8 おまぬけさん!
さて丑三つ時がやってまいりました。
今回はY県在住のT様のお便りをお送りいたします。
自分の姿に気が付かなかった少年、その正体とは……?
お楽しみに。
いちおう断っておくと、これは小説として書いているので、読まれることを意識して書いている。というわけなのでここは漢字で書けよとかこんな言葉を使わなくていいんじゃないかとか、そういうことを思うかもしれない。ところがあの偉大な、いや偉大な、貨幣に顔が描かれてしまうくらい偉大な人物もこういっている。
「小説はサルにでもわかるように書け」と。
こんな漢字読めなーい、なんてお馬鹿さんの言葉を聞くのはもううんざりなのだ。こちとらわかって書いているんだから辞書で調べればいいじゃないか、なんて投げやりな対応をするわけにもいかなくて、最初から読めるように書くしかない。
で、メタだ。
メタというのは「それを超えている」という意味で、すなわち小説という二次元に生きていて作者の書いたことしかわからないはずの僕たちがいきなり現実だとこうだよねと言い出すような、そういうことだ。
現実に生きているわけだからメタ視点もメタノールもないと言いたいところなんだけど、実際のところもはやメタ視点なんじゃないかと思えるのはもう想くらいだ。それでもメタ視点になりうる。
たとえば学生生活が大幅に変化すれば、それを予想していたようなことがあるとすれば、メタ視点なんじゃないだろうか?
何もラブコメの定番、曲がり角で食パンを加えた女の子とぶつかって恋に落ちるようなものでなくても、そういったような事象はあちらこちらに転がっている。
実際のところぶつかってほれられるほどのいい顔を持っているわけでもなく、さりとて一瞬で何かをアピールする方法がそれ以外に何かあるのかといわれるともう思いつかない。そのあたりで、僕の学生生活に変化が起きるきざしはついえているといっていいと思う。
普通に考えてみよう、人にぶつかる確率ってものは意外に低い。まず避ける。ぶつかったらああんこらどこみとるんじゃわれぇと言われそうな人だったらさらに用心して避ける。そういうわけで、そもそもぶつからない。
で、女の子とぶつかる確率? 笑わせるなと言いたいとことだ。
あっちから避ける。というかこっちから近付いても避けられる。
「あの」
あれ、人が近づいてきた。
「大丈夫ですか」
「え、なんでです」
「服、血まみれですけど」
「……そうでしたっけ」
誰かを刺したわけじゃないと思うし、車にひかれた記憶もない。とするとなんだろう、何かほかの原因でもあるのか。
二分後、僕は警察の人につかまった。
◆
フザけているとしか思えない話だ、とビイは思った。
(便ぎ上人物の名前はただのアルファベットであるが、腹を立てたりせずに、ご了解いただきたい)
「気が付いたら血まみれになってました。この言い訳が通ると思うか、ん?」
「いえ、実際そうなんですよね」
これだ。この学生の態度が死ぬほどムカつく。取調べというものはそんなにどうかつ的にやっていいものではないはずなのだが、ビイはようしゃするつもりは一切なかった。
「頭の上から血のりが降ってきたとは言わんだろう」
「だったら頭にもついてると思います」
あくまで常識の範囲内に収まってはいるが、それがこの異常な事件の解決に何らきよするものではないことは明らかだ。
実際のところ何も起きていないので、この少年を取調べすることすらできないというのが現状だ。だがかん別所に送るくらいはそう難しいことではあるまい。明らかに精神さく乱の域である。
「ビイ、どうだ」
とりあえずエイ少年を部屋に置いたまま、ビイはシイ刑事と話し込んでいた。
「さっぱり要領を得ませんね」
「そうだな……。気が付いたら血まみれだった事件なんて、他に例がないものなァ。こっちもどうすりゃいいのかさっぱりだよ。親には連絡がつかないし、学校の友達も、ごく普通の少年だっていうしなあ。意味が分からん」
ビイとシイはしばらく黙りこんだ。
「身体検査でも、変なものを持っているわけじゃなかった。その他薬物やなんかの兆候も見られない。実際、お手上げさ」
「シイさん、家たく捜索はできませんか」
「馬鹿野郎、どんな事件かも分からないのにできるかよ。できる機会があるとすれば、確実に事件性があると認められたときだけだ。家族構成の話はどうだった」
ビイは要領よく答える。
