表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「瞬間的な短編」集  作者: AK(r
3/13

3 屋根裏

 さて、今宵も丑三つ時がやってまいりました。


 今回はY県在住のH様のお便りをご紹介します。


 少女の部屋に現れた一匹の蛾。それは、惨劇の幕開けに過ぎなかった……!


 お楽しみに。

 そのころは高校に入って初めての冬で、彼氏ができるかどうか友達と賭けをしたり、面白いお話をしたりというのが日課でした。


 もちろん勉強も忘れていません。ちゃんと一日二時間は勉強しましたし、その成果もあってか、国語の成績はクラスで一番になったこともありました。


 そんな風に毎日勉強していると、何か起こっても気付かないこともありました。ちょっとゴキブリが足元を通過して行っても、見ていなくて知らぬが仏状態だったり、蚊に刺されても気付かないで、学校に行って初めて気がつくことさえありました。


 ある夜、カーテンに蛾が何匹も止まっていて、私は悲鳴をあげました。あんまりにいやらしい模様だったし、そんなにたくさん、とはいっても本当に数匹だったのですが、蛾が集まっているところなんて見たことがなかったからです。


 悲鳴を聞きつけた父が蛾を全部叩いて外に追い払いました。父はこういった虫に詳しくはなかったのですが、調べてくれて、これは死体にたかる蛾だ、なんて不吉なことを言いました。


 でも私は、その意味をしっかりと分かってはいませんでした。






 発端は、母のパジャマがなくなったことでした。


 冬だったので部屋干ししていましたから、一軒家に忍び込んでそんなことをする勇気のある泥棒はなかなかいないはずだ、と父は言いました。一軒家とはいっても私と母が一緒に出かけると、まったくの開け放した家も同じようなものなので、その隙なら忍び込めるんじゃない? と父に言うと、ああ、そうか、と父は言って、防犯対策グッズを買ったりしました。


 次に盗まれることになったのは、奇遇にも私のものでした。


 まさか盗まれているものはないかとちょうどクローゼットを開けると、ワンピースに虫食いの穴が開いてしまっています。昔に買ったもので、もう入らないとはいえ大事にしていたものなので、きちんと洗濯した後に捨てようと母に言いました。


 でも、今度はそれがなくなって、まったくわけがわからなくなりました。そばにあったタコアシに下がっていた父のトランクスもなくなっていたのです。でもどうしてか、私と母の下着はとられていませんでした。行動に一貫性がない、と父は嘆いていましたが、その目は燃えるようでした。




 今から考えればがてんがいくのですが、犯人は人間に想像できる理由ではない理由でそれを盗んでいたのです。それを父は分かってしまったばかりに、あんなに恐ろしい行動に出てしまったのでしょう。




 ちょうどそのころから、屋根裏を歩き回るような、とても小さな足音が聞こえるようになりました。なんどか父が屋根裏を覗きに行ったりしましたが、ちっとも音の正体は分かりませんでした。


 おおかたネズミだろう、と父は言いましたが、明らかな敵意が見えました。父はこういうとき思い切った行動に出る人です。


 ネズミを倒しに行く、と父が言ったので、私たちは止めました。


 父がネズミに負けると思ったのではありません。父が何か危険なものを見つけてしまったのだと、その目から確信したからです。あんまりに父が恐ろしい目をしているので、とうとう私たちは止めることができず、父は屋根裏に、ネズミ退治に行きました。






 トタタタタ、と歩きまわる音が聞こえました。ネズミが逃げているのに違いありません。そのあとをギ、ギ、と父の重い足跡が追いかけていきます。


 バシン! と何か叩きつけた音がして、軽いトタタ、という足音がとんでもなく早くなり、スタタタタッ! と屋根裏中を駆け回りました。父よりは軽い足音ですが、ネズミとは思えませんでした。やはり父は恐ろしいものを見つけてしまったのです。


 バンッ! バシン! と大きな音が響き、最後にガツッと、まるで頭をげんこつで殴りつけたような音がして、私は思わず父に怒られた時のことを思い出しました。父はすぐにげんこつでなぐったりはしませんが、くどくどと説教するか、げんこつを一発ですませるか、どちらかなのです。


 しかしそれっきり父の足音以外は聞こえなくなり、ネズミが死んだことが分かりました。屋根裏にネズミがいなくなって、私はほっとしました。


 でも、本当に恐ろしいのはこれからだと、私は知らなかったのです。






 ちょうど勉強しているときに、またもや蛾が、前よりもずっと多くカーテンにへばりついているのを見て、私は悲鳴をあげてしまいました。父はすぐに追っ払ってくれましたが、私のほうをにらみつけました。


 それの意味もわからずに私はご飯を食べて、お風呂に入ろうと思いました。でも脱衣所にすら蛾はいました。そして寝る時も、また壁に蛾は貼りついていました。もう自分で倒したのですが、慣れることはできません。


