俺の名はゴリラ
地上最強の生物はゴリラ。
強さの所以はそのパワー、そして兼ね備えられた知能。
かぼちゃを片手で握り潰し、ナットを変形させ500円玉を捻りつぶす。
そのくせ割とデリケートで危険な事には敏感、器用に武器も使いこなし飛び道具もある。
そんな持論の元、俺に地上最強の生物と認定されたそいつは今や俺の異名。
俺はゴリラ。
最強の生物の異名を持ちこの世界に君臨する。
「座れ」
そんな俺が何故に。 この焼付くアスファルトの上
「違う、正座だ」
膝を折り地面にお尻を付こうとしたところで、この一声に動きを止める。 俺は体操座りをしようとしていたのだ。 だって短パンだから。
あろうことに地上最強の俺はこのアツアツの地面に自らの足が焼かれることを恐れたのだ。
体重を前に落とし状態をそのまま、誠意の頂きに座するそれに変える。
俺の後ろでは田んぼを一つはさんだ向こう側の道から俺の友達と学校帰りの小学生たちが俺を指さし笑っている。
「こっちを見ろ」
そして俺の目の前では道路の真ん中に立ち、その端で地面に膝を付けたり離したりしている俺にその強面な顔を向ける男。
まっさらな白衣を身に付けながらも、首元からはみ出るアロハシャツがどこか印象的なその男は何を隠そう俺の父親。
例え俺が地上最強の生物の異名を持とうとも、少なくともこの町での最強は彼である。
「とりあえず、一発殴るぞ」
有無を言わさぬその宣言をして俺に一歩ずつ近づいてくる。
そして、膝に向けられた俺の視界に彼のボロボロで安っぽい革靴が入ってくると同時に俺は力み目を閉じた。
鼻で空気を軽く吸い、息を止め、歯を食いしばり意識を当て、頭上に防御力を集中させるイメージ。 大量の汗が目ともみあげの間を流れ、血が音を立てて頭の中をかき回すのが聞こえる。
その効果があったかはわからないが、その僅か数秒後に俺の「腹」に当てられた「蹴り」は、ゴリラの異名を持つ割にはひょろひょろの俺の体を容易く浮かし、真後ろの田んぼへと続く草の坂へと落とした。
草を滑り、頭が泥へと浸かるその瞬間俺は走馬灯のように記憶を思い返していた。
何故にこんな事になってしまったのか。
時は遡り約3時間前。