「ええ、母子家庭で弟がいるようです。ただ弟のほうは、今日は登校していないとのことでした。俺の勘ですが、あいつは何かを隠している。少年エイ…… 笑えませんよ」
「まあ仕方ない、あいつを帰すぞ」
「はい」
ビイはエイ少年を返した。学校側は先にそれを欠席扱いしたらしく、エイ少年は尾行にも気付かないままに家に帰ったらしい。
エイ少年の略歴は、非常に簡素なものだ。
マルマル保育園に二歳のころ入園、五歳になると卒園。近くのマルマル小学校に入学し、六年で卒業。そしてマルマル中学校に入学し、三年で卒業している。
高校はナントカ高校を受験して失敗、近くのマルマル高等学校に入学していた。受験の失敗の原因は、そのとき母親に買ってもらったスマートフォンでゲームにはまったからだろう、という友人の推測である。
母子家庭になった原因は、ありきたりなものだが父親の暴力だ。母親が耐え切れず身の危険を感じて離婚し、バツバツ市からマルマル市へ引っ越したようである。
弟とは年子で、仲もよい。二人とも喫茶店や運送会社でアルバイトをしており、人づきあいがうまいためか、人気者だったようだ。
家庭に問題はない。発見されやすい体育の着替えなどの際にも、虐待の痕跡なども発見できていない。
「おい、弟の出発時間を過ぎているぞ。それに母親だって今日は出勤していないそうじゃないか」
デー警部は言ったが、ビイとシイは嫌な予感にとらわれていた。
「エイのほうも帰ってすぐ買い出しに出るはずなんですが…… 近所の人の目撃情報からすると、もう二時間は遅れています」
「となると、エイも弟のイイも、それどころか母親のエフさんも中にいることになるんじゃないか」
「えっ? そ、そうですが……」
ビイは嫌な予感を強めていた。
エイ少年を、確かに身体検査したことを覚えている。その際、胸から腹あたりはひどく血のりがついていて、じめじめと湿っていたのだ。だが、そこまでの権限がないために、所持品検査しかしなかった。
そのとき、恐ろしい叫び声が響き渡る。それはあたかも地獄に落ちることに気付いた罪人が、あまりの恐ろしさに気絶したかのような叫びであった。
「突入しましょう」
ビイが突然言い出したため、デー警部はそのカンを信用して、至極一般的な赤い屋根の家に入った。黒いドアを開けると、丁寧にそろえられたエイの靴がある。
「間違いない、誰も外に出てませんよ」
「母親が用意するものだとすると、エイは今日、まったく一人のままで外に出たことになるんじゃないか……?」
少しずれた形跡のあるマットを踏み、ビイとシイ、デー警部はエイ少年宅を捜索し始めた。
「おかしなものはないな」
「しかし、掃除したあと使ってないみたいに見えますね」
リビング、トイレ、風呂、どこにもおかしなものはない。物置にも奇妙なものはなく、ほこりがあるくらいだった。
「よし、二階だ」
ビイは、自分の予感が当たったことを知った。
「一階に個人の部屋がありませんでしたよね」
「あ、ああ…… まさか!」
あの少年らしく、ある程度の丸みを帯びつつ角ばった、つまり通りいっぺんの特徴のない文字で「エイ」と書かれたネームプレートを押しのけるようにして、エイ少年の部屋は開いた。
「……どういうことだ」
布団のカタログにでも出てきそうな安らかな寝顔のエイ少年が、どうやら今日一日ベッドから出ないまま、毛布に包まれていた。ちょうど心臓のあたりに、牛刀が深く突き刺さっている。胸元から腰にかけて、毛布と敷布団は真っ赤だった。
「貫通してますね、なんてチカラだ」
「いや、えにへこんだ跡がある。金づちで打ち込んだんだ」
学生服は、ほこりが積もった形跡こそないもののそのままかかっており、少なくとも昨日学校から帰ってハンガーにかけたあと一度も触っていないようだ。
シイの言った通りに、木のえにはへこんだ跡があり、銀色の何かがこすったようについていた。何度もたたいたらしい。
「エイはいったい、いつ死んだんだ……?」
「もう冷たいですね。十時間単位で過ぎてますよ」
「そうなると、取調べをしていた時間にはすでに冷たくなっていたことになるじゃないか」
「どういうことなんですかね」
隣の、弟であるイイの部屋に突入した彼らは、さんびを極める光景を目にすることになった。
「ひどいですね……」
