はできるでしょ?

 私は目の前に栗を並べ始める。大丈夫。ゆきちゃんの機嫌が悪くなるのはここ最近いつものこと。ゆきちゃんは私の事が好きだから、すぐにつまらない話をやめて私と遊んでくれる。

 ほらほらゆきちゃん。この栗でお料理しよう? 周りの草や花もたくさん入れて、私たちだけのスペシャルディナーを作りましょう?

「……もう。しょうがないなぁ」

 そう言ってくれるゆきちゃん、大好き。


 今日もいつもと同じようにユキちゃんはやってきた。でも少し暗い顔。何かあったのかな? でも私と楽しく遊んだらそんなこと、忘れちゃうよね。さぁ、早く私の隣に座って? 今日も楽しく遊ぼうよ?

 私はにっこり笑った。

「……もうやだ」

 え? なあに? ゆきちゃん。そんな下向いたまま小さな声で話されてもわからないよ?

「もういやって言ってるの‼」

 ――コツンッ。

 何かが当たった。痛い。何? 何が起こったの?

 見ると、ユキちゃんが辺りに落ちている栗を拾っていた。座っている私の膝の上にも一つの栗。

「私はもう遊びたくないの‼ いーっつもおままごとばっかり‼ もう6年生なんだよ⁉ こんなことしてらんない‼ 他のお友達とも遊びたいし‼ もういや‼ 飽きた‼ やめる‼」

 コツン。コツン。

 痛たた。痛い。痛いよゆきちゃん。どうしてそんなに怒ってるの? 何でそんなこと言うの? ゆきちゃんは私の事が大好きなはずでしょ? そんな言葉聞きたくないよ。

「もうユキはここに来ないから。ばいばい。みのりちゃんなんか嫌い。大っ嫌い」

 最後にそう言い捨ててゆきちゃんは行ってしまった。残された私と辺りに散らばる栗たち。あちこちがずきずきと痛む。あぁ、嫌われちゃったなぁ――……。

 やっぱりずーっと私に構ってくれる人なんていないのかな。ゆきちゃんも、出会ったのが四月だったから、ここまで結構続いたから、期待してたんだけどな。私の何がいけないんだろ。ただ誰かと一緒にいたいだけなのに。

 こうして一人でいても寂しいだけだ。また新しく遊んでくれるお友達を見つけなきゃ。絶対どこかにいるはずだよ、私とずっと遊んでくれる理想のお友達。早く、この公園が見える人がまた現れないかな。次はどんな子かな。想像し始める私の中に、ゆきちゃんはもういない。


この小説は作者が一年前に某文芸の大会にて「秋」「友情」をテーマに原稿用紙五枚規定で書いたものをリメイクしたものです。※2パターンあったのでつなげました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