 数日経って、私は唐突に、「死体にたかる蛾だ」と父が言っていたことを思い出してしまいました。知恵袋などで確認してみますと、死体があるかなり近くにしかいないのだそうです。数匹まとまっていれば、間違いなく屋根裏か床下に何かが死んでいると、回答者さんは答えてくれました。


 ここで不気味だなと思うだけだったら、私はトラウマを抱えて生きなくても良かったのかもしれません。でも好奇心は猫をも殺すという言葉通り、私は好奇心に魅入られて、とうとう実行してしまいました。




 父は出かけていました。母も、別のところに出かけていました。


 絶好の機会なので、私は現実的に死体がありそうな屋根裏を、懐中電灯を持って覗きこみました。はしごもあります、私は不審なもの影も見つけることなく屋根裏に侵入しました。


 ライトを左右にゆらゆらと動かすと、さすがに不気味です。雰囲気が出るというよりも、闇を切り開くことそのことに闇が怒りはしないかと、そんな変なことを考えていて、私は妙に冷静な気分でした。


 ライトの光の中に、私は赤いチェックを見つけました。父のトランクスです。そしてその下には母のパジャマがありました。どうしてか私のワンピースは横に取り除けられていて、ほこりをたくさんかぶっていました。


 でも、変なのです。


 母のパジャマは、中に何か小さなものが入っているように膨らんでいました。具体的な形は分かりませんが、長い紡錘形、フランスパンのような形でしょうか。でも先は膨らんでいます。どんなものなのかと興味を持って、私はそのパジャマを一息にどけてみました。


 誰の悲鳴が聞こえたか、私の悲鳴に間違いないのですが、冷静な部分はそれを否定していました。


 ミイラになった小人です。そうとしか思えませんでした。小人は精霊です、死体など残るはずもありません。だから現実だと、冷静に分析し、何が起こったのか、目の前の現実を受け止めるために必死に考えました。


 小人が暖をとるために温かそうな母のパジャマを盗み、枕にでもするのか父のトランクスを盗み、仕上げに柔らかくて温かい私のワンピースを盗んだのでしょう。私はそのワンピースを寝間着に来ていたことを思い出しながら、そう考えることにしました。


 でも、小人の後ろに、大きな血しぶきのあとがあって、私は大きな悲鳴をあげてしまいました。それがどの程度聞こえたのか、そんなことは分かりませんが、どうしたっ! と父が駆けつけてきたことを覚えています。


 お父さん、小人が、小人が! と言いました。


 上ってきた父はハンマーを持っていました。父は「ネズミじゃなかったのか」と言って遠巻きにして小人を見ました。父も、さすがに触れなかったのかもしれません。これどうするの、と言いながら私はもう一度小人に近寄ってみましたが父は近づいてきません。


 そして、目の前が真っ白に光ったように見えて、私は倒れました。






 気が付くと私は縛られていて、口にもガムテープが巻かれていて、動くこともできませんでした。目の前にまた布をかぶせられた小人の死体があって恐ろしくてなりませんでしたが、よくよく考えてみれば父がこんなことをしたのだ、と気付き、泣きだすどころの騒ぎではなくなりました。


 下で父と母が「誘拐された」「どうするの、連絡はないの」と非常にあわてた様子で、声を高くして話していました。


 ええ、間違いありません。父は私と小人の死骸を、母の目を盗んで捨てに行くつもりです。何としてでも母に父にこんなことをされたのだと知らせなければなりませんでした。しかしそんなことを許す父ではなく、もちろんのこと手も縛られて動くわけもありませんでしたし、足だって動きません。


 死んで、捨てられてしまうと分かって、私は泣くことしかできませんでした。私だって、今が旬とばかりに年ごろの娘でした。彼氏ができるかどうかの賭けなんかをして、この前までそんなことを言っていたのが悪い夢のようです。


 それが、目の前のミイラのようなものに変わってしまうのでしょう。だんだんトイレに行きたくなっていきます。屋根裏に入るために穿いてきたズボンは汚れていやな匂いを放つに違いありません。いつか頭を砕かれて、もしくは飢えて渇いて死んでしまい、あの蛾がたかって、二目と見られないものに変わってしまうのでしょう。


 そうして私は泣いていました。


 でも、すぐに黒服を着た警察の人が来て、ガムテープをはがして、小人の死体を持って行きました。


 父は逮捕され、母が連絡してくれたのだと知りました。母には小人のことは知らされていなかったようですが、私も詮索してはいけないと言われました。都市伝説のひとつだとは思いますし、そもそも見たことを信じたくもありませんでした。警察からの保証はありましたし、迷惑料のようなものも支払われました。


 でも、父は帰ってきませんでした。殺人未遂は分かります。でもよく知らない罪状が書かれていました。


 妨害罪、だそうです。

 惨劇とか言ってるのに助かってる件。


 十二話構成でアニメっぽくしようかな、なんて思っているのでときどき続きそうになることもあるし、オチが怖くないこともあります。というかほとんど怖くない、読むこと自体がミステリーと言われる文章なので。


 読むの、そんなに難しいんでしょうか。


 次回は「ミール」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