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Lost5.0 運命の日(下)

[2/28 13:00] 喪失の回廊 第10回廊 マスターエリア


「すぅ・・・はぁ・・・」

 大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。これから始まる戦いでは、一瞬の気の緩みも許されない。その全てが必殺の一撃となりうる敵、白銀の巨体を持つ最強クラスのドラゴン『ホーリードラゴン』・・・今再び奴と対峙する。

一度は微かに見えた勝利をつかめず、奴の一撃の前に地に伏すこととなった・・・だけど、今は違う!今俺はあの時つかめなかった勝利をつかむだけの可能性を手にした・・・


「絶対に・・・勝つ!」

 目の前に現れたドラゴンに向かって力強く言い放つ。


[2/26 3:36] 喪失の回廊 第1回廊。


 ホーリードラゴンのブレスで即死した俺は、昼間であったがそれ以上レベル上げをするだけの気力が出ず普段なら帰らない時間に宿へと戻りそのまま深い眠りに落ちた。


「・・・やっぱ、早く寝過ぎた」

 目が覚めたのは日付が変わってすぐの1時半ごろだった。いつも通りの時間で狩りに行くとなると後2,3時間ほど暇をつぶす必要がある・・・よって今日は早めに出ることにした。そもそも今日はレベル上げ以外にも確認したいこともあるし、時間は多いに越したことは無いだろう。

 『ブラックブリンガー』・・・同時に習得した『シャドウクラスター』は『ブラッククラスター』の上位魔法だというのはわかるが、ブリンガーの名は初めて聞いた。どんなスキルなのかまるでわからないこのスキルの試し打ちこそレベル上げ以上に重要な今日の目的であった。


 そして一時間ほどブラックブリンガーを試し撃ちし、この銃撃魔法について解ったことは・・・・「極端すぎる強化が施されたクラスター魔法銃撃魔法」だった。

 基本的にはクラスター魔法と同じく、複数の魔法陣を展開し、広範囲に向けて撃ち出す銃撃魔法。だが、使ってすぐにわかったクラスター魔法との相違点は冷却時間の差だった。ブリンガー魔法の冷却時間の短さは驚くほど短く、最低ランクの魔法バレット魔法並みに冷却時間が短いため非常に連発に向いたスキルだったし、威力も若干ではあるがクラスター魔法よりも強い。前回ホーリードラゴンにやったようにこのブリンガー魔法の魔法を一体に全て叩き込めればかなりの火力も出せる・・・だが、消費MPの量はカノン魔法とほぼ同じで多い・・・その結果、MPが湯水のごとくなくなってしまう高コストの魔法だということが分かった。

 このことから・・・この銃撃魔法が扱い辛い魔法だと感じた。そもそも範囲攻撃ならば冷却時間の長さに難があるとはいえクラスター魔法で十分事足りてしまうのだ。無理に範囲攻撃にこだわるよりも、ブリンガー以外の銃撃魔法を駆使して戦う方が全体の効率は良い・・・いくら火力があって冷却時間が短くても・・・MPが簡単に尽きてしまうようなブリンガーを使うよりも戦況によって使い分けられる他のスキルの方が圧倒的に使い勝手はいい。


 普通に考えればこのブリンガー魔法は使用を避けるべきだろう・・・高コストだけが目立つ『使えないスキル』なのだから・・・だけど、俺にはそれができなかった。このブリンガー魔法は俺と同じ(・・・・)・・・そう感じるからこそ捨て置けない。


「ほんの少し試した程度でそいつの全部を解ったようになるなんてダメだ・・・きっと・・・きっとこいつだって・・・」

 このブリンガー魔法は、スペルガンナーというだけで笑われ見下された俺と同じなのだ。上辺だけの情報だけを鵜呑みにしてその先にあるかもしれない可能性を殺されてしまう・・・今俺がこの銃撃魔法を切り捨てるということは今の俺という存在を否定することにもつながる・・・だから俺は決めた・・・


「見出す・・・こいつにある可能性をゼッタイに!」


[2/28 13:20] 喪失の回廊 第10回廊 マスターエリア


「よっと・・・『シャドウバレット』!」

 ホーリードラゴンに対して前回と同じように奴の攻撃をかわしながら撹乱しつつ、シャドウバレットを確実に叩きこみ体勢を崩したらすかさずシャドウカノンを叩きこむ・・・時間はかかっても着実にダメージを重ねて行く。これはまだ本番前の前座の様なもの・・・本番は奴がブレス攻撃を構えてからだ・・・


「・・・きた!」

 大体もくろみ通りのタイミングで奴がブレス攻撃をしようと身構え始めた。全身のエネルギーを身体の中心に集め、口から放出しようとしているのを全身が感じ取り危険を知らせる。危険・・・そう、このまま何もせずに奴にブレスを使われれば俺は回避しきれず前回の二の前になる・・・だが今は違う!確かな可能性を携えて今いるのだから!


