11 現在進行形、再現性あり
さて丑三つ時になってまいりました。
メールで届いたお便りを掲載いたします。
いつもの風景はいつも通り。何回見ても、同じ……。
お楽しみに。
えっと……ここって、起きたことを報告するとか、そういうところでしたよね。ならその、えっと――いま現在起きてることを報告するのってどうなんでしょうね。やっちゃいけないのかなあ……まあその、書きたいんで書きます。
あ、いやその、違うんですよ……恐怖体験とかじゃないんですよ。ぜんぜん怖くないです。というか、ちょっと不思議なだけっていうか。ほんとになんにもないですから。
よく行くところに、デパートと警察署が近いところにあるなんて変な場所がありまして。まあ警察署に用とかないんで、デパートに行くんですけど。デパートなんですごい広くて、映画館とかいろいろあるんです。もっぱら映画見に行く感じですかね。
デパートから帰るときに、横断歩道の向こう側に警察署があるんですよ。わりと凝った建物で、道路側は全面ガラス張り、空が反射して綺麗なんですけどね。
そうそう、中央の部分に八角形くらいのとこが突き出してて……そこはいろいろ反射してて、あちこちのビルが写ってるんですよ。近くにあるハローワークとか、向かいのデパートもそうだし、アパートも写ってる。
――それで、なんですよ。いっつも警察署に背を向けて横断歩道を渡るんで、写ってる方向に対応した向きを見れば八角形のぶん、八面全部を見渡せるわけなんです。ところが右から二つめの面に写ってるビル、これには見覚えがなくてね。太陽光発電のパネルが貼られたなかなか珍しいやつなんですが……どうしたものかなあ、と思ってそっちの方向を向いたんですけど……違うんです。
ビルじゃない。そこにあるのは真新しいアパートで、入居者募集の札がかかってる。当然その奥側にもビルはありませんし、太陽光発電のパネルなんて見当たりません。
――ところがね? そのアパートが警察署の八角形のガラスに写ってないってわけじゃないんですよ。左から四つめの面に、赤っぽい壁のアパートが写ってるんです。特にへんなところがあるわけじゃなく、現実の姿そのままで。
ここまでだと、ほら、アパートの方向にはビルがあって、ビルの方向にアパートがあるんだと思うじゃないですか? 違うんです。
ビルは、どこにもないんです。
まあビルってのは無個性ですから、普通なら「見間違いかなあ」とか「色が似てるから」で通すところなんですけど。警察署の八角形、右から二つめには確かに太陽光パネルが側面に貼ってあるビルが写ってます。左から四つめの面にも、赤っぽい壁のアパートはあるんですけど……窓に写っている世界は、現実に対応してないんですよ――
っていうとその、すいません、違うんです。それ以外は普通なんです。
アパートはちゃんと写ってます。それに、ハローワークもちゃんと現実に対応した方向にきっちり写ってるんですよ。ただ、アパートは変な方向に写ってるし、ないはずのビルがなぜかある。ここが不可解なところで……。
ビルに人がいるところは見たことないです。昼間に近寄るんで、オフィスの電気が付いてるかどうかもちょっと分かりませんね。だから、いわゆる恐怖体験じゃないんです。何かがいて、こっちを見たとかだったらめちゃくちゃ怖いんですけど……ないんです、そういうのはぜんぜん。
昔何があったかの資料とかを見てもビルはないですし、アパートもめっちゃ人気みたいで、五十年は持つだろうって話ですね。オーシャンビューなんですよ。
一度とかだったら、見間違いとか恐怖体験なんですけど、いつ行ってもこうなんですよ。何回見ても変わらないんです。友達に教えて一緒に見ても、確かにそうだって言われましたから、自分だけの幻覚ってわけじゃないみたいなんです。
いやほんと、怖くない話ですいません。何なんでしょうね、これって?
やっぱ、思いついたネタはすぐ書かないと劣化しちゃいますよね。三日前に思いついて、昨日書いたものです。あまり怖くなかったので、最終話は「作者が見た怖い夢リスト」でも挙げていきましょうかねえ。