抵抗しながら死んでいったのだろう、恐ろしい表情だ。パジャマには血に染まった切り傷がいくつもある。どうやらのど笛を裂かれたことが原因で死にいたったらしく、部屋中が血まみれである。
「ビイ、見ろ。乾いている」
「デー警部、これだと母親も死んでいるかもしれませんよ」
「そうだな、突入するぞ」
エイ少年一家は全員が殺害されていた。凶器はエイ少年の胸元に突き立っていた牛刀である。シャワー室には血痕を洗い流すなど使用した形跡が残っており、着替えなどを持ち込んだ周到な計画殺人であったことがうかがわれた。
荷物を持った男を家の中に入れたことから母親エフの離婚した夫であるジイが疑われ、またジイの自宅のな屋から処分される前であった血まみれの衣服が発見された。ジイは緊急逮捕され、事件は無事に解決した。
「ビイさん、どうかしたんですか」
後輩刑事のエイチ、そして先輩刑事であるシイと一緒に鍋をつついて酒を飲む。仕事上がりの日常的なそれである。だが今日だけはあまり酒に強くないはずのビイが積極的に盃を干していた。いつもなら一時間で一杯飲むかどうかというところに持ってきて、まだ三十分しか飲んでいないのに五杯も干しているのだ。後輩が心配するのも無理はない。
「一家殺害事件の話ぃ。あれよぅ、どうしても納とぐできねえ」
「大丈夫ですか、そんなに酔っちゃって。加害者は確かに恐ろしいやつでしたけど、死刑判決が下ったんでしょ。納得できないことなんてないですよ」
要するに危険なサイコパスの典型的な例そのものであった。
「ちがぁう! そこぢゃあねぇんよ。エイ少年、いたろぅ? あれはよう、ちょうど起きる時間の一時間前にしんデたんだょ。だったらよう、俺たちの目の前にいやがったのはなんだってんでぃ」
「感傷的になるのもわかりますけど、幻覚か何かですよね」
「確かに見た…… って言いてえとこだが、心理学専攻してた身としては保証があるなんて言えねえな。ビイ、お前も確かに見たろ。ぜんぜん何ともなさそうに歩いてるエイをよ」
「ぅうう、もうあがん。聞いたんだよ、悲鳴を。エイの悲鳴だよ。死んだことに気付いたんだよぉう」
ビイは完全につぶれてしまった。
「なんですか、悲鳴って」
「エイ少年が家に入ってくのを見届けて、俺たちは捜査情報を確認してたんだよ。そこで、地獄から聞こえたみてえなすんごい悲鳴が聞こえた。ありゃ幻だ」
エイチは、想像しないではいられなかった。
いつものように出かけて、たまたまちょっと変な目にあって、帰ってきた家はやっぱり誰もいない。玄関に靴をそろえて小用を済ませ、二階に上がって、自分の部屋で見たものは。
自分が死んでいる、ところだというのか。
瞬時に、自分が血まみれである理由にたどり着いたはずだ。そして普通とは逆の道筋でたどり着いた結論に、悲鳴を上げた。
「幻、ですよね」
「磁気の強い場所だと幻を見やすいってのはある。だが地盤にも建築材料にも、それらしいものはなかった。俺たちが勝手に見た、昼間の夢ってやつさ」
酒を飲んで、もういいくらいに酔っているころあいのシイは、いつものような赤ら顔ではなかった。
「孤独死した老人だって出ねえんだぜ。間抜けにもほどがあるよ」
「ですよねえ」
エイチは、ちらと窓の外を見ようとして、自分の顔を見た。
……自分の部屋に、今は誰もいないはずだ。
「すいません、ビール、ジョッキで」
エイチは、酔うことに決めた。
もとは文芸部に提出するものとして書いたのですが、雰囲気からするとこっちでもいけるかなと思いこっちに投げました。部活動はいろいろ大変ですが、副作用もあるので悪いことばかりじゃありませんね。
KADOKAWAの配本形式(確実に売ってくれる書店にだけ新刊を送る……らしいです)をネットで見て「やべえ、地元の本屋さん壊滅しちまう!」などとあらぬ心配をした結果、ほしくもない本を買うことに。それでオモシロかったら事実は小説よりごほんげふんだったのですが、買った「聖剣のソードラビリンス」という電撃文庫のライトノベル、正直言ってあまり面白くなかったのです。文章が若い…… って、私もまだそれなりに若いんですけどね。そのうえなんだか「なろう系」とか「最近のライトノベル」って言葉にぴったりくるような……。ステマじゃないんです。マジですよ。
そういえばいつだったか紹介した(?)作品「きらーず!」をここに投げることにしました。超短い連載の連続。完結する分だけ書いてからすぐ完結させる方針です。