「存分に喰らえ!『ブラックブリンガー』!!」

 力強い宣言に呼応して、複数の魔法陣が一気に展開する。そして、魔法陣から射出された黒い閃光は全て一点(・・・・)に向けて撃ち出される。向けた先は今まさに、ブレスを吐かんとしている奴の顔面だ。ブレスの溜めに入っていたホーリードラゴンは避けることが出来ず全弾命中。破れかぶれに痛みに身悶えながらブレスを使うがそんな苦し紛れの攻撃は俺を捉えきれる訳もなくブレスを難なく回避出来た。


「・・・よし!」

 痛みにもだえる奴を見て俺は自分の勝ちとった努力の結果をかみしめていた。ブリンガー魔法を使うと決意しひたすらに使い込み、検証を重ね・・・ついに見出した『任意照準』。

自分で名付けたそれは当たり前の様で、しかし今までできなかった特性にして技術。発動した銃撃魔法は原則として、発動者の構えた銃の銃口を基準に魔法陣を展開位置と射出角度を決定する。つまり、銃口が地面を向いていれば銃撃魔法も地面に向けて展開し、魔法を撃ち出す。

しかし、任意照準は自分の意思で展開した魔法陣から撃ち出す魔法の射出角度を変更できる。つまり例え地面に向けて発動したとしても真逆の天へと撃ち出すことも可能ということだ。


 この任意照準を使うことによってブリンガー魔法は、カノン魔法以上の火力スキルへと姿を変えた。おまけにカノンと違い多少敵が避けようとも確実にダメージを重ねられる上に、第二波への布石にもなるためカノン以上に確実で高いダメージを与えることができる。当然MPの問題は解決していないため考えなしに撃てないのは変わらない・・・しかし、使い方一つ変えただけでここまでの変化をもたらした・・・その事実が俺の心を何よりも強く奮い立たせた。


[2/28 13:42]


「くぅ・・・まだ・・・!」

 それまで見えていた勝利の栄光が・・・霞み始めた。


 戦闘を始めてからもう40分以上が経過しているが、未だ奴が倒れる気配は無い。代わりにこちらは奴の攻撃を避けるために集中力を切らさずにいるため精神的疲労が著しい。しかも手持ちの回復薬が底をつき始めていた。もともとMPの消耗は理解していたし、攻撃も一撃食らえば即終了の時点でHPはあってないモノと考えMP用の回復薬だけを持てるだけ持ち込んだというのに・・・もうほとんどない。この回復薬が尽きれば俺に攻撃の手段は無くなり・・・


「くそっ・・・倒れろ・・・倒れろ・・・倒れろ!」

 もはや意地とも呼べない気力で必死に攻撃を重ねる。祈る対象すらないのにひたすら祈るように撃ち込んでいく・・・ただ倒れろと。気の遠くなるようなギリギリの戦いを延々と続ける。その先にある勝利を求め続ける。


 だが、そんな祈りも虚しくホーリードラゴンはここまでの攻撃を耐え抜き確実に狙いを定めている。奴はきっと解っているだろう・・・目の前の敵は自分のどんな一撃でも倒れると・・・だが、それでもあえて自分の最強の攻撃で倒したい。己が存在を揺るがす小さな敵への最高の敬意として・・・


「『ブラックブリンガー』!・・・・・・!?」

 そして、奴はブレス構えた。俺は迷わず奴の顔に向け魔弾を撃ち込む・・・だが、奴がひるまない!奴は俺の一撃を堪えこちらをはっきりと見据えている。


――次の一撃はもう・・・避けられない。


 無慈悲な事実を俺は・・・自覚する。こうなった以上俺に残されたのは・・・敗――


「まだだ・・・まだだ、まだだ、まだだ、まだだ、まだだ、まだだ!!まだ終わってない!まだ・・・負けてないんだ!」

 くじけそうになる自分を鼓舞する。止まるわけにはいかない、やめるわけにはいかない。諦めたくない・・・そう強くなるんだから・・・!


スキル『シャドウブリンガー』を習得しました。


 システムが俺の気持ちに呼応するように新たな力を与えた。俺はそれを見て直感し、覚悟する・・・残された手段・・・奴のブレスを突破し、勝利をつかみ取るための最後の一手。


「一つに・・・一つに、一つに!一つに集え!貫く為に、勝つために!『シャドウブリンガー』!!」

 極限状態に達した俺が行きついた『任意照準』の次のステップ『任意展開』。合計で10もの魔法陣が俺の意思に従い、縦一列に並んで展開する。展開した魔法陣から撃ち出される黒い閃光はもはや小さな点ではなく一本の線となり、ホーリードラゴンが放つブレスとぶつかり合う。


「つ・・・ら・・・ぬ・・・けっぇぇぇぇぇぇ!!」

 激しい相殺現象が起き、両者の力がぶつかっては消滅して行き・・・


 二つの力は等しく消えた


「『シャドウブリンガー』・・・!」

 今の一撃で意識が飛びそうになる中、最後の、勝利への一撃の・・・引き金を引く。ブレスの硬直によって避けることのできないホーリードラゴンは・・・静かに己が最期の一撃を甘んじてその身に受け止める。


[2/28 13:52]


「・・・・・・・・・」

 後に残ったのは耳が痛くなるほどの静寂と、地に伏す一人の少年だけだった。彼にとって長い・・・とても長い戦いだった。ホーリードラゴンとの一戦だけではない。彼がこの世界に降り立ってから数ヶ月・・・彼の長い孤独の戦いに今、ピリオドが打たれ――


『[Lost No.001]アルス・マグナ』を取得しました。


 ここから彼にとって本当に長い・・・長い戦いの日々が訪れる。それを告げたのは一丁の銃・・・


――最初の『Lost No.』――

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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